ナイトコードオメガ【残響の封印】 第三章 イエローナイフ編

神北 緑

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ナイトコードオメガ【残響の封印】 第三章 イエローナイフ編

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ロンドンの事件を背にグレイヒルの真実は落とされた。
ルクジムの予知に導かれ、セシル、そしてスーマはカナダへ旅立った。


イエローナイフ ― 聖地の果て

世界の果てに、夜が息づく場所がある。

カナダ北部、ノースウエスト準州。
イエローナイフ――氷と光が交差する静寂の都。

冬の空は深く、星は凍てつくように瞬き、そして夜空を裂くように現れるのは、緑と紫の光の舞――オーロラ。

それはまるで、天と地をつなぐ古の呪文。

風は語り、雪は記憶を刻み、湖は鏡のように、空の秘密を映し出す。

ここでは、時間が止まる。

いや――時間そのものが、別のリズムで流れているのかもしれない。

イエローナイフ。

そこは、現実と幻想の境界が最も薄くなる場所。


渓谷の谷間に連なる山脈。

瘴気とも霧ともつかぬ靄が、山肌を這うように漂っていた。

その中心、岩壁にぽっかりと口を開けた洞窟がある。

まるで呼吸するかのように、その奥から淡く怪しい光が滲み出ていた。

焦げた鉄のような匂い――。

人間を拒み続けるその空間は、自然の一部でありながら、どこか異質だった。


その時――静寂が裂けた。

木々が悲鳴を上げるように軋み、枝が折れ、幹が裂ける。

「バキバキッ……バキッ。」

闇を揺らして、巨大なハイイロ熊が姿を現す。
興奮に駆られ、荒々しく駆けてくる。

「ゴアーッ!」

だが、その体は血に濡れ、毛並みは裂け、瀕死の重傷を負っていた。

そして――熊の背後。

さらに巨大な影が現れる。

獣でも、人でもない。
その足音には、重さと“意志”があった。

熊よりも大きく、異形の気配を纏った“何か”が、無言のまま熊を追っている。

「ガアッ!」

その“何か”は、熊の背に手を伸ばし、一瞬で動きを止めた。

骨が砕ける音が、谷を震わせる。

「ゴキッ……バキッ……メキメキッ。」

「ギャゴガーッ!!」

熊が断末魔の叫びを上げ、その巨体はまるで人形のように折れ曲がり、無残に地へ崩れ落ちた。

霧の中に、三メートルを超える影が佇む。

その全身から立ち上るのは、獣ではない――冷たく、澱んだ瘴気。

そしてその瞳は、洞窟の奥で脈動する“何か”を、静かに――見据えていた。


霧の渓谷―封印の番人

午前十時。

イエローナイフ空港に、一台の古びたプロペラ機が静かに降り立った。
吹きすさぶ冷たい風が滑走路を横切り、白い息のように空気を震わせる。

やがて機体の扉が軋む音とともに開き、二つの人影が姿を現した。

「……やっと着いたか。」

先に降り立ったのは、大柄な青年だった。

パーカーのフードを深くかぶり、分厚いブーツで雪を踏みしめる。
その歩き方には、長旅の疲労と、これから踏み込む地への覚悟が滲んでいた。

その後ろから現れたのは、異様な装いの人物だった。

全身を黒いウェットスーツで覆い、厚手の手袋とブーツ。
顔は合皮のマスクに覆われ、その上からさらにサングラス。
そして、どこか場違いにも思える厚手の日傘を差していた。

肌の露出は皆無。――いや、むしろ“人間である”ことさえ感じさせない異質さを纏っていた。

その男が静かに言葉を落とす。

「夜になるまで待ちましょう。」

その一言で、冷たい空気がさらに張り詰めた気がした。

機内で聞いた原住民たちの噂が、ふと脳裏をかすめる。


――人も獣も寄りつかぬ深い山の中に、怪しく輝く洞窟があるらしい。
だが、どうやっても辿り着くことはできず、その存在すら定かではない。
しかも、そこには恐ろしい“番人”がいるという――。


スーマの地図が指し示すのは、その渓谷のさらに奥地だった。

見事な自然の景観が広がるその場所には、ただの森とは異なる、どこか高貴で妖艶な芳香が漂っていた。

それは、草木の匂いでも、土の匂いでもなかった。

――まるで、そこに“何か”が静かに息づいているかのような、異質な気配だった。


霧の渓谷―神秘の洞窟

山間を震わせるような轟音が響き渡り、大地が唸りを上げた。


「ドドドドド――ッ!」

土埃が爆ぜるように舞い上がり、白い霧のように視界を覆う。
その中心で、二つの影が対峙していた。

一方は、三メートルを優に超える獣。
熊をもひねり殺すほどの巨躯が、怒りの咆哮を上げながら地を踏み鳴らす。
地面が震え、岩が砕け、空気が歪む。

もう一方は、灰色の肌を持つ異形の男。
その皮膚には細かなひびが走り、まるで石像のように冷たく硬質な質感を帯びていた。
その瞳には炎の揺らめきが宿り、瞳孔の奥には“契約者”の印が燃えている。

