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第七話 【魔物】 4
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「確かに声はそこから聞こえてんだ! クソッタレが!」
ゼルフィユが怒鳴る。彼の鋭爪のすさまじい一撃は、見事にダズファイルを切り裂いた。
しかし、切り裂かれたと同時に、文字通りダズファイルの姿は雲散霧消した。
ありえない。
眼だけでなく、他の感覚も誰より優れているであろうゼルフィユが、敵の場所を見誤るだと?
ギルドルグは舌打ちしながら、残り四人となっているダズファイル達に目を向ける。
「何故我がここまで力を発揮できるか興味深そうだな?」
その内の一人、玉座に最も近いダズファイルのみが口を開いた。
口を開いているダズファイルが本体なのだとしたら、そこから最も遠くのダズファイルを攻撃した二人は、やはり間違っているということになる。
信じがたいが、この状況を見る限り事実ということだろう。
ギルドルグは静寂をもって、ダズファイルに言葉の続きを促した。
「解答は我の後ろにあるだろう。貴様たちには触れることすら叶わぬが、我は常に秘宝の魔力を使用することが可能だ。貴様らに、万に一つの勝ちもない」
霧の王は、玉座の背後で灰色に輝く宝石を指さす。
永遠の秘宝。最強の魔法石。剣持つ獅子の護り石。ライオンハート。
魔法石は使用者を選ぶ。
見つけた者。奪い取った者。手にとった者。悲しいまでに平等に、魔法石は自らの内包する魔力を差し出す。
ギルドルグの上司、鏡介も似たようなことを言っていた。
“武器は所有者に選ばれるのではない。武器が所有者を選ぶのだ”と。
そう考えれば、歴戦の戦士であるダズファイルに、ライオンハートがほほ笑むのも当然の摂理か――
――いや、待てよ。
ギルドルグは思考する。
果たしてそれだけなのか? それだけで、ここまで正確に、精巧な幻影は作り出せるのか?
ダズファイルがいくら歴戦の猛者とはいえ、人間の処理演算能力には限界があるだろう。自分といくら似ているものとはいえ、風でも吹けばその形状は――
そこで。
ギルドルグは全ての解答にたどり着いた。
「そうか。なるほどな」
この状況を打破する、唯一の突破口へと。
「アンタ言ったよな。忌々しい奴らがきた、ってよ」
ギルドルグは今、ダズファイルとの邂逅を思い出していた。
あれは静かな夜のことだった。ダズファイルと国境警備軍の襲撃があるまでは。
風もなく、静かな夜だった。
まさに、その瞬間までは。
「タイミング的に考えて、忌々しい奴らってのは国境警備軍のことだと思ってた。けどアンタのこの能力が無敵ならば、警備軍も始末するのはそう難しくない筈だ。造作も無い筈だ。それなのにそうしなかった理由は何か。忌々しい奴らとは何なのか」
今現在、外は風が吹き付け、前に進むのもままならないはずだ。
もしその風が、霧すらも吹き飛ばすほどだとしたら?
消えた霧の兵士たち。あの時、風と共に流れて消えた影たちは、操作によるものではなく風が吹いた結果なのだとしたら?
閉ざされた退路。ギルドルグ達は閉じ込められたのではなく、閉ざされた空間の意味は外からの風の侵入を防ぐことだったとしたら?
「あのときあって今ないもの。解答は影も霧も、何もかも吹き飛ばす“風”だ。ダズファイル・アーマンハイド」
答えは一つだ。この暴風の前では、彼の恐るべき能力も意味を成しえない。
いくら精巧な幻影を作り出せるといえども、大自然の前では皆平等に消し飛ばされる。
霧厳山脈の気候は、ダズファイルだけを愛したわけではなかったのだ。
「……よくも考え付くものだ。だが、だからなんだというのだ? ここは閉ざされた空間。風が吹く要素はどこにもない」
小馬鹿にするように笑う。
確かにそうだ、が。ダズファイルの返答に、ギルドルグは内心でほくそ笑む。
――この予想を嘲笑して一蹴した時点で、アンタの焦りが透けて見えるよ。ダズファイル。
「なるほどなぁ」
ピースベイクだ。いつの間にここまで接近していたのか。
彼はギルドルグのやや後方に立っており、隻眼でダズファイルを真っ直ぐ見据えながら一歩ずつ歩を進める。
ゼルフィユが怒鳴る。彼の鋭爪のすさまじい一撃は、見事にダズファイルを切り裂いた。
しかし、切り裂かれたと同時に、文字通りダズファイルの姿は雲散霧消した。
ありえない。
眼だけでなく、他の感覚も誰より優れているであろうゼルフィユが、敵の場所を見誤るだと?
