19 / 35
19.公爵男子の独白
しおりを挟む
社交界デビューは15歳。幾人かの令嬢とダンスは踊ったが、まだ自分に婚約者はいない。
皆同じような服装、髪型で、特別な女性というものが自分の中でいなかった。
似たりよったりという表現は姉に怒られそうだ。
だが令嬢達と話をしても、皆一様に差し障りない世間話しかせず特徴が無い。
普遍な令嬢量産の機械でもあるのだろうか。
最近の繊維業における機械化は目覚ましい物がある。令嬢育成機があっても不思議では無い。
何をやらせても優秀な姉はもう婚約が決まっている。
だが自分は嫁を娶るより、建築や設計をしていたい。
人間に執着するような恋愛には、縁がないと思っていた。
図書館である少年に出会った。
年は16、というがダボダボの麻シャツから見える細い首は自分と同じ年頃の男のものには見えなかった。
だがその少年の持つ学術知識たるや自分を遙かに凌駕していた。
一体この少年は何者だ?と考える暇を与え無いかのように少年は次の行動を起こすので、付いていくのに必死だった。
教授の無罪を晴らすためだから失敗できないと自分を追い詰めているからか、その手がかりが見つかったからか、今日はいつもより心臓が早い。
少年が笑う。また心臓が跳ねる。
いつの間にか自分の中で謎の少年を認めていた。
クーと呼びかけると、ウィルと愛称で呼び返される。
ボワッソ弟が連行されたあとクーと目線か絡まり、感極まって歓声をあげながら互いに抱擁した。
腕を回していた小さな体は骨が感じられるほど薄く、でも所々柔らかかった。
自分の胸元までしか無い背。力いっぱい返される抱擁は心地よい苦しさだった。
我に返って腕を外したがクーはまだ抱きついていて、ギュッと力が入り腕の力は解かれた。
頭がこてっと胸にもたれ掛かってきた。
体の芯が激しく痺れる。どうしたんだこの心臓は。脈打つ音が耳で聞こえるほどドクドクしている。
顔が、体が熱い。
思いっきり抱きしめたい。
頬ずりしたい。
この現象の原因である小さな生きものは、息を少し吐き一歩離れる。
「やったね。」
照れを隠すようにニッと笑った。
こんな優秀な者をゴシップ記者として眠らせておくなんて勿体無い。そうだ、従者にしたら良いではないか。
分野は違うが他の仕事でもその有能さは発揮されるだろう。
従者になるんだからリオンヌ邸に住めばいい。自分専属なんだから同じ部屋でもいいか。
このベッドは広い。一緒に寝ても大丈夫だろう。
初めてできた『親友』にどうしようもなく気分が高揚する。
クーの意向を確認せず準備をしていると姉に止められた。
そして教授がクーを助手にと望んでいることを知る。
そうだ、クーは大学へ行きたがっている。
『親友』ならばその道を応援すべきだろう。
心の底でチリチリする変な感情が邪魔だな。
クーが教授の助手となった。
茹だるような暑さの夏、更に火でガラス器具を加熱している。襟足から流れる汗が見える。
薬品のツンとする刺激臭に交じるクーの汗の匂い。
甘く、そして少し酸っぱい。
たまらない。
クーの汗の匂いに病みつきになりそうだ。
変態っぽいが、本当なのだ、仕方ない。
もっと匂いを嗅ぎたくて、できるだけ側に寄る。
からかってきたから頬をグリグリしてやる。
柔らかさに、その笑顔に心の飢えが満たされる。
クーが男で良かった。女性ならこんな様に触ることは以ての外、近づくことすらできない。
不味いと思うほど自分の中のクーが大きな存在になってゆく。
「んー、ここに来るまでは決まった寝床なんて無かったよ。部屋を借りるほどお金ないし。」
何気なく教授の助手になる前の生活を聞いて驚いた。
「どこに寝てたか?だいたいは橋の下だけど、図書館でお世話になったこともあったかな。
アランの新聞社に泊まってもいたけど、穴を狙われるから止めたんだよね。」
……あな?
………………穴ですと?
「ウィル、鼻息荒過ぎ、過呼吸になるよ。
穴を狙われていると言ってもスブッとはされてないから大丈夫。先っぽだけだし。」
先っぽだけ。
嫉妬と、先っぽだけで止めた偉大さと、無垢な子に悪戯した事への怒りが湧いてきた。
クーは自分が何をされたか知らないに違いない。
自分だって、色々知ったのは最近のこと。
クーが知らないのを良いことに、あんな事やこんな事をしたに違いない。
アランとやら、許さない。
クー、怖かっただろう、可哀想に。
「確かに少し怖かったけど、結構気持ち良かったよ。
ちょっと痛かったけどね。
うわっ!ウィル!!
血が!!!」
怒りに、頭に血が登りすぎて鼻血が出てしまった。何故か下半身にまで血が集まって恥ずかしい。
鼻の上を軽い力で抑え、止血してくれるクー。
嗚呼クー、そんな近くに寄らないでくれ。
でももっとクーを近くに感じたい、なんなら抱きしめたいという激情を理性で鎮める。
「耳掻きって言うんだって。
東洋の文化だそうだよ。自分じゃできないからって言われても、耳に入れられるの怖いよね。
耳の粘膜って傷つきやすいしさ。」
耳!!
粘膜!!!
