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AZUMA山荘へ その1

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AZUMA山荘へ その1

無色主義。
それは何色にも染まらない自由な主義。
そして、この国に『無色主義』による革命を起こすために結成された組織『紅軍連合』。
この物語はカオスと化した敗戦国、新日本に革命を起こすために戦う、若者たちの青春群像劇である。

炎に包まれた木白崎原子力発電所から撤退した俺は、道の途中で運転手を射殺して、奪った車で夜の道を走る。
目指すべき場所は紅軍連合の本拠地であるAZUMA山荘だ。
しかし、原子力発電所での戦闘による疲労が、強烈な眠気となって俺を襲う。
フロントガラスを元運転手の鮮血に染めた車はそのまま、付近の山林地帯に入る。
仮眠をとろうとした俺の目を射す、朝日。
そう、もうすぐ朝がはじまるのだ。
いくら山林地帯とはいえ、フロントガラスが人間の血の色で染まっていれば、目立たないわけがない。
後部座席に放り込んだ元運転手の死体の家族や会社が、ケーサツに捜索願を出すことを想定すれば、この車に長居するのは悪手である。
「そろそろ死体も臭ってきたしな...」
俺は防弾チョッキの上に、私服を纏い、身辺整理を行う。
今回の作戦で用意した武器とは他に、ジエータイのやつらから奪った武器も入ったリュックと手提げを身に着けた俺は、そのまま車内から外に出る。
新しい日の始まりを告げる朝日を正面から浴びながら、俺は道路端をひたすら歩き続ける。
強烈な眠気と戦いながら、歩き続けるのはツライ。
しかし、遠くにビルが見える。
つまり、あともう少し歩けば、どこかの町に着くはずだ。
そして、町で俺を待っていたのは奇妙は景色だった。
俺は時計を見る。
時刻は朝の7時である。
朝の7時といえば、通勤ラッシュだ。
生けるしかばねと化した社会人の群れが織りなす地獄絵図。
しかし、俺の目の前に広がっているのは通勤ラッシュでもなければ、地獄絵図でもない。
静寂に満ちた、朝の町の風景だった。
一瞬、俺は、先程の戦闘で死亡して夢を見ているのではないか思ったが、やはり違う。
俺の体から臭う、血の生臭さが、ここが現実であることを教えてくれる。
俺はとりあえず、街路に建っていたホテルに入る。
俺は受付の男に、部屋を貸してほしいと告げる。
しかし、受付の男はどこか、困ったような苦笑いをしながら、口を開く。
「部屋自体は空いているんですけどね、実は今、電気が全然使えない状態なんですよ、それでも泊まります?」
なるほど、そういうことか。
俺が木白崎原子力発電所の原子炉を停止させたことで、この辺で大規模な停電状態が発生しているのだ。
もしかしたら、他の仲間たちが残り8基の原子力発電所を制圧したことも関係しているのかもしれない。
この停電状態では、それを確かめる方法がない。
ホテルのロビーに電気がついてなくても、そんなに違和感を感じなかったのも、今が朝であったからだろう。
俺は試しにホテルの受付の男に聞いてみる。
「木白崎原子力発電所について、なにか噂とかきいたことあります?」
「木白崎原子力発電所?もしかして、今のこの停電って、原子力発電所のせいなの?」
「いえ、そういうわけではないんです、気にしないでください」
受付の男から部屋の鍵をもらった俺は、そのまま、早歩きで移動を開始。
受付の男の反応を見る限り、木白崎原子力発電所が炎に包まれていることは、まだ、世間に広まっていないようだ。
おそらく、国民をパニックに陥らせないための配慮なのか?
それとも、単純に停電中で、国民に情報を行き渡っていないのか?
停電状態であれば、号外の一つも出せないだろう。
もしかしたら、もう炎に包まれた木白崎原子力発電所からホーシャノウが漏れているのかもしれない。
そう考えれば、先程の街路の静けさは理解できる。
ホテルの部屋に入った俺は、そのままベットに横たわる、シャワーも浴びずに。
停電状態であれば、どうせお湯も出ない。
強烈な眠気とは逆に俺の思考は働き続ける。
まだ停電状態が続いているということは、木白崎原子力発電所では、まだ原子炉の再稼働する段階には至っていないのかもしれない。
俺はとりあえず、受付の男に部屋替えを頼み、ホテルの最上階の部屋に移動する。
最上階の部屋の窓からは、黒い煙を上げる木白崎原子力発電所に向かって、放水作業が行われている様子が見える。
放水はおそらく、消防隊によるものだろうか?
この階のホテルの窓からは、黒い煙を上げる木白崎原子力発電所に向かって、放水作業が行われている様子しか確認できない。
いくら停止状態の原子炉とはいえ、引火すれば、一大事である。
この街に人が少ないのは、高層マンションに住んでいた人々が早期に、避難を開始した影響もあるのかもしれない。
一軒家や、アパートに住んでいる人々は、停電によりあらゆる情報が封鎖された現状では、木白崎原子力発電所で火災が発生していることすら知ることができない。
それは、先程のホテルの受付の男の言動が証明している。
本来であれば、俺は今すぐこのホテルをチェックアウトして、眠気に抗いながら移動を開始するべきなのかもしれない。
でも、それはもう無理だろう。
度重なる戦闘で俺の体は完全に限界を迎えている。
仮に眠っている途中でホーシャノウに汚染されてしまってもいい。
今はただ、休みたかった、眠りたかったのだ。
俺は、そのままベットに横たわる。
シャワーも浴びずに。

次回予告 AZUMA山荘へ その2

※この物語はフィクションです、実在する人物及び団体には一切関係ありません。
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