ギルドルグは舌打ちしながら、残り四人となっているダズファイル達に目を向ける。
「何故我がここまで力を発揮できるか興味深そうだな?」
その内の一人、玉座に最も近いダズファイルのみが口を開いた。
口を開いているダズファイルが本体なのだとしたら、そこから最も遠くのダズファイルを攻撃した二人は、やはり間違っているということになる。
信じがたいが、この状況を見る限り事実ということだろう。
ギルドルグは静寂をもって、ダズファイルに言葉の続きを促した。
「解答は我の後ろにあるだろう。貴様たちには触れることすら叶わぬが、我は常に秘宝の魔力を使用することが可能だ。貴様らに、万に一つの勝ちもない」
霧の王は、玉座の背後で灰色に輝く宝石を指さす。
永遠の秘宝。最強の魔法石。剣持つ獅子の護り石。ライオンハート。
魔法石は使用者を選ぶ。
見つけた者。奪い取った者。手にとった者。悲しいまでに平等に、魔法石は自らの内包する魔力を差し出す。
ギルドルグの上司、鏡介も似たようなことを言っていた。
“武器は所有者に選ばれるのではない。武器が所有者を選ぶのだ”と。
そう考えれば、歴戦の戦士であるダズファイルに、ライオンハートがほほ笑むのも当然の摂理か――
――いや、待てよ。
ギルドルグは思考する。
果たしてそれだけなのか? それだけで、ここまで正確に、精巧な幻影は作り出せるのか?
ダズファイルがいくら歴戦の猛者とはいえ、人間の処理演算能力には限界があるだろう。自分といくら似ているものとはいえ、風でも吹けばその形状は――
そこで。
ギルドルグは全ての解答にたどり着いた。
「そうか。なるほどな」
この状況を打破する、唯一の突破口へと。
「アンタ言ったよな。忌々しい奴らがきた、ってよ」
ギルドルグは今、ダズファイルとの邂逅を思い出していた。
あれは静かな夜のことだった。ダズファイルと国境警備軍の襲撃があるまでは。
風もなく、静かな夜だった。
まさに、その瞬間までは。
「タイミング的に考えて、忌々しい奴らってのは国境警備軍のことだと思ってた。けどアンタのこの能力が無敵ならば、警備軍も始末するのはそう難しくない筈だ。造作も無い筈だ。それなのにそうしなかった理由は何か。忌々しい奴らとは何なのか」
今現在、外は風が吹き付け、前に進むのもままならないはずだ。
もしその風が、霧すらも吹き飛ばすほどだとしたら?
消えた霧の兵士たち。あの時、風と共に流れて消えた影たちは、操作によるものではなく風が吹いた結果なのだとしたら?
閉ざされた退路。ギルドルグ達は閉じ込められたのではなく、閉ざされた空間の意味は外からの風の侵入を防ぐことだったとしたら?
「あのときあって今ないもの。解答は影も霧も、何もかも吹き飛ばす“風”だ。ダズファイル・アーマンハイド」
答えは一つだ。この暴風の前では、彼の恐るべき能力も意味を成しえない。
いくら精巧な幻影を作り出せるといえども、大自然の前では皆平等に消し飛ばされる。
霧厳山脈の気候は、ダズファイルだけを愛したわけではなかったのだ。
「……よくも考え付くものだ。だが、だからなんだというのだ? ここは閉ざされた空間。風が吹く要素はどこにもない」
小馬鹿にするように笑う。
確かにそうだ、が。ダズファイルの返答に、ギルドルグは内心でほくそ笑む。
――この予想を嘲笑して一蹴した時点で、アンタの焦りが透けて見えるよ。ダズファイル。
「なるほどなぁ」
ピースベイクだ。いつの間にここまで接近していたのか。
彼はギルドルグのやや後方に立っており、隻眼でダズファイルを真っ直ぐ見据えながら一歩ずつ歩を進める。
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