サ帝

紅夜蒼星

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「俺もGTS部だったけど、大海のことは知らなかった。まぁ県大会出場レベルのやつが、全国大会の結果なんて気にしないし……だけど、滝と海城はお前を知っていた。横浜中央にいるのを知ったのは最近みたいだったけど」
 同学年の奴にも、昨日までGTSについて話してくる奴はほとんどいなかった。
 聞かれてもはぐらかすか興味がないフリをしていたので、淳介、雅也、裕介の三人しかこの学校で俺の過去を知る人はいない。はずだった。
 どこからその情報が漏れてしまったのか――普通に裕介あたりな気はするけれど。
「海城に直接スカウトされたんだろ? 罪な男だな。まぁあいつ可愛いし、もう大好きオーラが目に見えてわかるよ」 
「別に。好きでもなんでもないすよ。あんな人」
「ツンデレは皆そう言うんだよ」
 先輩方の中で、最早そのあたりは周知の事実らしい。
 蒼にも伝わっているのだろうか。あの女だったら、そんな情報すら利用してきそうなものだ。
「というか福良、急に入ってきて海城先輩を狙うだなんて、それはいくらなんでも難易度が高すぎるだろ」
「いや違うんだって。全然狙ってないの。狙ってないどころか狙われてると言っても過言じゃないの」
「海城先輩のことは皆が大好きだし、不可侵領域がGTS部で結ばれている(非公式)んだから、ポッと出のお前には厳しいぞ」
「誰がポッと出だ誰が」
 途端にサウナの中が騒がしくなる。
 誰も喋ろうとしないから、自分も押し黙っておくというなんとなくの沈黙は誰しも経験したことがあるだろう。
 それはGTSという競技であろうと同じことだ。
 だがそれがこの競技では命取りとなる。
 だから恐ろしいのだ。このGTSというスポーツは。
 分からなくなってくる。本当にちょっとしたことで、分からなくなってきてしまうのだ。
 自分がどのくらいカウントしているのか。
 それどころか、これは何のカウントなのか。自分は一体サウナで何をしているかすら。
 ――喋りすぎだぜ。お前ら。
 石川先輩も含めて。
「……それで――」
 先輩は新たに会話の流れを作ってしまっている。
 先輩がどの程度熱さに耐えられるのか、他の奴らもあとどのくらい耐えられるのかは分からない。
 だが、これはあくまでもGTSだ。設定時間は間もなくのはず。
 油断した方が負けるのがこの競技だ。悪いがお先に失礼させて頂こう。
 サウナは温度が高く、ずっと目を開けていることは難しい。全員が下を向いたり、目を瞑って乾燥から目を守るタイミングを見計らう。
 全員の視界から俺が消えたことを確認し、俺は静かに、サウナの扉を開けて外へ出た。
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