勇者になんかなりたくないけど異世界では勇者だった!

オレオ

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ジークフリード編

39話 異世界なんかで試練なんて受けたくないけど5 試練1 巨人の樹海

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「くそぉ!あいつら絶対に殺してやる!」

 村長はパーティー会場から人混みを抜け村の入口に向かって逃げていた。

「待てゴラァ!」

 アレスが村長の襟を掴み動きを止めた。

「離せ離せ!」

 アレスが必死に抑えているが村長はその場で暴れ続けた。

「お前は1人の女の子の弱みに漬け込み、その子の人生を傷つけた。そしてお婆さんを...それは許されない行為だ。反省してくれ。ヘレナさんに謝ってくれ」

 こんなことではヘレナさんの傷は癒えない。
 失ってしまったものの大きさは分かってる。
 だが、今すぐに村長が誠意を見せたなら、少しだが、ほんの少しだがヘレナさんの傷も癒えるはずだ。

「無理な相談だな。わしはヘレナを助けたんだぞ!なのに何故責められないといけない!」

「彼女は嫌がったはずだ!お前に体を捧げることを、お前にいいように使われることを!」

 俺は感情が高ぶり、村長の胸ぐらを掴んだ。

「わしは悪くない!そう、あの父親が悪いんだ!わしは悪くない!」

 ここに来てヘレナさんの父親を出してきた。
 この時の俺は怒りが頂点に達し、ダーインスレイブをその男に突き立てようとした。

「待て西木!お前がコイツをやってもヘレナの傷は少しも癒えない」

 ポセイドンは俺が突き立てようとしたダーインスレイブの刃先を掴み血を流し、痛みに耐えながら俺に訴えた。

「ポセイドン...悪かった」

「貴様ら、俺はこの村の村長だぞ」

 強気に俺たちを睨ながら言った。

「でもてめぇは俺に拘束されてるんだぜ!」

 アレスがさらに強く村長を抑える。

「だからどうした。この壁はわしの魔法の力で成り立っている。つまりわかるよな?」

 この村を魔物の襲撃から守るために作られた壁。
 それはこの村全体を囲むほど広い。
 その範囲を村長1人の魔法の力で...まさか!

「今更遅い!壁よ砕けろ!」

 その瞬間先程まで形をなしていた村の壁が次々と崩れていった。

「なにしてんだ!」

 ポセイドンが村長の胸ぐらを掴み詰め寄った。

「お前らわしに構ってていいのか?」

 ヘレナさんはこの近辺には強力な魔物がいると言っていた。
 このままじゃ村の人たちが魔物に襲われる。
 その時ドスンと重く鈍い音が俺達の近くから響いてきた。

「貴様ら!アウルベアが来たぞ!ガハハハ!」

 村長は気が狂った様に笑いながら俺達に言った。

「クソ野郎が!」

 アレスはそう吐き捨て村長を離し武器を構えた。

「十、コイツは今までのモンスターと比にならないぞ...」

「ああ、俺も感じるよ」

 ヒリヒリとした空気を漂わせ、鋭い眼光で俺達を見つめる巨大な熊のような魔物。
 黒いオーラを出しながらこちらにゆっくりと近ずいてくる。

 その時、突然村長がアウルベアの前に飛び出した。

「アウルベアよ!我が命を捧げお前の力の糧となろう!」

「何やってんだお前!」

 俺は村長を止めようと走り出した。
 だが、村長は一瞬にしてアウルベアに食べられた。
 ぐちゃぐちゃと咀嚼音を立てながらアウルベアの口元は赤く染っていく。

「な、なんだよあれ...」

 アウルベアからものすごい量の魔力と殺意が漏れだし俺達を圧倒する。

「へ...ヘレナ...ヘレナ!」

「西木!い、今こいつ喋ったぞ!」

 ポセイドンの言う通り確かにアウルベアがヘレナと確かにそう発した。

「村長の強い魔力によりアウルベアに少しだが村長の意思が宿ったってとこか...」

 アレスはそう推測し呟いた。

「ヘレナァア!」

「待て!」

 アウルベアはヘレナの名前を叫びながらどこかに走り去った。

 ヘレナを名前を叫び走り去ったということは...まさか!村長宅!

「2人とも戻るぞ!」

 俺達は来た道を戻り村長宅へと急いだ。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「フォトンブレイク!」

 メティスの放った攻撃はアウルベアの右腕に傷をつけた。だが、その傷は何事も無かったかのように一瞬にして完治した。

「拉致があきませんよ...」

「メティス様、加勢いたします」

「私も加勢しますわ」

 そう言ってヘレナとマリンが武器と魔法を構えた。

「ヘレナ...ヘレナ...」

「い、今このアウルベア...ヘレナさんの名前を...」

 メティスは驚きのあまり空いた口が塞がらなかった。

「しかもこの声、村長の声です...」

「なんでこの魔物から村長の声がするんですの」

 3人は混乱し次の行動を考える余裕がなかった。
 だが、アウルベアは動きを止めることはなく、すぐさま攻撃を仕掛けてきた。

「ヘレナさん!」

 メティスがヘレナを庇い左足に傷を負い立つことが出来なかった。

「大丈夫ですの!?」

 マリンが2人に駆け寄る。
 アウルベアがゆっくりとこちらに近ずいてくる。

「このままでは...誰か!誰か助けてください!」

 ヘレナは辺りを見回したがパーティー会場にいた人はアウルベアや他の魔物から逃げ、この場にはメティスとマリン、そして倒れたお婆さんの3人が取り残されていた。

 私とマリン様だけでメティス様とお婆ちゃんを運ぶことが出来ない!このままでは全員アウルベアの餌となる!誰か誰か!

