サ帝

紅夜蒼星

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「よーしお疲れさん。時間感覚はばっちりだな」
 三分、五分、七分、三分、七分、三分。それに最初の七分を合わせて合計七周。
 普通の運動部からしたらアップもいいところだろうが、運動不足の身からすればなかなかにハードなインターバル走だ。普通に息が絶え絶えになっている。
 呼吸を整えているところに、滝部長が話しかけてきた。
「部長……いつもこんな走ってるんですか……」
「いつも外周ってわけじゃない。筋トレしたり他のことをやったり様々だが、まぁこれが一番練習として分かりやすいしな」
 たしかに最初に考えたように、GTSの練習としてはこのインターバル走はなかなかに考えられているとは思う。
 サウナに入っていればいいというものではない。GTSに必要な感覚的なものが、自然に身に付いてきそうではある。
 しんどいけど。
「別にお前の体力を買って、蒼はスカウトしたわけじゃねー」
 俺が心中で思っていたことを知ってか知らずか、滝部長は言葉を続ける。
「俺たちは陸上部じゃない。最低限の体力は付ける必要があるが、別に人以上になくたって構わない。俺以上に理解してるはずだろ」
 そう、部長の言うとおりだ。
 GTSにおいて最も必要とされているのは、時間感覚に他ならない。
 ゴールタイムは決まっている以上、己の感覚で正解を導き出す力が必要となる。
 分かっている。
 分かってはいるが。
「外周最後三周だぞー。今回からそれぞれ目標タイムが違うから注意な」
 そんな俺をおいて、部長と蒼がそれぞれ一人一人に声をかけ始める。
 なるほど。今度は個々に制限時間を設定することで、己のカウントと向き合うための練習だろうか。
 つまり先ほどまでのような、可視化された「差」を確認することは叶わない。
 ここからは一人一人が己のカウントと向き合う必要がある。
「大海、お前は今回は八分だ」
 他の部員には聞こえないように耳打ちされる。
 八分で一周。
 先ほどまで三分だの五分だののペースで走っていた距離を、八分で走る。
 体力的には余裕もいいところだ。あくまで体力的には。
 全員に声をかけ終わったのか、部長と蒼は再び正門の前へと立って、全員に届くように声を上げた。
「三周で一番設定タイムから遅れた奴は最後にもう一周だ!」
「地獄かよ」
 素で言葉が口から出てしまった。
 運動不足の体は最早限界に近い。サウナは心肺機能を高めるという話を聞いたことがあるが、ここまでの走行距離では高まった機能も追いついていない。
 問題は心拍数が上がっている今の状況で、平常時のように時間のカウントが上手く出来るのかということだ。
 サウナだけならいざ知らず、足も限界に近い中でカウントするのは至難の業と言えるだろう。
「では、スタート!」
 順番をきっちりと決められて並ばされた後、またしても蒼の拍手によって部員たちが次々とスタートしていく。
 先輩方は後ろに陣取っており、スタートしていく部員は全員一年生だ。
 滝部長も今回は指示役の蒼の隣にはいない。もしかして一緒に走るのだろうか?
「……」
 俺の前の部員が出発し、一番先頭には俺が立つ。
 なんとなく蒼の方を見てみると、蒼は何も言わずにほほ笑むだけだった。
 普通の奴ならその微笑に見とれてしまい、まともなスタートは出来ないだろう。
 やはり最初の邂逅が最悪だっただけで、よくよく見れば顔立ちが整った美人な先輩だ。
 ジャージ姿も見眼麗しく、淳介があそこまで羨ましがった理由もよくわかる。
 しかし俺はどうだ。こんな無理やりGTSの舞台に引き戻してきた張本人だ。恨みこそすれ、好意などあろうはずがない。
 部活対抗戦の前夜もそうだが、俺が蒼の何に引っかかってここまで来てしまったのか、見当もつかない。
 全くもって掴みどころのない先輩だ。
「大海クン」
「なんすか」
 急に、そんな蒼が声をかけてくる。
 何だよ。合図なら言葉じゃなくて拍手でやってくれ。
「あたし、手を叩いてるわよ」
 瞬間、俺はダッシュし始めた。
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