あなたと観たい景色

如月 りん

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終章 未来へ

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私はあの日、死んでしまった。はねられるとわかった時、怖くて動くことができなくて、
はねられてしまった。自分から出たであろう血液、一瞬だけ激痛が走るが後は何も感じなくなった。視界が真っ暗になった。そして走馬灯が足速で流れる。気がつくと私は事後現場を上から見てみた。そこには、野次馬と警察、トラックの運転手、そして運転手に殴りかかり、叫んでいる彼の姿があった。
あんなに怒りを露わにしてるのははじめて見た。彼は家に帰って行く。私もついて行こうとしたが、どこからか声が聞こえて止まった。頭に直接語りかけるような感じだ。
どうやら、死後の世界を管理している場所があるらしく、今は多忙の時期。履歴書を見る順番が抽選で、最短でも数ヶ月、それから天国に行くか、地獄に行くのを決めるのは数年、また、私みたいに不慮の事故の者は、転生も視野に入れるためその分も上乗せするのでさらに時間がかかるらしい。当たり前だが死んでいるので空腹や痛みはないらしい。ちなみに歩くことも飛ぶことも自由らしい。一通りの説明を聞き終えた私は家へ向かった。母は大声で泣き崩れていた。当たり前だ。数年前に息子を亡くし、その傷も癒える前に娘も亡くなってしまったのだから。後ろから抱きしめたかったが体が透けて出来なかった。彼の家に行くと、暗い部屋で泣いていた。寄り添いたかったが母同様、体が透けてしまうので見ていることしかできなかった。ある日夢枕に立ってみたが、会うと何を話せばいいのか分からなかった。彼が目覚めてから
「いろいろな景色を観させて」
そう言ったら彼はあたりを見回す。
次の日、彼は私の家に来た。いろいろな話をしていた。そして彼はまた泣いた。
次の日から彼は、学校から帰ったら猛勉強するようになった。
もう大丈夫だと思った私は私がいるお墓に行った。数ヶ月後、彼は私のお墓を訪れた。
高校に受かったこと。両親と凛花さんで団欒を過ごしていること。そして、私が好きだと言うこと。どれもすごく嬉しかった。
母は先に来ていて、沢山の話を聞きた。
彼が来るかもしれないと、花立を片方が開けていたが、予想が当たった。
彼は、赤いアネモネと白いツツジの花を挿した。彼がこれから視る景色を一緒に見たいのでついて行くことにした。天国か地獄か転生か、運命が決まるその日まで。 
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