 ヘレナは心の中で強く叫んだ。
 その時、脳裏を過ぎったのは勇敢な父の背中。この村を守り亡くなった父の姿。

「お父さん!」

 そう叫んだ瞬間森の方から凄まじい光と地響きがヘレナ達に聞こえた。

「あれは!」

 ヘレナが光の方角を見るとそこには全く動くことなく眠っていた鎧が立っていた。

「お父さん...!」

 その姿を見たヘレナは生前の父の勇敢な戦いをもう一度思い出し涙した。
 鎧はアウルベア目掛け走っていく。

「ヘレナ...ヘレナ」

 ヘレナに手を伸ばすアウルベアだったがその手は光り輝く鎧に切り落とされた。

「やめろぉ!」

 アウルベアは必死に抵抗するが鎧の強靭なパワーに手も足も出ない。

「ヘレナさん!」

 その時十夜、ポセイドン、アレスがアウルベアを追いかけ戻ってきた。

「あの鎧動いてるぜ!」

 アレスが鎧を見て目を輝かせていた。

「1体何が...」

「私にもハッキリとは分かりませんが、私の叫びに微かに残っていた父の魔力が反応したのではないでしょうか。父が私を守ってくれたのです」

 アウルベアと鎧は何度も互いに攻撃を受け続けた。
 だがアウルベアの治癒速度も段々と遅くなってきていた。

「アウルベアが弱ってきています!」

 ヘレナの声に俺はダーインスレイブを構えた。

「爆炎剣ダーインスレイブ!」

 俺はアウルベアの後ろに回りこみ足に切りかかる。

「爆炎斬!」

 十夜の攻撃を受けたアウルベアは体制を崩しその場に膝を着いた。
 そして鎧が最後に放った強烈な一撃がアウルベアの顔に直撃する。

「ヘ...レ...ナ...」

 アウルベアは倒れ込みそのまま黒いオーラや魔力も消えた。

「倒しましたわ」

 マリンは力が抜けたのかその場に足から崩れ落ちた。

「お婆ちゃん!」

 ヘレナはすぐさま倒れているお婆さんの元へ駆け寄った。

「まだギリギリ脈はある。俺が必ず助けてやっからよ!」

 アレスはお婆さんの胸に手を当て魔力をら流し込む。

「げはっ、げほっ」

 お婆さんは息を吹き返しい呼吸を始めた。

「お婆ちゃんよかった」

 ヘレナはお婆さんを抱きしめ涙した。

「よくやったな」

「レヴィアタン!」

 その時レヴィアタンの幻が俺たちの前に現れ語り始めた。

「貴様たちは悪に勇敢に立ち向かい、正義を成し遂げた。賞賛に値する。貴様達を試練クリアとする」

 悪、つまり村長のことだろうか。
 俺たちのゴールは村長を倒すことだったのか。

「さあこい!ジークフリードの元へ!」

 そう言うとレヴィアタンは姿を消した。

「これで俺達はやっとジークフリードに会えるのか」

「お疲れ様です。十夜くん」

 アレスの治療を受けたメティスが俺の傍に歩いてきた。

「ああ。メティスもヘレナさんをありがとう」

 そう言って俺達は少し笑いあった。
 こうして俺達は試練を突破し、少しの休息とした。
 村は壁が壊されたが何人かの魔術師の手により以前と同じような壁が生成され、魔物の被害にあった建物も幸い少なくすぐに修復できるとのことだ。
 鎧はあの後また動きを止め、村のシンボルとして祀られることになった。
 あいた村長の枠には皆からの信頼もえていたヘレナが新たな村長となった。
 そしてあれから2日後。

「もう、行ってしまうのですか...」

 俺達が村を出る日の朝、ヘレナが悲しそうな目で俺達を見つめていた。

「俺達はジークフリードに会わなくちゃいけない。これ以上時間をあけることはできないんだ」

「また会いにきますわ」

 マリンが小さく呟いた。

「もちろんだぜ!」

「また傷治しに来てやっからそれまで生きとけよババア!」

 ポセイドンとアレスも約束を交わした。

「ヘレナさん。もう無理はしないでください」

 メティスが真剣眼差しでヘレナを見つめる。

「はい。もうあんなことはしません。これからは自分を大切に生きていきます。私のためにも、村のためにも」

 ヘレナは胸に手を当てて天に誓った。

「それじゃ!行ってきます!」

 俺達は遠ざかり姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
 何度も何度も、歩く速さも気にせず、足場も気にせず。
 ただ別れを惜しみながら俺達は村を出た。
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