冷徹で、温度を欠いた声が、静寂を切り裂いた。

「生きていたのか。破棄された実験体が、ここで何をしている?」

獣が低く唸る。

「ヴヴ…ッ」

契約者は一歩、淡々と前へ踏み出す。

「俺はオルド・アーク・カナダ研究室所属、パクトユニット構成員コードネーム:ネイビー。お前に用はない。どけ。」

その声には一片の感情もなく、ただ任務を遂行する機械のような響きがあった。

だが、獣の瞳が怒りに赤く染まり、牙をむく。

「ヴァーーッ!」

血まみれの巨体が、怒号とともに突進した。

傷口から黒ずんだ血が飛び散り、雪と混ざって蒸気を上げる。
だが、その動きにはすでに鈍さがあった。
その一歩ごとに、骨と肉が軋むような音が響く。

ネイビーはそれを見据え、冷笑すら浮かべずに言い放つ。

「人工合成人間(フランケン)ごときが、何のつもりだ?」

「ガガッガッ!」

次の瞬間、両者の腕が激突した。

轟音とともに空気が悲鳴を上げ、周囲の木々が根こそぎ吹き飛ぶ。

地面には蜘蛛の巣のような亀裂が走り、粉塵が舞い上がる。
力と力がぶつかり合い、衝撃波が谷を駆け抜けた。

洞窟の入り口が震え、岩肌が軋む。

まるで、この地そのものが彼らの戦いを拒むかのように――。


イエローナイフ―封印の地へ

冷気が、恐怖に変わるほど澄み切っていた。

霧ひとつない夜空には、月光とオーロラが妖しく交差し、まるで天と魔の境界が、静かに揺らいでいるようだった。

遠くの山中から、大地を揺るがすような重低音が響く。

「ゴッゴッゴッゴーッ……」
「ズズズッ……」

その音の源へ向かうように、闇を裂いて二つの影が駆けていた。

先頭を行くセシルが、前方の闇を鋭く見据える。

「急ぎましょう、ルクジム。封印が揺れています。」

「お前のウェットスーツで手間取ったんだろ!」

ルクジムが息を切らしながら、あきれたように言い返す。

背後から、スーマの画面がノイズ混じりに光り、声が割り込む。

「ここからは圏外だ。ネットは使えねー。気をつけろ。」

「おい、ワン公。さっき空港で俺様が頼んだモノ、持ってるな?」

ルクジムが怪訝そうに眉をひそめる。

「ああ。空港のサービスで印刷してもらったQRコードだろ。持ってるよ。」
「……こんなもんで、何をするつもりだ?」

スーマの画面が、一瞬ニヤリと笑ったように光を放つ。

「持ってりゃ良いんだよ。」

オーロラが淡く照らす獣道を、三人は黙々と進む。
空気が次第に重く、鈍く、そして異質なものへと変わっていく。

ふと、鼻を刺すような鉄の匂いが漂った。

「これは……熊の遺体か!」

ルクジムが立ち止まり、茂みの中に横たわる巨体を見て息を呑む。

二メートルを超えるハイイロ熊――その毛並みは裂かれ、血にまみれ、無残に沈黙していた。

セシルが静かに膝をつき、その傷跡を検分する。

「首の周りに……魔法陣の焼き印。オルド・アークの実験体、ですか。」

スーマの画面が警告色の赤に変わる。

「急いだほうが良いぜ!」

風が唸り、空のオーロラが一瞬、揺らめいた。
まるで――この地そのものが、何かを呼び覚まそうとしているかのように。


封印の洞窟を目前に、岩肌に囲まれた狭間で――

激しい衝突が起きていた。

契約者――コードネーム:ネイビー。
そして、合成人工人間:フランケン。

二つの異形が、夜の静寂を切り裂くようにぶつかり合う。

「ガッ、ゴッ、メキメキッ!」

拳と爪が交錯し、岩を砕く音が響き渡る。
飛び散る破片が光を反射し、まるで星屑のように宙を舞った。

フランケンの獣じみた一撃が、ネイビーの胴を裂く。
しかし、その傷はすぐさま蠢き、肉が盛り上がり、瞬時に塞がっていく。

「無駄だ。諦めろ。」

冷たく、無機質な声。
そこには怒りも憐れみもない。
ただ“任務の完遂”という命令だけが宿っていた。

次の瞬間――

ネイビーの拳が、音を置き去りにしてフランケンの胸を貫いた。

雷鳴のような衝撃。
衝突の反動で、フランケンの巨体が数メートル吹き飛び、岩壁に叩きつけられる。

「ガハッ……!」

岩が砕け、飛沫のように血が散る。
地面に伏しながらも、フランケンは呻き声を上げ、震える腕で立ち上がろうとする。

「ヴヴッ……」

その姿は、もはや生者のものではなかった。

だが――その瞳だけは、まだ燃えていた。
守るべき“何か”を失っていない、確かな意志がそこにあった。

やがて、空が震える。

上空からライトが差し込み、ヘリのローター音が夜を裂く。

「バラララララッ――」

ネイビーが光を見上げ、低く呟く。

「軍か……警察どもか? どちらにせよ、これ以上は面倒だな。」

次の瞬間、その姿は霧のように溶け、闇へと消えた。

残されたフランケンは、軋む体を支えながら地面に座り込む。
荒い息が漏れ、肩が震える。

その胸の奥――
不自然なほど強く、不規則に脈打つ鼓動が響いていた。

それは、生への執念か。
それとも、彼を縫い止める“糸”の断末魔か――

誰にも、分からなかった。


封印の洞窟 ― 悲しき防人

先ほどまでの激しい争いが嘘のように、辺りは静寂に包まれていた。

星々が瞬き、月が穏やかに照らす。
夜空に広がるオーロラが、ゆるやかに揺れながら、大地を神秘の光で包み込む。

それはまるで――天上のオペラが、すべての痛みを癒すために奏でられているかのようだった。

「ここだ! 座標の場所と、さっきの振動の元は!」

ルクジムの声に、セシルが足を止める。

「……!」

次の瞬間、凄まじい殺気が空気を裂いた。
セシルとルクジムは反射的に身をかわす。

「なんだ!」

ルクジムが目を凝らす。
その視線の先――闇の中から、殺気を纏った巨大な影が迫っていた。

「ヴァアーッ!」

雄たけびと共に、巨大な拳が闇を裂いて振り下ろされる。

「ズンッッ!」

地面が揺れ、岩が跳ねる。
セシルは紙一重でそれを避け、印を切りながら冷静に言葉を放った。

「奴ら……オルド・アークの傀儡か?」

目を凝らすと、襲撃者の体は至る所に損傷を負い、胸元が淡く光を放っていた。

荒い息、切り裂かれた肉体――だが、その瞳には未だ戦意が宿っている。

「待て、セシル。俺がやる。」

ルクジムが前に出て、セシルの前に立つ。

「こいつはオルド・アークじゃねえ。……匂いが違う。」
「それに――何か、心がザワつく。」

月光が差し込み、襲撃者の正体が露わになる。

合成人工人間(フランケン)。

その姿は、先ほど洞窟の入口で戦っていた存在――まるで、まだ“何か”を守ろうとしているようだった。

「ガキッ!」

咆哮と共に、フランケンがルクジムへ突進する。

「来いよ……!」

拳と拳がぶつかる。