クーの口からでる卑猥な言葉に目眩がする。
いつの間に来たのか、教授が温かい目でこちらを見ていた。
そんな平和で刺激的な日々はクーの性別がわかる日あのまで続いたのだった。
皆同じような服装、髪型で、特別な女性というものが自分の中でいなかった。
似たりよったりという表現は姉に怒られそうだ。
だが令嬢達と話をしても、皆一様に差し障りない世間話しかせず特徴が無い。
普遍な令嬢量産の機械でもあるのだろうか。
最近の繊維業における機械化は目覚ましい物がある。令嬢育成機があっても不思議では無い。
何をやらせても優秀な姉はもう婚約が決まっている。
だが自分は嫁を娶るより、建築や設計をしていたい。
人間に執着するような恋愛には、縁がないと思っていた。
図書館である少年に出会った。
年は16、というがダボダボの麻シャツから見える細い首は自分と同じ年頃の男のものには見えなかった。
だがその少年の持つ学術知識たるや自分を遙かに凌駕していた。
一体この少年は何者だ?と考える暇を与え無いかのように少年は次の行動を起こすので、付いていくのに必死だった。
教授の無罪を晴らすためだから失敗できないと自分を追い詰めているからか、その手がかりが見つかったからか、今日はいつもより心臓が早い。
少年が笑う。また心臓が跳ねる。
いつの間にか自分の中で謎の少年を認めていた。
クーと呼びかけると、ウィルと愛称で呼び返される。
ボワッソ弟が連行されたあとクーと目線か絡まり、感極まって歓声をあげながら互いに抱擁した。
腕を回していた小さな体は骨が感じられるほど薄く、でも所々柔らかかった。
自分の胸元までしか無い背。力いっぱい返される抱擁は心地よい苦しさだった。
我に返って腕を外したがクーはまだ抱きついていて、ギュッと力が入り腕の力は解かれた。
頭がこてっと胸にもたれ掛かってきた。
体の芯が激しく痺れる。どうしたんだこの心臓は。脈打つ音が耳で聞こえるほどドクドクしている。
顔が、体が熱い。
思いっきり抱きしめたい。
頬ずりしたい。
この現象の原因である小さな生きものは、息を少し吐き一歩離れる。
「やったね。」
照れを隠すようにニッと笑った。
こんな優秀な者をゴシップ記者として眠らせておくなんて勿体無い。そうだ、従者にしたら良いではないか。
分野は違うが他の仕事でもその有能さは発揮されるだろう。
従者になるんだからリオンヌ邸に住めばいい。自分専属なんだから同じ部屋でもいいか。
このベッドは広い。一緒に寝ても大丈夫だろう。
初めてできた『親友』にどうしようもなく気分が高揚する。
クーの意向を確認せず準備をしていると姉に止められた。
そして教授がクーを助手にと望んでいることを知る。
そうだ、クーは大学へ行きたがっている。
『親友』ならばその道を応援すべきだろう。
心の底でチリチリする変な感情が邪魔だな。
クーが教授の助手となった。
茹だるような暑さの夏、更に火でガラス器具を加熱している。襟足から流れる汗が見える。
薬品のツンとする刺激臭に交じるクーの汗の匂い。
甘く、そして少し酸っぱい。
たまらない。
クーの汗の匂いに病みつきになりそうだ。
変態っぽいが、本当なのだ、仕方ない。
もっと匂いを嗅ぎたくて、できるだけ側に寄る。
からかってきたから頬をグリグリしてやる。
柔らかさに、その笑顔に心の飢えが満たされる。
クーが男で良かった。女性ならこんな様に触ることは以ての外、近づくことすらできない。
不味いと思うほど自分の中のクーが大きな存在になってゆく。
「んー、ここに来るまでは決まった寝床なんて無かったよ。部屋を借りるほどお金ないし。」
何気なく教授の助手になる前の生活を聞いて驚いた。
「どこに寝てたか?だいたいは橋の下だけど、図書館でお世話になったこともあったかな。
アランの新聞社に泊まってもいたけど、穴を狙われるから止めたんだよね。」
……あな?
………………穴ですと?
「ウィル、鼻息荒過ぎ、過呼吸になるよ。
穴を狙われていると言ってもスブッとはされてないから大丈夫。先っぽだけだし。」
先っぽだけ。
嫉妬と、先っぽだけで止めた偉大さと、無垢な子に悪戯した事への怒りが湧いてきた。
クーは自分が何をされたか知らないに違いない。
自分だって、色々知ったのは最近のこと。
クーが知らないのを良いことに、あんな事やこんな事をしたに違いない。
アランとやら、許さない。
クー、怖かっただろう、可哀想に。
「確かに少し怖かったけど、結構気持ち良かったよ。
ちょっと痛かったけどね。
うわっ!ウィル!!
血が!!!」
怒りに、頭に血が登りすぎて鼻血が出てしまった。何故か下半身にまで血が集まって恥ずかしい。
鼻の上を軽い力で抑え、止血してくれるクー。
嗚呼クー、そんな近くに寄らないでくれ。
でももっとクーを近くに感じたい、なんなら抱きしめたいという激情を理性で鎮める。
「耳掻きって言うんだって。
東洋の文化だそうだよ。自分じゃできないからって言われても、耳に入れられるの怖いよね。
耳の粘膜って傷つきやすいしさ。」
耳!!
粘膜!!!
クーの口からでる卑猥な言葉に目眩がする。
いつの間に来たのか、教授が温かい目でこちらを見ていた。
そんな平和で刺激的な日々はクーの性別がわかる日あのまで続いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる