いつもは変わる

影中 りつき

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1話 いろいろいろいろ突然で

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3月中旬。桜の蕾が膨らみ始める頃。
私、朔夜 千賢さくや ちさとは有名私立高校に入学が決まった…までは良かったのだが突然の引越しを余儀なくされた。

「合格おめでとう!明日からばあちゃんの家に住んでもらうから。」
「は?」

突然何言ってんだうちの父は。

「なんで?そりゃばあちゃんの家からの方が高校近いし、わからなくもないけど。」
「あぁ、このマンション売り払うから。」
「はぁ!?」

さらに何言ってんだこの親父は。

「いや~父さんと母さんちょっくら世界一周でもしてこようと思って(笑)」

目眩がした。この薄らハゲはなにを言い出してやがる。

「ってことで2年くらいは帰らないからおばあちゃんとこ住んでもらおうと思って。いいわよね。」

お母さん…あんたもか。

「……喜んで!!」

私も相当イカれてた。
まぁ、私が喜ぶのも無理はない。なぜならばあちゃん子だからというのもあるけど、ばあちゃんの家には私の溺愛する従兄弟いとこが住んでる。一緒に屋根の下で暮らせるなんて!!最高じゃないか!

そんなこんなで翌日。最低限の荷物をまとめ、あとの荷物は引越し業者に頼み、ばあちゃんの家に向かった。すると、古ぼけた駄菓子屋のばあちゃんの家、その横に真新しい新築ができていた。お隣さんもいるのかとか考えていたら、ばあちゃんが出てきた。

「おや千賢。久し振り。よく来たね。」
「うん。久しぶり。今日からよろしくね。」

挨拶を交わし、その駄菓子屋の中に入ろうとしたとき、その発言は飛びたした。

「あぁ、言ってなかったけど千賢も住むっていうから家建てたんだよ。だからそっちに住んでおくれ。」

私は一瞬、家とかそんな簡単に建てるもんなのかとか、新築に住めるぜひゃっほうとかそんなことで頭がいっぱいになった。

「あり…がとう………?」

頭は整理されてはいないが考えること5秒。やっと出た言葉がこれだった。感謝の言葉って大事だと思う。
最初はばあちゃんの具合やボケてないかを心配したけど、結局そんな心配はいらず、隣に建ってた新築に住むことになった。いろいろめちゃくちゃだけどうちのばあちゃんならやりかねない。株取引で稼いでるスーパーばあちゃんだからね…。というか私の順応力半端なくない??

新築に緊張しながら上がり込む。

「おおお!?玄関だけでも広い過ぎない!?」
「ふふ…うちは広斗も居るからね。千賢も住むって聞いて急いで建てさせたからあまり凝った作りではないけれど。」
「いやいやばあちゃん十分だよ!ありがと~!!!」

って待てよ?

「ばあちゃん…いつから私が住むこと決まってたの…?」
「ふふふ。」
「え、いやふふふじゃなくて!!」
「ほほほ。」
「誤魔化したいのは分かった。」

本人の同意もなしに決めるとか少女漫画じゃないんだからどうかと思う。

ガチャ

「ただいま~。」
「あ、広斗ひろと!!」

バタン。

広斗は私の顔を見るなり開けたドアを閉めてしまった。

「なんで戻るの!?」

ガチャ

「千賢…来てたんだ…。」

そう言って渋るような顔をする広斗。
そう、何を隠そうこの朔夜 広斗さくや ひろとこそが私が溺愛する従兄弟なのだ。でもいつしか溺愛し過ぎて引かれるようになっちゃったんだよねてへぺろ
「うん!会いたかったよ~広斗!」

抱きつこうとするとサッと避けられる。

「むむ。動きが素早くなっておる…やるな。」
「高校生にもなって異性に抱きつくとかありえないから。」
「えーそれは広斗の可愛さが罪なんだよ!!」
「俺に罪着せるなよ!!」

そんな会話をしながら居間に誘導される。

「おお~!!やっぱり広い!」

私の家…いや、元私の家のリビングの三四倍はあるよ。マンション暮らしだったからか一軒家の広さにびっくりする。というか絶対普通の一軒家よりも広いよね…。

「そこら辺座ってて。」
「あ、うん。」

口が開いたまま入口で立ち竦んでいる私に広斗が言う。私はとりあえずダイニングテーブルに座り、私の向かいにばあちゃんが座った。

「緑茶でいいよね。」
「うん!ありがとう。」

どうやらお茶を入れてくれるみたいだ。広斗は昔から手先が器用で料理を始めとした家事全般をやっているところをよく見る。世話焼きな性分であるため、きっと家事が好きなんだろうなぁなんて思う。しばらくすると、広斗は三人分のお茶をお盆に載せてキッチンから出てきた。お茶を置き、私の横に腰掛ける。一応嫌われては無いんだなと勝手にひとりで安堵する。

「広斗。今日から千賢もここに住むからよろしくね。」
「うん。話は聞いてたけどほんとに住むんだ…。」
「うん!ってか広斗も知ってたの?私がここに住むことになるって。」
「一昨日聞いたばっかだよ。」
「うわ、私と一緒…。」
 
広斗も被害者側だったか。

「ふふふ。仲良くやってね。」
「もっちろんだよ!ね、広斗!!」
「はいはい。けど、俺の部屋には勝手に入るなよ。」
「え、何エロ本!?」
「違う!!普通に考えて男の部屋には勝手に入らないだろ!」
「わかったわかった!広斗がいる時に入ればいいのか!」
「いや…それも……あぁもういいよそれで!」

私が縋るような目で見続けていたらすんなりと広斗は折れてくれた。押しに弱いところも可愛いなぁ…。姉がいる私にとって弟や妹は憧れで、広斗は同い年だけど自分に弟がいたらこんな感じだろうなって思う。

いろいろ突然だったけど、楽しい生活になりそうだな。そんな思いで私は春を迎えた。
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