「バキッ、ゴキッ、ズンッ!」

衝撃が空気を震わせ、地面が軋む。
岩片が弾け、光を反射して宙を舞う。

セシルは静かに呟く。
「あの熊を仕留めたのは、こいつか……。」

互いの拳が唸りを上げる。
殴り合いは、まるで生存本能そのもののように激しく、荒々しく――しかし、どこか悲しかった。

フランケンの瞳には、痛みと怒り、そして――譲れぬ何かが燃えていた。

スーマの画面がチカチカと光り、焦りを帯びた声が響く。

「オッサン! このままじゃワン公があぶねーぞ! 加勢しろ!」

だが、セシルは静かに首を振る。

「いや、大丈夫だ。ルクジムは拳しか使ってない。」

「……だ、だからなんだよ!」

スーマが苛立ちを見せる。
しかし、セシルの目は冷静だった。

「よく見るんだ、スーマ。ルクジムはまだ爪も牙も使っていない。」

「……。」

「ルクジムは――まだ本気じゃない。」

セシルの口元に、わずかな誇らしげな微笑が浮かぶ。

……エリシア。彼は強くなっている。
「君の言葉は、ちゃんと彼に届いているようだ……。」

やがて、フランケンの動きが鈍る。
重い音を立てて、彼の巨体が崩れ落ちた。

「ズズンッ」

地に伏したその身体から、荒い息が一つ、二つ――そして静寂が訪れる。

だが、倒れ伏す刹那。
フランケンの唇が、かすかに動いた。

「……エ・リ・シ・ア……。」

静まり返った夜の中、確かに聞こえたその名前。

セシルとルクジムの胸に、冷たい風が吹き抜けた。

――“エリシア”。

彼が最後に呼んだ名。
それは、かつてルクジムが失った、大切な人の名だった。

オーロラが、ゆるやかに夜空を舞う。
まるでその魂を慰めるかのように――。


封印の洞窟 ― 蒼き灯の記憶

オーロラが見下ろす舞台の壇上。

即興の言葉すら浮かばず、セシルとルクジムはただ立ち尽くしていた。
二人の足元――フランケンの胸が淡く灯り、かすかな光を放っている。

それはまるで、彼の中に残された最後の記憶が、命の残滓として揺れているかのようだった。

「おい、二人とも!」

静寂を破るスーマの声が、鋭く響く。

「ワン公が持ってるQRコードを、洞窟の周囲500メートルに4つか5つ貼り付けてこい!」

その剣幕に、セシルとルクジムは我に返り、互いに顔を見合わせる。
一瞬の迷いもなくQRコードを受け取り、風のように散っていった。

「それから、そのデカブツ連れて中に入れ! 早く!」

スーマの指示に従い、二人はフランケンの体を抱え、洞窟の奥へと進む。

神秘の洞窟――

その内部は外気よりもさらに冷え込み、空気は張り詰めていた。
岩壁から吹き上げる風はまるで瘴気のように肌にまとわりつき、異界の息吹を孕んでいた。

フランケンを担ぎながら歩くルクジムが、息を吐きつつ問いかける。

「スーマ、さっき張ったQRって何なんだ?」

スーマは画面を点灯させ、口角を上げて答える。

「ヘヘッ、俺様特製の電子監視呪符(デジタルシート)だ。」
「監視センサーにカメラアイ、シート同士の間は結界にもなる優れものよ。」

セシルが頼もしげに微笑む。

「なるほど……これでしばらく痕跡を消せるし、近づくものも分かるというわけか。」

三人が進むうち、前方にほのかな明かりが見えてきた。
少し広くなった空間――その奥では、蒼白く光る泉が静かに揺れている。

セシルが周囲を見渡し、奇妙な光景に目を留めた。

「これは……何かの計器類か? モニターにマルチデバイス……この明かりも電球か。」

「電気があるのか!」

驚くセシルに、ルクジムの背中越しから低い声が返る。

「ここは、ナハニ川を源流にもつ支流がいくつも流れている。」
「洞窟の裏にもだ。そこに水車を作って発電している。」

ルクジムは驚き、振り返る。

「アンタ、しゃべれるのか?」

フランケン――いや、彼はよろめきながらも、自ら歩き出した。

セシルが手を差し伸べ、静かに言う。

「彼をここへ。」

「大丈夫だ。此処は俺の住処だ。奥に横になれる台がある。」

フランケンは頷き、台の上に身を横たえる。
その表情には、わずかに安堵の色が浮かんでいた。

セシルが一歩近づき、低い声で語りかける。

「……君には、聞きたいことがいくつかあるのだが。」

フランケンは、悲しげな瞳をゆっくりと上げ、口を開いた。

「お前らは……俺を“人格”として捉えてくれてるんだな。」

その声には、長い孤独と痛みが滲んでいた。

「俺はジョー。フランケン――合成人工人間のジョー・ファクシマスだ。」

その名乗りは、まるで自らの存在を確かめる祈りのようだった。

セシルもまた、悲しげに目を伏せる。

「君のここまでの生きた道……察するに余りある。」

蒼白く光る泉が、静寂の中で微かに波紋を広げる。

ジョーの胸の灯が、まるで過去の記憶を映し出すように淡く脈打ち――その光が洞窟の壁を、心臓の鼓動のように照らしていた。


神秘の泉 ― ジョーの語り部

蒼く輝く泉が、まるで妖精たちの輪舞を誘うように幻想的な光を放つ。
深い洞窟の奥――静寂に包まれた空間で、ジョーがゆっくりと語り始めた。

「……俺は、いや、厳密に言えば“俺たち”二人は――オルド・アークの研究施設で、ある計画の研究課程で偶然生まれた副産物だった。」

その声は、泉の水面に触れた波紋のように広がり、洞窟の壁を淡く震わせた。

「その頃の俺たちは、意思もなく、考えることもない。与えられたプロットをただ消化するだけの、傀儡でしかなかった。」

ふらつく電球の明かりが、ジョーの顔に陰影を落とす。
その影の中に、言葉にできない哀しみが浮かんでいた。

「計画の内容は、俺たちにも分からない。ただ、日々繰り返される耐久実験、戦闘試験、耐性の検証……そして、戦地への投入。」

言葉の端々に、痛みと怒りが滲む。

「そして――あの事故が起こった。」
「事故のあと、誰かが……彼女が……」

ジョーの胸の光が、静かに淡く脈打った。
その瞬間、泉の蒼い光が呼応するように揺らめく。

「俺たち二人は、同じ生体パーツを共有して作られた合成人工人間――零号。」
「その後も強化と性能向上を繰り返し、合成人工人間は量産されていったが……俺たちが初代だった。」

セシルとルクジムは、ただ沈黙のまま耳を傾けていた。

「……あの日。その日は、何かの放射線耐久実験の最中だった。」
「負荷に耐えられなくなった照射装置の動力源が融解し、爆発が起きた。」

電球が一瞬、ちらりと明滅する。

ジョーの瞳に、その光が過去の残光のように映る。

「俺たちは爆発に巻き込まれた。名前もない、もう一人の“俺”は――頭と足を吹き飛ばされ、おそらく即死だったろう。」
「俺も爆風で飛ばされた破片が心臓を貫いていた。」

その声には、痛みだけでなく、喪失の重みが宿っていた。

「遠ざかる意識の中……『彼らを運んで! 早く!』――女性の声が聞こえた。」

ジョーの胸の光が、また淡く明滅する。
それは、彼の命を繋ぎ止めた“何か”――記憶の鼓動。

そして、その声の主。
エリシア――その名が、彼の魂の奥に刻まれていた。


「実験場のある同じ敷地内の地下施設に、俺たち二人は運ばれた。」

ジョーの声は、泉の蒼い光に包まれながら、ゆっくりと過去を紡いでいく。


――…こっちは無理だ! 頭も足も無い!…

複数の研究員が騒然とする中、彼女――エリシアが静かに言葉を発した。

「あちらの彼から、こちらの彼に心臓を入れ替えます!」

「しかし、損傷が激しく、これ以上できることも器具もありません!」
研究員の一人が叫ぶ。

だが、エリシアは一歩も退かない。

「大丈夫。二人を並べて。私がやります。」

その声には、一切の迷いがなかった。
絶望の中で唯一、確かな光を放つ意志。

彼女はメスを手に取り、祈るように目を閉じた。

「そして――俺の胸に、もう一人の“俺”から心臓が移植された。エリシアが祈りを込めて、自分の髪を糸にして縫い合わせたんだ。」

ジョーの指が、自らの胸をそっとなぞる。
そこに、確かに“生”の痕跡があった。

「その瞬間、命が繋がれた。ただの人工体だった俺に――“心”が宿った。」

その声には、静かな震えがあった。

「気づいたとき、俺は地下に一人だった。そしてその時から――俺に“心”が、自我が宿っていた。」

それは、初めて感じた喜びであり、悲しみであり、そして“自分という存在”を知るための、最初の熱だった。

スーマが小さく呟く。

「……そんなことが……」

ジョーは静かに目を閉じ、泉の蒼い光に身を委ねる。

その胸の灯は、まるでエリシアの祈りが今も彼の中で息づいているかのように、やわらかく――けれど確かに、脈を打っていた。


蒼白く光る泉が、まるでその記憶を祝福するかのように、静かに輝いていた。
ジョーの胸の光は、今も淡く脈打っている。

それは――エリシアの祈りが、今も彼の中で息づいている証だった。

「目が覚めた時、エリシアの手紙があった。」

ジョーは、胸の奥にしまっていた記憶を、そっと取り出すように語る。


――あなたが目覚めたとき、まだ施設は事故処理と鎮圧、報道操作で人手が足りていない状態でしょう。
隙を突いて、第14通路から地上に出なさい。
セキュリティーは、私が書き換えておきます。

あなた方は“蘇生失敗により廃棄された”という扱いになっています。
ゆえに、誰も監視していないはずです。

この研究に身を捧げてくれた一兵士の認識証に――
あなたの、ジョー・ファクシマスとあった記載を覚えています。

ジョー、その命に祝福があることを願います。
エリシア・ヴェイル


「そして俺は、リバースとなり、身を潜め、隠れ、逃げ続けた。」

ジョーは揺れる電球の光を見つめ、淡々と、しかし確かな苦みを滲ませながら言葉を続ける。

「だが俺は――人にも、リバースにも忌み嫌われ、受け入れられなかった。人間でもなく、裏の住人でもない、作られた存在……」

「それまで感じたことのなかった感覚――孤独、絶望、そして痛み。なぜ俺は生きているんだ?」
「俺の中にいる“もう一人の俺”は、本当にこれを望んでいたのか?……あの事故で、俺も死ぬべきだったんじゃないのか?」

その声には、深い苦悩と自責の色が混じっていた。

だが――

ジョーの目が、悲しみから静かなやさしさへと変わる。

「それでも……俺は、エリシアを恨むことなどなかった。」

その言葉は、洞窟の空気を震わせるように静かに響いた。
彼の中に宿る“命”が、誰かの祈りによって繋がれたものであることを、彼自身が理解していたからだ。

「その後、さまよいながら辿り着いた……いや、引き寄せられたのかもしれない。気がつけば俺は、この渓谷、この洞窟に来ていた。」

ジョーは泉を見つめ、穏やかな声で続ける。

「そして、この泉を見つけた。」

彼はルクジムに視線を向ける。

「……この泉を見た瞬間、すべてを悟ったんだ。」

それは、言葉で語れるものではなかった。

絵を見るわけでもなく、音を聞くわけでもない。
ただ、心の奥底に浮かんだ感情の“断片”が、すべてを悟らせたのだ。

「この泉には、俺の心臓を繋ぎとめているものと同じ――エリシアの髪が眠っている。彼女の髪が融けることで、泉は聖水となった。」

「エリシアは、この泉にある封印の防人になってほしいとは一言も言わなかった。だが、その想いが教えてくれた。」

「俺はそれから、泉の防人になることを誓った。『聖者の刻』が実際に現れたのは、数か月前のことだ。」

セシルは嘆くように呟く。

「エリシアは……その時からすでに、この事態も、封印の出現も予知していたのか……。」

ジョーは静かに頷き、言葉を紡ぐ。

「俺を“誕生”させてくれたのは彼女だ。俺には……母だ。母の願いを拾わない子など、いない。」

ルクジムは静かに目を伏せ、母の存在を確かめるように沈黙した。

ジョーがルクジムに向き直る。

「お前も、エリシアの所縁の者なのだろ。その体毛の毛先が、俺の心臓に呼応している。」

ルクジムの白い体毛は、まるでジョーの胸から伝わる温もりに応えるように、淡い光を纏っていた。

それは、彼の内なる神の血が呼応している証のようだった。

「血のつながりはないが、同じ母を持つ。……あんたは、俺の兄貴だ。」

その言葉に、ジョーの全身が小刻みに震えた。

「この俺を……兄弟と呼んでくれるのか……。」

「ああ。俺には母の記憶がほとんどないが、兄貴は母と話したことがあるんだな。うらやましいよ。」

照れくさそうに話すルクジムの言葉に、ジョーの顔が一気に歪む。

「……オオッ……うおおお……っ……!」

ジョーの目から、涙がとめどなく溢れ出す。
その涙は、止まらなかった。

いや――止めようという気すら起こらなかった。

胸の奥から溢れ出す、あたたかな感情が、彼を包みこんでいた。

セシルは、その兄弟の絆を静かに見守っていた。
かつて守ることができなかった命と、これから守るべき命が、いまここで交差していた。

泉の水面に輝く讃美歌が、まるで遠くの鐘の音のように、あるいは祈りの歌のように、濡れた洞窟の壁に吸い込まれていく。
その旋律は、ただあたたかさを伴った静けさとして耳に残った。

