強制的魔王

ほのぼのる500

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配下の誕生

51話

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ラセツとイザナが、死んでいる天使を炎に放り込む姿を無言で見つめる。
いや、死んでいるのに死体が消えないから、どうするのか気になってはいた。
でも、まさか燃やすとは。
いや、火葬があるのだから正しいのか?
火葬にしては、死体の扱いが雑だけど。

「ちょっと、あれだね」

遥の言葉に頷く。
言葉にするのは難しい感情がぐるぐるしている。

「現実なんだよな」

今までの魔物は倒れたら消えていた。
それにガチャとかレベルアップとか、ゲームの中みたいな感覚だった。
それがいきなり、目の前で始まった死体の処理。
天使は仲間がいたようで、その仲間たちも2人によって炎に放り込まれていく。
その度に、炎の勢いがあがり現実を突きつけられる。

「はぁ~、ゲームじゃないんだよね。そう見えても」

分かっていたけど、分かっていないかった。

「そうだな」

慣れていくしかないんだろうな。
遥を見ると、悲し気な目で炎を見つめていた。
それをじっと見ていると、視線が合う。
一瞬、驚いた表情をした遥は苦笑した。

「現実は残酷だね」

「そうだな」

「それにしても、あの2人は平然としてるよね」

「うん。俺は、それが何気に怖く感じる」

ラセツとイザナは、まるで死体をゴミのごとく炎に放り込む。
炎をつけて、天使の死体を持った時に何をするのかと不思議に思っていると、ポイって。
本当にポイって炎に放り込むから、唖然とした。
次の瞬間、炎の勢いが増したのも怖かった。

「……ところでさ」

遥の言葉に視線を向けると、死体の処理をしている2人をじっと見ている。

「なんだ?」

「いや、なんで抱っこされてるのかなって」

ラセツが天使を炎に放り込んだ瞬間、すぐ傍を飛んでいた遥を無意識に抱きしめたんだよな。
怖くて。
……言えない。
言いたくない。

「ずっと飛んでいたら、疲れるだろう」

「いや、疲れないし」

ずっと飛んでいる私に、その言い訳が通るわけないでしょ。
だいたい、天使が炎に放り込まれて叫びそうになったところを、いきなり抱き込まれたんだよ。
ビビりすぎて、一瞬気が遠くなったんだからね!

「……まぁ、こんな日があってもさ」

言い訳が思いつかない。
だって、本当に無意識だったんだ。
俺だって、抱っこした瞬間に我に返って驚いた。
とっさに、放り投げようとしたのは思いとどまったけど。
放り投げなくて、本当に良かった。

「まぁ、楽でいいけど」

良かった。

「人肌が恋しい時ってあるよね」

「いや、違うから」

「寂しいなら、そう言えばいいのに」

「いや、寂しくはないから。それに遥は、人じゃなくて蝙蝠だから」

焦ってる、面白いな。

「素直に認めなって、温もりが恋しかったんでしょ?」

「……違うし」

光輝の不貞腐れた声に、笑いがこみあげる。
たぶん怖くて、とっさにした行動だたんだろうね。
で、抱き込んだ温もりに癒されて、手放せなくなった。
だいたい、大人しく私がここにいるんだから、同じ気持ちだって気付けばいいのに。
あんな光景を見せられて、ショックを受けないわけないんだから……。
それにしても、この場所、落ち着くな~。

