強制的魔王

ほのぼのる500

文字の大きさ
38 / 58
……の配下2

38話

しおりを挟む
「……何をしているんだ? なぜ配下を最大まで作った?」

映像を見て唖然としてしまう。
魔王2人の傍には20人の配下の卵。
そんなに配下を作って何をしようというのか、意味が分からない。
配下を強くするには魔力が必要となる。
20人もの配下を強くするためには、かなりの魔力が必要となり、下手をすれば死ぬこともあり得る。
最初に魔力については、説明を受けているはずだ。
魔力がいかに大切か、魔力切れがいかに危険なのかを。
それを分かっていても、20人もの配下が必要だったのか?

「何か思惑があるのか?」

それにしても危険だ。
これから配下を強くするたびに、彼ら2人は死ぬ可能性を抱える事になる。
映像の中の2人を見て、ため息を吐く。
仕事があるため、ずっと見ている事が出来ないのが悔やまれる。
見ていれば、彼らが何をしたかったのか分かったのに。

「……俺は馬鹿か? 分かったところで何になる」

彼らの未来は決まっているのに。

「排除か……」

王の間で受けた指示は「排除」。
だから彼らに未来はない。
手に持っているモノを見る。
奴から「使え」と渡されたモノ。
これを送り込めば、確実に彼らは死ぬだろう。
何を迷う必要があるのだろう。
あの御方からそう命令を受けたとだから、俺はただ従えばいい。
それが正しい。

「…………」

映像の中の魔王たちを見る。
なぜか1つの世界に2人の魔王。
おそらくこちらの手違いで、そうなった。
ミスが起きた、だから消す。
これまでもそうしてきた、そしてこれからもそうする。

「終わりだ」

口の中で魔法を唱え、映像に手に持っていたモノを押し付ける。
すっと映像に飲み込まれていくのを、ただ見つめる。
しばらくすると、映像がゆらりと揺れ2人の魔王が歪む。
すぐに映像は元に戻るが、おそらく彼らを見るのはこれが最後だろう。
何となく、魔王たちをそっと撫でる。
その手をギュッと握ると首を横に振る。

「……馬鹿馬鹿しい」

一瞬浮かんだ思いを首を振って消す。
彼らが生き残るなどありえない。
奴から渡された魔物の情報を見る限り、確実に死ぬ。
特に、彼らは魔力をほとんど失っている。
そんな状態で生き残れるはずがない。
これでいいし、これで正しい。
なぜ、次を期待してしまったのだろう?
ありえない事なのに。

「でも、もしも……」

自分の発した声に、驚く。
何を言おうとした?
疲れているのか?
そうかもしれないな。
いや、きっとそうに違いない。

「憂さ晴らしてもしてくるか」

映像を消し、部屋を出る。
外に行くために歩いていると、反対側から仲間がこちらに歩いてくるのが見えた。

「あれ? どこかへ行くの?」

「あぁ、ちょっと外へ行ってくる」

「……一緒に行こうかしら。かまわない?」

「もちろん」

彼女は方向転換して俺と共に外へ向かう。

「何かあったの?」

「何がだ?」

「随分と浮かない顔をしているから」

浮かない?
そんなはずない。
いつも通りだ。

「問題ない」

「そう?」

「そう言えば、ミスがあって面白い状態が産まれたんだって……本当に、大丈夫?」

どんな顔をしていたのか、隣からかなり戸惑った雰囲気が伝わった。
立ち止まり、下を向く。
何だか釈然としない。
映像に移る魔王たちが死んでいなかった時、俺はそれに驚いただけで特に何かを感じたわけでは無い。
なのになぜ……今俺はこんなに後悔をしている?
そうだ、もう少しあとでもよかったんだ。
すぐにあれを彼らの世界に送り込む必要などなかった。
もっと魔力が戻ったのを確認してからでも……違う!

「この世界、面白くないよね」

「……はっ?」

何を言い出すんだ?
面白くない?

「昔はもっと楽しかった。いつもあの御方は傍にいてくれた、傍にいなくても力をいつも感じてた。なのに今は違う。姿を見ても遠いわ」

王の間にいたあの御方を思い出す。
確かにそこにいるのに、遠かった。

「なんと為に私たちはいるのかしらね」

「あの御方のためだろう」

そう思うのに、本当なのかと疑問が浮かぶ。

「本当に? あの御方は私たちを必要とはしていないわ」

仲間の言葉が頭に響く。
ずっと見ないようにしてきた現実。

「そうだな、俺たちは不要だ」

言葉にすると、空しさが心を蝕む。

「何か、楽しいことはないかな?」

視線を隣に向ける。
こちらをにこりと笑ってみている仲間の姿。
じっと見ていると首を傾げている。

「そうだな。楽しい事か……」

不意に先ほどまで見ていた2人の魔王が思い浮かんだ。
楽しい事?
彼らが?