セシルが泉を見つめながら静かに言う。

「聖者の刻は泉に現れた。つまり、もう消滅することはない。」

ジョーが頷きながら答える。

「ああ、そうだな。エリシアの髪で聖水に変わった泉の中だ。」

少し間を置いて、ジョーは穏やかに微笑む。

「俺は……少しばかり疲れた。しばらく横にならせてくれ。」

泣き疲れた子供のように、ジョーの顔には安らかな表情が浮かび、その全身から力が抜けていった。
ジョーは静かに眠りにつく。

それは――彼が“生きている”ことを実感できた、初めての瞬間だった。

幸福と安堵に包まれて眠れること。
それは、彼にとって初めての体験だった。

「ピコンッ」

スーマがセシルにそっと問いかける。

「おい、オッサン……これも、愛か?」

「ゴッゴホンッ!」

セシルは咳払いをしながら、わずかに赤面して答える。

「スーマ、紳士はそんな無粋なことは口にしないものだ。」

「プッハハッ!」

ルクジムが吹き出す。
その笑いは、洞窟の静けさに溶け込みながら、どこか優しく響いた。

ジョーは、深い眠りの中にいた。
その胸の光は、静かに、穏やかに脈打っていた。


イエローナイフ洞窟 ― ネイビー再来

生あるものが寝息を立てる、静かな夜。
オーロラが星空に舞い、泉の水面は淡く光を揺らしていた。

その静寂を裂くように――異様な気配が、森の奥から滲み出る。

それは“影”ではなかった。
夜そのものが形を得たかのような、純粋な“闇”だった。

闇は音もなく、しかし確実に洞窟へと近づいてくる。
空気が冷え、木々が軋み、空間そのものが歪むような圧を孕んで。

ジョーはまだ深い眠りの中。
セシル、ルクジム、スーマ――三人は同時に、その異変に気づいた。

再び、あの男――ネイビーが姿を現す。

「ブーッ、ブーッ、ブーッ!」

洞窟の静寂を破り、スーマの端末が警告音を鳴らした。
画面は真紅に染まり、脈打つように明滅している。

「来たぜ! 森の中を一直線に進んでくる!」

スーマの叫びに、洞窟の空気が一瞬で張り詰める。

立ち上がろうとしたルクジムの肩を、セシルが静かに押さえた。

「君はここで、泉とジョーを頼む。」

「一人で大丈夫なのか!」

セシルは微笑み、わずかに首を振る。

「大丈夫だ。あの男の気配は、前と同じだ。だが今の我々は――前とは違う。例のコードがある。」

ルクジムは短く息を吸い、頷いた。
「分かった……けど、何かあればすぐ出るからな。」

洞窟の奥で、ジョーはまだ静かな眠りの中にいる。
泉の水面は穏やかに揺れ、聖者の刻が淡く輝いていた。

外では、闇が形を成そうとしていた。

夜。
闇。
黒――輝きを拒む存在。

それは、ただ恐怖の色だった。


星空の下、オーロラが静かに舞う。

すべての生き物が眠る夜、その静けさの中で“闇”が忍び寄る。
それは影ではない。夜そのものの化身だった。

洞窟の前に立つセシルへ、冷たい声が飛ぶ。

「邪魔だ。何度も言わせるな。」

セシルは微笑を浮かべ、皮肉めいた声で応じる。

「夜会を開いた覚えはありませんが?」

背後でスーマが囁く。

「ホントに大丈夫なんだな?」

セシルは片目を細め、静かに答える。

「ああ。約束はできませんが……それより、グレイスヒルで確認したコードは?」

スーマの画面が赤く点滅する。

「任せとけ! ……まったく、オッサンぶっ飛んでるぜ。」

「ザッ」

ネイビーが一歩、踏み出す。
その足音は、まるで空気を切り裂く刃のように響いた。

セシルが静かに言葉を紡ぐ。

「そういえば、今日はお一人のようですね。」

その皮肉に、ネイビーが反応する。

「連れてきていた、魔界印で使役していた熊を消したのは――お前らか。」

一瞬、空気が重く張り詰めた。

「ジョーの相手には少々、力不足だったようですね。」

セシルが口角を上げる。
その笑みには、確かな覚悟が宿っていた。

夜行生物が羽ばたく刹那――

「ザザザッ!」

二人の影が対角線上に交錯する。
空気が裂け、岩肌が震えた。

「ガキッ、ガガッ……!」

「……。」

「ボトッ」

何かが地面に落ちる音。
それは――セシルの犬歯だった。

右頬が裂け、血が滴る。折れた犬歯が足元に転がった。

セシルは黙したまま、ネイビーを見据える。
その瞳には、怒りも恐怖もなかった。

あるのは冷静な観察と、研ぎ澄まされた意志のみ。

ネイビーの右肩にも損傷があったが、すでに塞がりかけている。
その再生力は、常軌を逸していた。

「フフッ……不死身合戦は分が悪いですね。」

セシルが血を拭いながら言う。
その傷もゆっくりと癒えつつある――だが、失われた歯だけは戻らなかった。

星々がざわめき、木々が揺れる。
空気が振動し、幻のように森全体が揺らめく。

「時間の無駄だ。通る。」

ネイビーが闇を引き連れて近づいた、その瞬間――

「ズバッッ!」

「ドサッ!」

ネイビーが右脇腹を押さえ、片膝をついた。

「……何を した……?」

その声に、初めて動揺の色が混じる。
彼にとって、“未知”は存在しないはずだった。

脇腹は半円状にえぐれ、焼け焦げたようになっている。
その傷の回復は――異様に遅かった。

セシルがゆっくりと立ち上がり、血を拭いながら言う。

「フムッ……出力をもう少し上げましょう。照準のブレは記憶しました。」

スーマの画面がグリーンに点灯する。

「オッシャー! 有効だぜ!」

ネイビーが立ち上がる。
その動き一つで、空気が震えた。

「……うっとうしいぞ、小虫が……!」

だが、その脇腹の傷は深く、再生が追いつかない。
不死の躯に、初めて“裂け目”が生まれていた。

セシルの声が闇を切り裂く。

「――ナイトコード《Còig(コーク)》」

直径1.5メートルの魔法陣がセシルの前に展開し、
その前方に、円錐状に小さくなる魔法陣が四つ、一直線に並ぶ。

星々の輝きとオーロラの光が線となって流れ込み、最後方の陣に吸い込まれていく。
夜空の瞬きが、一瞬だけ――消えた。

吸い込まれた光は、魔法陣を通過するごとに束ねられ、集約され、光度を増しながら、異常な熱を帯びていく。

「ヴォンッ!」

轟音と共に放たれた光の波が、一直線にネイビーを貫いた。

その瞬間、闇が裂けた。

「ガハッッ!」

光弾に貫かれたネイビーは、苦悶の表情を浮かべて吐血する。
絶対者の威厳は、すでにその身から消えていた。

セシルが目を細め、静かに言う。

「五夜の瞬きを集約し、魔力で圧縮した光弾です。焦点温度は鉄の融解点を超える――4000℃以上。」

「いかにあなたでも、燃え尽きた細胞と、焼き潰された血脈を瞬時に再生することはできない。」

それでもネイビーは、なおも動こうとする。

「我らの崇高なる活動を……貴様らごとき羽虫が……!この世界を塗り替えるのは我らだけだ……!」

セシルは、悲しげな眼差しでその姿を見つめた。

「その異常な生命力こそが、あなたを苦しめている。」

そして――

「介錯させていただく。」

光弾を逆袈裟に振り抜く。

その一閃が、ネイビーの頭部を切り裂いた。
体が炎のように揺らめき、闇と共に消滅していく。

星の瞬きが戻り、森のざわめきが静まる。
世界に再び、呼吸が戻った。

夜は深く――だが、確かに“光”が残っていた。



封印の夜 ― 命の対価

「大丈夫か!」

ジョーとルクジムが洞窟から駆け出してくる。
その姿を見た瞬間、セシルの全身から力が抜け落ちた。

「ドサッ」

ジョーがすぐに抱き止める。
「セシル! 無茶をしすぎだ……!」

「すまない、ジョー……」

セシルの声は掠れていた。
だが、その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

スーマの画面がブルーに変わる。
「人間なら100回は死んでるぞ。しゃーねーって。」

驚くジョーとルクジムに、スーマが続ける。

「魔術の儀式ってのはな、簡単に言やあ“現世と魔界での質量交換”だ。」
「等価とは限らねぇが、代償は必ずいる。それが――生命力ってワケだ。」

「吸血鬼のオッサンだから、あんなデタラメな出力が出せんだ。普通の人間なら……あの時点でとっくに灰だぜ。」

ジョーは足元に転がっていたセシルの犬歯を拾い上げる。
小さな欠片を見つめ、唇を噛み締めた。
「……あいつ相手に、よくぞここまで……」

ルクジムがスーマに詰め寄る。
「でも何だったんだ、あれは? “コード”って……。名前を叫べば出てくる必殺技でもないだろ?」

スーマは得意げに鼻を鳴らした。

「そもそも“儀式”ってのはな、スマホに適当な番号入れてコールするようなもんだ。」
「その番号が実在するのか、相手が出るのかすらわからねぇ。出てくれりゃラッキー、ってなレベルよ。」

