輪廻に踊れウィリアム

佐々木犬蛇MAX

文字の大きさ
7 / 12
第2章 永久凍土の守銭奴

2.0 情報屋

しおりを挟む
「文字が読めねぇのか兄ちゃん、帰りな、もう閉店だよ」

 CLOSEの札が掛けられた場末のパブで仏頂面の店主が吐き捨てた。

 恰幅のいい老齢の男で、頭はすっかり禿げあがっている。

「・・・・・・・」

 勢いよく扉を開け放ったのはボロボロの服を着たみすぼらしい男だ。

 静止の言葉も聞かずに男はズカズカと店内に押し入るとカウンター越しに店主に歩み寄った。

 バンッ、とカウンターに手を叩きつける男。よく見ると叩きつけられたのは掌だけではなくてその下に金銭が握られていた。その額は5000ルーブル。その紙幣が束となっており目算でも100枚近くはあるようだ。

 酒屋の会計にしては金額が多すぎる。この寂れた店にそこまで高額の酒など置いてはいない。

「この国で、いや、この世界で最高のヒットマンを紹介してくれ。"金ならいくらでもある"!」

 店主はカウンターから金を無造作に奪い上げると一枚一枚数え上げ、偽札でないかをチェックしていく。

「汚ねぇ金だな。全部泥まみれでボロボロじゃねーか。それにこれは血痕だな? 真っ当な金じゃあるめぇ」

「ボロボロで後ろめたかろうと金は金だ。文句はねぇだろ! 足りねぇったならまだあるぞ」

「はっ、十分だよ。金は貰い過ぎても少なすぎてもいけねぇ。適量ってもんがあらぁ」

 そういうと店主は金を懐へとしまい込む。 

「"金ならいくらでもある"ねぇ、随分と大口叩くじゃねーか。そいつが本当なら苦労はねぇだろ」

 鼻で笑う店主に向かって男は手に持っていたアタッシュケースを手渡した。

 店主が訝しみながらケースを開くと、同じくボロボロの札束がケースにぎっしり詰まっている。この国で生涯働いたとしても稼げないような大金だ。その金を見てひとこと「覚悟だけはあるってわけか」とつぶやいて再び閉じた。

「酒場の店主としては三流の俺だが、情報屋としての顔は超一流だ。"世界一の殺し屋"確かに俺は知っている。だが、アイツだけはやめておけ、他に腕の良いのを何人か見繕ってやる。そのケースの中身半分以下でも喜んで仕事してくれるだろうよ」 

「それではダメなんだ!」

 男が叫んだ。店主はそんな男の態度に眉を顰める。

「半端な奴ではダメなんだ。これまでも何人ものヒットマンを使ったが尽くが返り討ちに会い殺された。奴を殺すには並大抵では不可能だって思い知らされた」

「よぉ兄ちゃん。ここまでの金をかき集めてまで殺したい奴ってのはどこのどいつなんだ?」

「いや・・・・それは・・・・・」

「安心しろ、噂話は大好きだが口の堅さは保証するぜ。それに、差し向けた殺し屋が全員ぶっ殺されてるってなら、ターゲットも知らないまま仲介なんて出来やしねぇ。信用にかかわる」

 男は暫く考えたのちに重い口を開いた。

「・・・・テオドール = フォノトフ」

「!? この街でテオドールって言やぁ、まさか、あの武器商"ドラコン"の事か?」

 驚いた店主は頭を抱えて椅子にもたれかかった。

 そしておもむろにタバコを取り出すとため息まじりに一服する。

「なるほどな。そりゃあ半端な奴じゃあ殺されるのが落ちだ。殺したいほど奴を憎んでる奴なんて石を投げりゃあ当たるだろうしな」

「・・・あんたの言う"世界一の殺し屋"。そいつでも無理だと思うか?」

「・・・・・・・・」

 深くたばこを吸いこむと、店主は煙と一緒に長い息を吐きだした。

 そして暗い表情で口を開く。

「奴がその気になれば殺せねぇ人間なんていねぇ。絶対にだ。一国の大統領だろうが、聖人だろうが頭を吹き飛ばすのに苦労はしねぇだろう」

「そ、それじゃあ!」

「だが、ダメだ! お前に奴は紹介しねぇ。復讐なんてやめてその金で遊んで暮らせ」

 男はうつむき押し黙る。

 店主は天井を見上げタバコをふかす。

 店内に流れる静寂は、どこか不穏な空気を孕んでいた。

 そして、男が顔を上げる。

「いいからそいつを今すぐここに呼び出せ。テオドールを地獄に叩き込むためなら、こっちは死ぬ覚悟だってとっくにできてるんだ。もちろん殺す覚悟もな」

 男がコートから取り出した銃を店主に向ける。

 銃口を向けられた店主も、こういう事態になれているのか慌てふためくこともなく冷静なままだったが、その目つきは鋭くなり男を睨みつける。

「・・・・・いいだろう。呼んでやる。どうなろうと自己責任だぞ?」

「あぁ、分かってる」

「ひとつだけアドバイスだ。奴は腕は確かだがとにかく金に汚い。執着していると言ってもいいだろう。とにかく奴相手に安く済ませようなんてゆめゆめ考えるな。その金はもちろん、貯えがあるんだったら全部吐き出せ。あとは、もうお前次第だ」

 店主が電話を何処かへとかける。交わした言葉は少なく、一言二言程度だった。

 受話器を置き、タバコを深く吸い込む。

 そしてもう一度大きくため息を吐き出した。

「覚悟しろよ。これから来る奴は普通じゃねぇ。殺し屋になるために生まれた天才だ。奴が信頼してるのは金のみ。裏社会に生きる伝説。やつは正真正銘の・・・・」

 そして男に向けた目には憐みの色が込められていた。

「・・・化物だからよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

無能と追放された俺、死にかけて覚醒した古代秘術を極めて最強になる

仲山悠仁
ファンタジー
魔力がすべての世界で、“無能”と烙印を押された少年アレックスは、 成人儀式の日に家族と村から追放されてしまう。 守る者も帰る場所もなく、魔物が徘徊する森へ一人放り出された彼は、 そこで――同じように孤独を抱えた少女と出会う。 フレア。 彼女もまた、居場所を失い、ひとりで生きてきた者だった。 二人の出会いは偶然か、それとも運命か。 無能と呼ばれた少年が秘めていた“本当の力”、 そして世界を蝕む“黒い霧”の謎が、静かに動き始める。 孤独だった二人が、共に歩き出す始まりの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...