「光輝、1つ気になる事があるんだけど」

「何?」

「あの天使たちは、どうしてここに来たんだろうね」

「どういう意味だ? ゲームの参加者だと言っていたから……俺たちの排除か?」

魔王を排除する天使。
現実だとわかっていても、設定はやっぱりゲームだよな。
いや、設定と思うからおかしくなるのか?
……あ~もう、分からなくなってきた。

「光輝。この世界は既に死んだ事になっているから、ゲームの参加者が来るのはおかしくない?」

「えっ? あっ。本当だ」

そうだった。
この世界は、後片付けが来るぐらい終わっていたんだった。
ならゲームの参加者が、この世界に来るのはおかしい。

「……俺たちって今、どういう扱いだろうな?」

「……さぁ? 死んでいるはずなのに、死んでない?」

考えても分からないな。
そもそも、ゲームのルールすら知らない。

「俺らが巻き込まれたゲームって、最終的に何を目指していたんだろうな」

そう言えば、それすらも知らないね。
目の前の事に必死で、考えた事も無かったよ。
魔王がいて天使がいるから、

「天界VS魔界とか? 神様VS魔王とか?」

「神様から命令を受けた天使が襲ってきたって事か?」

「「…………」」

これって、考えても答えが出ないな。
無駄だったな。
とは言え、逃げるにしてもどうやったら逃げ切れるのか、ゲームのルールを知らないと出来ないんじゃないか?

「ラセツ――」

ドガン。

「なんだ?」

大きな音と、知らない声に体がびくりと震える。
とっさに腕の中の遥を守るように抱きしめ直すと、声がした方へ視線を向ける。
そこには、体格のいい2人の男性。
その顔には見覚えがあった。
体の元の持ち主の記憶にあった。
こいつの仲間だ。
つまりこの世界を消しに来た奴らだ。

「生きているのか? ならなぜ仕事を終らせていない。その腕に抱えている物はなんだ?」

俺を見つけたのか、矢継ぎ早に質問をしてくる。

「どうした?」

答えない俺に不審気に表情を歪ませる男性2人。
これってどうしたらいいんだ?
事情を説明する必要はないだろうけど、敵だと知られれば一気に襲い掛かって来るだろうし。

「光輝様、どうしますか」

「うっ……どうしたらいいんだろうな?」

気配も無く、後ろに立つのは止めて欲しい。
敵が目の前にいるのに、無様に叫びそうになった。

「光輝、痛い」

「悪い」

叫ばないように、腕に力が入ってしまったみたいだ。
遥の苦しそうな声に、すぐに腕から力を抜く。

「誰だ? どうなっているんだ?」

男性2人が、すぐに戦えるように武器を手にした。
1人は剣で、もう1人は杖?
杖って事は魔法か?
1歩足が後ろに下がる。

「敵ですね」

後ろからイザナの声が聞こえた瞬間。
目の前の男性たちの胸元から大量の血しぶきがあがった。

「は?」

「えっ、何?」

倒れていく2人の男性を見る。
男性の後ろにイザナの姿がある。
いつの間に……?

「これってイザナが?」

「敵には隙を見せてはいけません」

イザナの力強い言葉に、なんとなく頷いてしまう。
遥もそうなのか、腕の中で頭が動くのが見えた。

「イザナってかなり強いの?」

目の前で人なのかどうかは知らないけど、死んだのに……なんでこんな質問をしているんだろう?
あまりに呆気なかったから?
それとも、衝撃的すぎて?
何だか現実感が無いな。
私、おかしくなってるかも。

「それなりにです。ニュクスやシヴァの方が強いですよ」

「……えっ? ニュクス? シヴァ? マジで?」

あまりの事実に、一瞬誰の事を言っているの分からなかった。
それにしても、人型の3人の中で一番か弱そうなニュクスがイザナより強い?
産まれた中で一番弱そうなシヴァが?

「本当に?」

信じられないように遥が、イザナに問いかける。
俺も確かめたかったので、じっとイザナを見る。

「本当です。光輝様にも遥様にも嘘はけして言いません」

イザナのまっすぐな目に、確かめただけなんだけど、私がすごい悪い事をした気分になる。

「分かった。ありがとう」

「それにしても、あの2人の方が強いのか。驚きだな」

「うん」

……あれ?
私も光輝も彼らに比べたら無茶苦茶弱くない?
というか、貧弱レベルじゃない?

「なぁ、遥」

「何?」

「俺らって……」

「間違いなく、彼らよりはるかに弱いと思うよ」

遥の言葉に、ため息を吐く。
現実だけどゲームみたいなこの世界では、強さがたぶん重要なんだと思う。
俺たちを魔王にした奴も、強く成れって言ってたし。
つまり、イザナたちには早々に見捨てられそうだな。

「2人で頑張ろうな」

「だね」

イザナたちが私たちを見捨てる時に、サクッと殺されないといいな~。
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