「成功するのは奇跡みてぇなもんだ。」

「そこに魔法陣の質、サイズ、構文、地脈、方位……そして要となる“詠唱”。」
「簡単なもんなら数秒で終わるが、呼び出す対象によっちゃ数時間どころか、数日単位だ。」

ルクジムは腕を組み、真剣な表情で聞き入っていた。

「ま、悪魔(デビルズ)どもを実体化させようなんて考えるのは……オルド・アークぐらいだろうけどな。」

スーマが得意げに画面を光らせる。

「要するにだ――セシルの詠唱を事前に録音・データ化して、魔法陣をデジタル上で構築したんだ。」

「サイズも、構成も、仮想空間なら思いのまま。」
「そして契約相手はこの俺様の本体――魔界接続率100パーセントの存在だ。」

「代価はオッサンの生命力。それらをアルゴリズム化し、コードとして具現したのが――**ナイトコード《電子儀式》**ってワケよ。」

「声でインプットするか、タッチで即、起動。お手軽だろ?」

ルクジムは深く息を吐いた。
「……大したもんだよ、二人とも。」

その声には、驚きと安堵、そしてどこか誇らしげな響きがあった。

「ったく、ホントぶっ飛んでるぜ、オッサンは。」
スーマが画面を揺らしながら呟く。

その言葉には、呆れと同じくらいの――温かさがあった。

「とにかく中へ戻ろう。泉のそばへ。」
ジョーがセシルを抱きかかえ、ゆっくりと立ち上がる。

その腕には、命を削って戦った仲間への敬意がこもっていた。

夜空には再び星が瞬き、
オーロラが静かに舞っていた。

闇は去り、
命の呼吸が――穏やかに、洞窟へと戻っていく。



鳴動の渓谷 ― 静寂の帰還

エリシアの泉――

水面に揺れる反射が、洞窟の壁を淡く染め上げていた。
光と影が舞い踊り、荒れ果てた五体を静かに癒しへと導いていく。

ルクジムとジョーは、セシルをそっと寝かせ、息を潜めて見守っていた。
洞窟の中は、泉の鼓動と、かすかな呼吸音だけが響いている。

スーマがスクリーンを点滅させ、スキャン画像を映し出す。

「損傷の修復は進んでるが……生命力の流れが細い。回復には時間がかかるぜ。」

ジョーは、先ほど拾ったセシルの犬歯を机に置くと、
静かに泉の方へと歩き出した。

「おい兄貴、どうしたんだ?」
ルクジムが声を上げる。

ジョーは振り返り、胸元に手を当てながら言った。

「俺の胸の鼓動と……お前の毛先が強く反応している。――泉に来いと、呼ばれている。」

そう言い残すと、ジョーは手にボトルを握り、
ためらいもなく泉へと飛び込んだ。

「バッシャーンッ!」

「おい、ジョー!」
ルクジムとスーマの叫びが響く。

大きく騒めく水面が、岩壁に反射して光の流星群を描き出す。
洞窟の天井が、まるで夜空のように輝いた。

「ザザザーッ!」

ジョーが泉の奥から姿を現す。
その手には、聖者の刻を満たしたボトルが握られていた。

「これを――!」

彼が差し出したそれは、水晶体のような半透明の結晶。
中央には、砂時計のような紋様が刻まれていた。

その美しさに、時間が止まったかのような錯覚が走る。

「どうすんだよ、それ!」
スーマが叫ぶ。

ジョーとルクジムは互いに目を合わせ、頷き合った。
そして、ボトルを持ち、セシルの枕元にそっと近づく。

封印――ジョーの胸――ルクジムの毛先。
三つの光が共鳴し、まばゆい輝きを放ち始めた。

「……ぽとん……」

ボトルから一滴の雫が、セシルの頬に滴り落ちた。

「……! ……!」

その瞬間、波紋のような光が全身へと広がり、
セシルの生気がみるみるうちに戻っていく。

「う……ううっ……」

セシルが、ゆっくりと目を開けた。
淡い光に包まれたその顔は、まるで再誕の瞬間のように静かだった。


オルド・アーク ― ベイル・ネッワーク

「コードネーム:ネイビー、ポイント消失――連絡不能。消息不明……ロストしました!」

監視担当官の声が、緊急通信回線に響き渡った。
その声には、明らかな恐怖と動揺が混じっていた。

ベイル・ネッワーク――
オルド・アークの中枢にして、裏世界の情報と命令を掌握する“心臓部”。

今、その中枢が蜂の巣を突いたような混乱に包まれていた。

「魔界印(タトゥー)熊もすでにロスト。……残骸、確認済みです!」

「……何が起こった……?」
指令卓に立つ男の手が震える。

ネイビーが――消えた?