「どうしたの?」

「魔力を譲渡するマジックアイテムを持ってるか?」

この仲間は、戦闘系のマジックアイテムを多く渡されていたはずだ。
魔力に関するマジックアイテムも持っているはず。

「ん? どうだったかな? 確かあったはず」

「見せてくれないか?」

「必要なの?」

「あぁ」

俺ではないが、彼らには必要だろう。

「部屋にあるから来る?」

「あぁ、悪いな」

彼女の案内で、彼女の部屋に入ると一角には多種多様なマジックアイテムが置かれてあった。

「すごいな」

「今では、ほとんど必要ないんだけどね。こんなの使わなくても私強いから」

「確かにな」

「確かこのあたりに魔力系のマジックアイテムはあるはず」

「他の所を見ていいか?」

「……どうぞ」

「ありがとう」

すっと横目で彼女を見る。
探してくれているのが分かるが、少し違和感を覚える。
何だろう。
彼女に違和感を覚える理由はないはずだ。
だが、何か……そうだ目だ。
彼女の目を以前にも見たような気がする。
あれは何時で、誰だった?
……奴は何を言った?
遥か遠い昔……。

手に取ったモノを見る。
小さな黒い石。
鑑定魔法を掛けると『乗っ取り石』と出た。
乗っ取り?
随分と物騒な石だな。
いや、もしかして使えるか?

「ふっ、何を考えているんだ。俺は」

もう一度隣の仲間を見る。
こちらをじっと見つめる視線と合う。
それに驚きながらも、表情に出さないように気を付けながら首を傾げる

「どうした?」

「なんでもないわ。何か気になる物でもあった?」

「とくには無いかな」

どこかで見た事がある目。
けして忘れてはいけないと……。

「あっ」

思い出した。
そうだ、あの時だ。
とっさに目の前にあったモノを掴み、隣に向かって差し出す。

「ぐっ」

ドサリ。
小さなうめき声と、倒れる音。
彼女は刺さったモノを抜こうと手を掛けるが、その上から足で抑え込む。

「がはっ」

「悪いな」

仲間の驚いた表情。

「だが、お前が悪い。その手に持っているモノをどうするつもりだった?」

倒れた仲間が持つ、マジックアイテム。
確実に俺を殺せる剣が抜き身で握られている。

「思い出したんだ。かつて俺を裏切り者と言って殺そうとした奴の事を。お前は同じ目をしている」

そう、「裏切るかも可能性が少しでもあれば、排除するのは当たり前だろ?」と言った奴と。
あの時の俺は、裏切りなど考えた事も無かった。
だが、そう感じたという理由だけで、調べもせず排除の命令が出た。
あの後は大変だった。
信じてもらえるように、ただ我武者羅に働いた。

「私を殺したら、裏切り者だと」

「大丈夫。俺はゲームを見守っている者の1人だよ。面白いマジックカードがあるんだ」

胸のポケットから数十枚のマジックカードを出し、そこから2枚を選び出す。
時間停止カードと、洗脳カード。
時間停止カードは致命傷を負った彼女を生かすため。
洗脳カードは手駒にするため。
マジックカードは使う者のレベルによって継続時間が変わる。
俺のレベルで使用したら、どれほどの時間を誤魔化すことが出来るだろう。

「裏切るのか?」

「裏切ったのはお前だろう?」

倒れている仲間の胸にカードを置き、魔力を流し込む。
目を見開き、あえぐ姿を見つめる。
しばらくすると、すっと目から光が消えた。
刺さっていたマジックアイテムを抜き取ると、血をぬぐい床に放り投げる。
仲間を見ると、傷が塞がり消えていく。

「名を与える。お前はトリアスだ」

完全に支配をする時は、やらなければならないことがある。
その1つが、名前を与える事。

「トリアス、命令だ。今、起きた事は全て忘れろ。指示を出すまで俺の邪魔はするな。排除の命令を出した者にも邪魔をさせるな。起きろ」

トリアスは数度目を瞬かせると、すっと俺を見る。

「あれ? 私」

「大丈夫か? 扉が開いていたから見たら、倒れていたんだよ」

「えっ? うそ!」

「本当だよ。疲れているんだろう。今日はもう寝た方がいいぞ」

「いや、大丈夫だよ」

「トリアス、寝ろ」

そして名前を与えた時から10時間は誰にも会わせない。
この2つが出来れば、支配は完全となる。

「そうだね。うん。寝る事にしようかな」

「あぁ、きっと疲れているんだから。ゆっくり寝たらいいと思う」

部屋から出ると、後ろで鍵の閉まる音が聞こえた。
出る前に彼女から貰ったマジックアイテムを見る。
急いで自分の部屋に戻ると、映像を繋げる。
まだ、間に合うかな?

「そう言えば、彼女の名前は何だったかな?」

仲間と認識してはいた。
会えば話をする間柄だったのに、彼女の本当の名前を知らない事に気付く。
そう言えば、いつからかここはそんな世界になっていたな。
映像が繋がると、笑みが浮かんだのが分かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...