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第2章 永久凍土の守銭奴
2.0 情報屋
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「文字が読めねぇのか兄ちゃん、帰りな、もう閉店だよ」
CLOSEの札が掛けられた場末のパブで仏頂面の店主が吐き捨てた。
恰幅のいい老齢の男で、頭はすっかり禿げあがっている。
「・・・・・・・」
勢いよく扉を開け放ったのはボロボロの服を着たみすぼらしい男だ。
静止の言葉も聞かずに男はズカズカと店内に押し入るとカウンター越しに店主に歩み寄った。
バンッ、とカウンターに手を叩きつける男。よく見ると叩きつけられたのは掌だけではなくてその下に金銭が握られていた。その額は5000ルーブル。その紙幣が束となっており目算でも100枚近くはあるようだ。
酒屋の会計にしては金額が多すぎる。この寂れた店にそこまで高額の酒など置いてはいない。
「この国で、いや、この世界で最高のヒットマンを紹介してくれ。"金ならいくらでもある"!」
店主はカウンターから金を無造作に奪い上げると一枚一枚数え上げ、偽札でないかをチェックしていく。
「汚ねぇ金だな。全部泥まみれでボロボロじゃねーか。それにこれは血痕だな? 真っ当な金じゃあるめぇ」
「ボロボロで後ろめたかろうと金は金だ。文句はねぇだろ! 足りねぇったならまだあるぞ」
「はっ、十分だよ。金は貰い過ぎても少なすぎてもいけねぇ。適量ってもんがあらぁ」
そういうと店主は金を懐へとしまい込む。
「"金ならいくらでもある"ねぇ、随分と大口叩くじゃねーか。そいつが本当なら苦労はねぇだろ」
鼻で笑う店主に向かって男は手に持っていたアタッシュケースを手渡した。
店主が訝しみながらケースを開くと、同じくボロボロの札束がケースにぎっしり詰まっている。この国で生涯働いたとしても稼げないような大金だ。その金を見てひとこと「覚悟だけはあるってわけか」とつぶやいて再び閉じた。
「酒場の店主としては三流の俺だが、情報屋としての顔は超一流だ。"世界一の殺し屋"確かに俺は知っている。だが、アイツだけはやめておけ、他に腕の良いのを何人か見繕ってやる。そのケースの中身半分以下でも喜んで仕事してくれるだろうよ」
「それではダメなんだ!」
男が叫んだ。店主はそんな男の態度に眉を顰める。
「半端な奴ではダメなんだ。これまでも何人ものヒットマンを使ったが尽くが返り討ちに会い殺された。奴を殺すには並大抵では不可能だって思い知らされた」
「よぉ兄ちゃん。ここまでの金をかき集めてまで殺したい奴ってのはどこのどいつなんだ?」
「いや・・・・それは・・・・・」
「安心しろ、噂話は大好きだが口の堅さは保証するぜ。それに、差し向けた殺し屋が全員ぶっ殺されてるってなら、ターゲットも知らないまま仲介なんて出来やしねぇ。信用にかかわる」
男は暫く考えたのちに重い口を開いた。
「・・・・テオドール = フォノトフ」
「!? この街でテオドールって言やぁ、まさか、あの武器商"ドラコン"の事か?」
驚いた店主は頭を抱えて椅子にもたれかかった。
そしておもむろにタバコを取り出すとため息まじりに一服する。
「なるほどな。そりゃあ半端な奴じゃあ殺されるのが落ちだ。殺したいほど奴を憎んでる奴なんて石を投げりゃあ当たるだろうしな」
「・・・あんたの言う"世界一の殺し屋"。そいつでも無理だと思うか?」
「・・・・・・・・」
深くたばこを吸いこむと、店主は煙と一緒に長い息を吐きだした。
そして暗い表情で口を開く。
「奴がその気になれば殺せねぇ人間なんていねぇ。絶対にだ。一国の大統領だろうが、聖人だろうが頭を吹き飛ばすのに苦労はしねぇだろう」
「そ、それじゃあ!」
「だが、ダメだ! お前に奴は紹介しねぇ。復讐なんてやめてその金で遊んで暮らせ」
男はうつむき押し黙る。
店主は天井を見上げタバコをふかす。
店内に流れる静寂は、どこか不穏な空気を孕んでいた。
そして、男が顔を上げる。
「いいからそいつを今すぐここに呼び出せ。テオドールを地獄に叩き込むためなら、こっちは死ぬ覚悟だってとっくにできてるんだ。もちろん殺す覚悟もな」
男がコートから取り出した銃を店主に向ける。
銃口を向けられた店主も、こういう事態になれているのか慌てふためくこともなく冷静なままだったが、その目つきは鋭くなり男を睨みつける。
「・・・・・いいだろう。呼んでやる。どうなろうと自己責任だぞ?」
「あぁ、分かってる」
「ひとつだけアドバイスだ。奴は腕は確かだがとにかく金に汚い。執着していると言ってもいいだろう。とにかく奴相手に安く済ませようなんてゆめゆめ考えるな。その金はもちろん、貯えがあるんだったら全部吐き出せ。あとは、もうお前次第だ」
店主が電話を何処かへとかける。交わした言葉は少なく、一言二言程度だった。
受話器を置き、タバコを深く吸い込む。
そしてもう一度大きくため息を吐き出した。
「覚悟しろよ。これから来る奴は普通じゃねぇ。殺し屋になるために生まれた天才だ。奴が信頼してるのは金のみ。裏社会に生きる伝説。やつは正真正銘の・・・・」