そんなはずが、ない。

「ネイビーがやられたとでも言うのか……? まさか……」

ざわめきが広がる。
その場にいた誰もが信じられないという表情を浮かべていた。

――その時。

「……何の騒ぎだ。封印はどうなった?」

地鳴りのような、重圧を伴う声が管内全体に響き渡った。

それは音というよりも“圧”そのもの。
空気が震え、機材が軋み、そこにいる全員の魂までもが震える。

「こ、この声は……まさか……カリース様か……!」

担当官の顔から血の気が引いた。
体は硬直し、言葉が喉で凍りつく。

「なぜ……あの方が……通信を……? ありえない……」

ベイル・ネッワーク全体が、一瞬で沈黙した。

恐怖と緊張が支配する中、誰もが息を呑み――
“次の一言”を待っていた。



エリシアの泉 ― オーロラは舞う

今宵のオーロラは、ひときわ大きく夜空の闇を払い、色とりどりの光が波のように空を流れていた。

その光は、まるで祝福のように泉を照らし、洞窟の壁に柔らかな反射を描き出している。


「セシル!」

三人の声が重なる。

「ああ……みんな、ありがとう。」
セシルはかすかに微笑みながら応えた。

スーマが画面をチカチカと点滅させて言う。
「ったく、ヒヤヒヤさせやがって!」

「さあ、飲め。」
ルクジムが泉から汲んだ水をグラスに注ぎ、セシルへと差し出す。

……

「何してる、飲めよ。」

セシルは一瞬、戸惑いを浮かべながら呟いた。
「いや……しかし、聖水というものは、吸血鬼には毒のようなものですから……」

ジョーが遮るように静かに言う。
「これは――エリシアの泉の水だ。俺たちに縁ある者には、加護がある。」

「……わかりました。」

セシルはそっとグラスを手に取り、一口、唇をつけた。

「グビッ……」

その瞬間、彼の体を淡い光が包み、生命力が流れ戻っていくのが目に見えるほどだった。

「こ、これは……血液……?」

驚きと共に、喉が鳴る。
彼はそのまま一気に飲み干した。

体の隅々まで、何かが駆け巡る。
冷え切っていた肉体に、再び温かい血潮が満ちていく――

それはまるで、命の再起動だった。

「エリシアは……私にも加護をくれるのですね。」
セシルが穏やかに微笑む。

「ともかく、良かった。」
ジョーが静かに呟く。

ルクジムも、スーマも、微笑みながら頷いた。

ほの暗い洞窟の中に、つかの間の平穏と、柔らかな息づかいが満ちていく。

オーロラは静かに舞い続けていた――
まるで、彼らの戦いと再生を祝福するかのように。


厄災 ― カリース・ヴァングレア

夜の静けさに雨粒が踊り、オーロラは憂いを帯びて夜空に伏していた。

雨の跳ねる音がノクターンの調べを奏で、大地と空とが、その旋律に静かに寄り添う。

イエローナイフ近郊のホテル。

セシル、ルクジム、スーマは灯りを落とし、雨音に包まれながら佇んでいた。

「……しばらく止みそうにねーな。」
スーマがぼそりと呟く。

その何気ない言葉が引き金となり、二人の脳裏に――ジョーとの別れの光景が、鮮やかに蘇る。

ルクジムは窓の外を見つめ、拳を握りしめる。
セシルは静かに目を閉じ、あの安らかな笑顔を思い出していた。


― エリシアの泉での別れ ―

セシルの体が動くようになった頃、ジョーは穏やかに告げた。

「聖者の刻は――お前たちが持っていろ。俺が守るよりも、その光は、お前たちと共に歩むべきものだ。」

ジョーはエリシアの泉の水をボトルに満たし、青白く輝く“聖者の刻”を慎重に封じ込める。

その結晶は傾けるたびに虹色の光を放ち、見る者に現実を忘れさせるほどの神聖さを湛えていた。

「俺はこの渓谷、洞窟、そして泉の防人だ。この地を離れることはできない。」

静かな決意に、セシルはただ頷いた。
そこにあったのは、信頼と、託された責務の重さ。

「だが、もし俺の力が必要になれば――どんな時でも呼んでくれ。俺は必ず駆けつける!」

「まー、そのズウタイじゃ飛行機には乗れねーもんな。」
スーマが皮肉っぽく笑う。

セシルもわずかに微笑んだ。
「その時は必ず助けを呼ぶよ。」

ルクジムは真っ直ぐにジョーを見つめ、言葉を絞り出す。
「兄貴……ありがとう。必ず、また会おう。」

ジョーは静かに微笑み、その背に、泉の光が降り注いでいた。


――そして今、
彼らはその別れを胸に、雨の夜を見つめていた。


― 厄災の兆し ―


「ピコン、ピコン!」
スーマの画面が不意に赤く点滅した。

「オイ! この近くで竜巻警報が出たぜ!」

「こんな時間に?」
セシルが眉をひそめる。

その瞬間――空気が変わった。

言葉では説明できない重圧が、全身を圧し潰すようにのしかかってくる。

まるで、見えない巨手が背中を掴み、地面へと押しつけるかのような感覚。

冷や汗が額を伝い、呼吸が浅くなる。

「な、なんだ、この空気……!」
ルクジムが震える声を上げた。

セシルの視線が、窓の外へと吸い寄せられる。

――森の入り口。

数キロ先の闇の中、空気が歪んでいた。

視界そのものが揺らぎ、光が滲み、
まるで現実が波打つようにねじれている。

風が渦を巻き、
森の中心に黒い竜巻の柱が立ち上がる。

「ッ……空が、赤く……!」

空全体が、血のように赤黒く染まった。
次の瞬間、雷光が地を裂き、轟音が遅れて世界を揺らす。

「こりゃただの竜巻じゃねぇぞ……」
スーマの電子音が低く震える。
「――何かが来る。」

「何かって……いったい、何が……?」
ルクジムの声が掠れる。

スーマは答えず、画面を激しく点滅させた。
その映像には、焦燥と恐怖が滲んでいる。

外の風は次第に唸り声へと変わり、建物が軋み、ガラスが細かく震えた。

セシルが短く息を吸い込む。

「……これは、自然現象じゃない。魔界の磁場が乱れ、空間そのものが歪んでいる……」

そして――

彼らの前に現れようとしていたのは、
竜巻などではない。

神の領域を侵し、この世界に再び“災厄”をもたらす存在――


カリース ― 邂逅、その脅威

夜空が深い悲しみに沈み、星々が震える。
天は黙して何かを語らんとしているかのように、光を閉ざしていた。

それは抗えぬ運命の宣告か――あるいは、天が人へ放つ警鐘なのか。

空気が歪み、収束し、ひとつの点へと凝縮していく。

雷鳴がその中心へ吸い込まれ、閃光と風が一体となって圧縮される。
まるで、怒りそのものが姿を持ったかのように。

――そこから現れたのは、黒き殺意の影だった。

その存在は蠢き、息づき、ただ見るだけで魂を震わせる。

カリース・ヴァングレア。

契約者部隊《Pact Units》の最高指揮官。
主導評議会《Council of Arc》の一員にして、オルド・アーク現最高戦力。
階級「蛇(サー)」を冠する契約者。

モスグリーンの肌に紅い稲妻のような亀裂が走り、額には三本の角が突き立つ。
右手に風を、左手に雷を纏い、その身の周囲には見えざる圧が渦巻いていた。

地獄より舞い降りたかのごときその姿は、まさに災厄の化身。
その歩み一つで大地は震え、空は裂ける。

黒い瞳の奥に燃えるのは、終わりなき戦火の記憶だった。

――ホテルを出た瞬間、三人はその嵐の只中に立たされた。

冷たい風が肌を裂き、心の奥底から恐怖がこみ上げる。

スーマの画面が警告を鳴らし続けた。
「こりゃムリだ! 戦略的撤退だ、撤退!」

焦りの声が夜気を切り裂く。
だがセシルもルクジムも、全身を押し潰すような圧力に抗えず、顔を上げることさえ困難だった。

「これは……やばい。セシル、このままじゃ……!」
ルクジムの声は震えていた。

「月の映像を出せ!」

叫ぶ彼を、スーマが制止する。
「ダメだ! そのレベルじゃあねえ!《Còig(コーク)》だって通用する保証はねえ。」
 「雷雲のせいで月も星もオーロラも隠れてる。オッサンだって完全回復までは、まだ時間が足りねぇ!」

苛立ちと焦燥を滲ませ、スーマは吐き捨てる。
「ここは撤収だ。今のままじゃ、死ぬだけだぞ!」

しかしセシルは静かに首を振った。
「――そう簡単に逃がしてはくれまい。それに……」

その瞬間、空気が震え、心臓を握り潰すような圧が走った。

「お前たちか……バレンとネイビーを屠ったのは。」
低く唸る声が、空間を満たす。

「これ以上の汚名は許されぬ。――それに、聖者の刻とヴェイルの血、両方が揃う好機など、二度と訪れまい。」

その声音は、深淵から吹き上がる冷風のように凍てついていた。
背筋を氷が這い、呼吸が止まる。

カリースが動く。

両の拳に風が収束し、青白い稲妻が渦を巻く。
大地が唸り、空気が裂けた。

「――来る!」
セシルの叫びと同時に、雷を纏った拳が解き放たれる。

轟音が夜を引き裂き、背後の建物が外から抉られるように吹き飛ぶ。
嵐は破壊の爪痕を残し、さらに迫る。

カリースは歩み寄る。
その一歩ごとに世界が震え、沈黙に包まれる。

「騒ぎが広がる前に、必要なものを回収させてもらう。」
氷のように冷たい声。

セシルが立ち上がる。
瞳の奥で、怒りと光が交錯する。

「覚えているか――オルド・アークの契約者。」

カリースは口の端をわずかに歪めた。
「……あの時のか。ヴェイルの血を葬った女の傍らにいた、ヴァンパイア。」

その言葉に、ルクジムとスーマの表情が凍る。

「な……何だと?」
ルクジムの拳が震えた。
「お前が――!」

セシルの瞳が紅く燃える。
「貴様だけは、絶対に許さない。」

「セシル! こいつが……母さんを!」
ルクジムの叫びに、セシルは静かに頷く。

「ああ――あの時の風は、こいつだ。」

空気が張り詰め、時間が止まる。

カリースは愉悦を含んだ目で二人を見下ろした。
「二人を倒しただけのことはある。……だが、虫けらは虫けらだ。」

ルクジムが怒りのままに吠えた。
「うおおおおっ!」

だがカリースは片手でそれを受け、軽く弾き飛ばす。
鈍い衝撃音。

ルクジムの身体が地面に叩きつけられ、息が詰まる。

それでも彼は、震える腕で立ち上がろうとしていた。

「ルクジム!」
セシルとスーマの声が交錯する。

カリースはゆっくりと手を掲げた。
「これで終わりではない――真の力を、見せてやろう。」

雷と風が再び渦を巻き、稲妻が大地を穿つ。
逃げ場を奪うように、足元から光の裂け目が走った。

破壊の嵐が――彼らを飲み込もうとしていた。


イエローナイフ ― 絶望と終焉

嵐に巻き上げられた瓦礫と白煙が、荒々しく空を裂く。
血と鉄の匂いを帯びた埃が風に混じり、まるで死神がこの地に顕現したかのようだった。

ルクジムは地に伏し、動くこともできない。

カリースが冷酷な光を宿した瞳で彼を見下ろし、ゆっくりと歩み寄る。

「カリース――ひとつだけ、聞きたい。」
セシルの声が、荒れ狂う風を切り裂いた。

カリースがゆるりと振り返る。
その唇には、凍えるような笑みが浮かぶ。

「私がなぜ、貴様ごときの問いに答える必要がある?」

セシルはルクジムに向けられた殺意を逸らすように、前へと歩み出る。
その瞳は、嵐の中でなお、確かな意志を宿していた。

「封印は――予知でしか知り得ぬはずだ。お前たちオルド・アークは、なぜその在処を追える?」

わずかに、カリースの頬が動く。
その笑みは、不気味な愉悦を含んでいた。

「フフ……冥途の土産として、特別に教えてやろう。」
「予知ではない。我らにも“預言者”がいるのだ。」

言葉が終わるより早く、地を裂く風が唸りを上げる。
砂塵の間隙を縫って、セシルが駆けた。

カリースの一瞬の油断を突き、倒れたルクジムを抱きかかえる。
彼の腕を強く引き寄せ、その場を跳ねるように離脱する。

「ルクジム、大丈夫か!」
「ああ……助かった……セシル。」

「感謝する。」
皮肉交じりにセシルがカリースに礼を言う。

振り向いたカリースの冷たい嗤いが切り裂く。

「虚を突いたつもりか?ならば、我が《嵐の拳(Tempest Fist)》を、もう一度味わうがいい。」

両手に雷光と風が渦を巻く。

拳に宿る自然の力が唸り、地面をひび割れさせた。
雷鳴が夜空を裂き、拳からあふれる青白い閃光が全てを包む。

再び、大地を砕く一撃が放たれようとしていた――。

「ナイトコード《Còig(コーク)》!」
セシルの詠唱が空を震わせる。

嵐の拳とナイトコードが激突した。

光と影が交錯し、稲妻がねじれ、砂粒が空中で静止する。
瞬間――天地が轟き、大地は裂け、空気そのものが吹き飛んだ。

暗雲が爆ぜ、黒煙が渦を巻く。
世界が一瞬、音を失った。

埃の中、セシルの声が再び響く。

「ナイトコード《h-aon(ヘウン)》。」

「待て、オッサン!」
スーマが悲鳴のように叫ぶ。
「今の生命力じゃ、ダブルコードは無理だ!それに天候のせいで《Còig》の威力は半減してる!」

だが、セシルは止まらなかった。
彼の身体は衝突の光圧に押され、全身から蒸気のような光粒を散らす。

「この高熱……エネルギーがプラズマ化しているのか……」
セシルが、独り言のように呟いた。

カリースは冷笑を浮かべ、声を響かせる。
「砕け散れ、虫けらが。」

セシルが叫ぶ。
「スーマ! 早く――《h-aon》を!」

闇が空間を裂き、黒い扉が開いた。
セシルは、迷いなくルクジムとスーマをその中へ押し込む。

「出来るだけ遠くへ!」

叫ぶ声が、嵐の轟音にかき消される。

その刹那、ルクジムとスーマの目に焼きついたのは――
ナイトコード《Còig》が弾き返され、《嵐の拳》がセシルを貫く瞬間だった。

光が、赤に染まる。
ルクジムの視界が血の色に包まれ、スーマの画面は悲鳴のようなノイズを吐き出す。

「セシル――ッ!!」

彼らの叫びは闇に吸い込まれ、届くことはなかった。

セシルの身体は静かに崩れ、塵となって風に溶けていく。
その最期に浮かんだ微笑みは、痛みではなく――安堵と決意の光だった。

「直射日光以外で存在を失うとはな……後は……頼んだぞ、ルクジム、スーマ……。」

言葉は風に消え、嵐の音だけが残る。


――沈黙。

やがて、瓦礫の間に遠いローター音が響いた。
警察と消防のサイレンが近づく中、カリースは空を見上げ、低く舌打ちする。

「……ちい。ここまでか。」
「この私が、何も成せぬとは……侮りすぎたわ。」

その身を雷雲に溶かし、カリースの姿は消える。
残されたのは、嵐の余韻と、ひとりの英雄の消えた夜――。




第三章・終幕

「英雄の死。そして物語るは新たなる幕を開ける。」








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白雪の雫
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突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

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