そして男に向けた目には憐みの色が込められていた。
「・・・化物だからよ」
CLOSEの札が掛けられた場末のパブで仏頂面の店主が吐き捨てた。
恰幅のいい老齢の男で、頭はすっかり禿げあがっている。
「・・・・・・・」
勢いよく扉を開け放ったのはボロボロの服を着たみすぼらしい男だ。
静止の言葉も聞かずに男はズカズカと店内に押し入るとカウンター越しに店主に歩み寄った。
バンッ、とカウンターに手を叩きつける男。よく見ると叩きつけられたのは掌だけではなくてその下に金銭が握られていた。その額は5000ルーブル。その紙幣が束となっており目算でも100枚近くはあるようだ。
酒屋の会計にしては金額が多すぎる。この寂れた店にそこまで高額の酒など置いてはいない。
「この国で、いや、この世界で最高のヒットマンを紹介してくれ。"金ならいくらでもある"!」
店主はカウンターから金を無造作に奪い上げると一枚一枚数え上げ、偽札でないかをチェックしていく。
「汚ねぇ金だな。全部泥まみれでボロボロじゃねーか。それにこれは血痕だな? 真っ当な金じゃあるめぇ」
「ボロボロで後ろめたかろうと金は金だ。文句はねぇだろ! 足りねぇったならまだあるぞ」
「はっ、十分だよ。金は貰い過ぎても少なすぎてもいけねぇ。適量ってもんがあらぁ」
そういうと店主は金を懐へとしまい込む。
「"金ならいくらでもある"ねぇ、随分と大口叩くじゃねーか。そいつが本当なら苦労はねぇだろ」
鼻で笑う店主に向かって男は手に持っていたアタッシュケースを手渡した。
店主が訝しみながらケースを開くと、同じくボロボロの札束がケースにぎっしり詰まっている。この国で生涯働いたとしても稼げないような大金だ。その金を見てひとこと「覚悟だけはあるってわけか」とつぶやいて再び閉じた。
「酒場の店主としては三流の俺だが、情報屋としての顔は超一流だ。"世界一の殺し屋"確かに俺は知っている。だが、アイツだけはやめておけ、他に腕の良いのを何人か見繕ってやる。そのケースの中身半分以下でも喜んで仕事してくれるだろうよ」
「それではダメなんだ!」
男が叫んだ。店主はそんな男の態度に眉を顰める。
「半端な奴ではダメなんだ。これまでも何人ものヒットマンを使ったが尽くが返り討ちに会い殺された。奴を殺すには並大抵では不可能だって思い知らされた」
「よぉ兄ちゃん。ここまでの金をかき集めてまで殺したい奴ってのはどこのどいつなんだ?」
「いや・・・・それは・・・・・」
「安心しろ、噂話は大好きだが口の堅さは保証するぜ。それに、差し向けた殺し屋が全員ぶっ殺されてるってなら、ターゲットも知らないまま仲介なんて出来やしねぇ。信用にかかわる」
男は暫く考えたのちに重い口を開いた。
「・・・・テオドール = フォノトフ」
「!? この街でテオドールって言やぁ、まさか、あの武器商"ドラコン"の事か?」
驚いた店主は頭を抱えて椅子にもたれかかった。
そしておもむろにタバコを取り出すとため息まじりに一服する。
「なるほどな。そりゃあ半端な奴じゃあ殺されるのが落ちだ。殺したいほど奴を憎んでる奴なんて石を投げりゃあ当たるだろうしな」
「・・・あんたの言う"世界一の殺し屋"。そいつでも無理だと思うか?」
「・・・・・・・・」
深くたばこを吸いこむと、店主は煙と一緒に長い息を吐きだした。
そして暗い表情で口を開く。
「奴がその気になれば殺せねぇ人間なんていねぇ。絶対にだ。一国の大統領だろうが、聖人だろうが頭を吹き飛ばすのに苦労はしねぇだろう」
「そ、それじゃあ!」
「だが、ダメだ! お前に奴は紹介しねぇ。復讐なんてやめてその金で遊んで暮らせ」
男はうつむき押し黙る。
店主は天井を見上げタバコをふかす。
店内に流れる静寂は、どこか不穏な空気を孕んでいた。
そして、男が顔を上げる。
「いいからそいつを今すぐここに呼び出せ。テオドールを地獄に叩き込むためなら、こっちは死ぬ覚悟だってとっくにできてるんだ。もちろん殺す覚悟もな」
男がコートから取り出した銃を店主に向ける。
銃口を向けられた店主も、こういう事態になれているのか慌てふためくこともなく冷静なままだったが、その目つきは鋭くなり男を睨みつける。
「・・・・・いいだろう。呼んでやる。どうなろうと自己責任だぞ?」
「あぁ、分かってる」
「ひとつだけアドバイスだ。奴は腕は確かだがとにかく金に汚い。執着していると言ってもいいだろう。とにかく奴相手に安く済ませようなんてゆめゆめ考えるな。その金はもちろん、貯えがあるんだったら全部吐き出せ。あとは、もうお前次第だ」
店主が電話を何処かへとかける。交わした言葉は少なく、一言二言程度だった。
受話器を置き、タバコを深く吸い込む。
そしてもう一度大きくため息を吐き出した。
「覚悟しろよ。これから来る奴は普通じゃねぇ。殺し屋になるために生まれた天才だ。奴が信頼してるのは金のみ。裏社会に生きる伝説。やつは正真正銘の・・・・」
そして男に向けた目には憐みの色が込められていた。
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