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新章

二話 怒りの理由

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 姫野さんと昼休みに別れてから、教室で大勢のクラスメート達と楽しそうに昼食を取っているリスティーを発見した。
 そのまま声をかけて、輪を乱す勇気はない。
 そんなことをしたら、俺の社会的地位が下がるだけではなく、リスティーの地位も下がってしまう。
 仕方なく、教室のスライド式の扉から、リスティーに手を振って呼んでみる。
 すると、リスティーは、すぐに気がついてあからさまに不機嫌になった。
 
 ……もしかして、姫野さんとの関係バレたかな?

 有り得ない事だけど、不安になってしまう。
 屋上には鍵をかけていたから大丈夫……のはず。

「ワタシ、ちょっとソラの所に行くね」

 っておい!
 なんで公言するし!
 俺の気遣いを返してほしい。

 リスティーが立ち上がり、近寄って来る。
 今更逃げることは出来ないし、大人しく待つことにしたが。
 リスティーを囲っていたクラスメートからの嫉妬の視線を強く感じる。
 まあ、リスティーみたいな美少女留学生を、俺みたいな陰キャラボッチが独占したら不満が出るのも解る。
 けど、残念。
 リスティーは、俺の『嫁』なのである!
 そう! 『嫁』なのだ!
 ……高校生が使う言葉じゃない気がする。

「ソラ……何?」
「ちょっと、付き合ってくれない?」
「……ん」

 短く了承してくれたリスティーと一緒に人気の無い場所まで歩く。
 流石に、昼食中の場で、する話しじゃないし、そも、リスティーと俺の関係は、学校では伏せている。
 だって、実は婚約していて、もう、同棲もしている。なんて、いえるか?
 俺は言えない。絶対に面倒ごとに巻き込まれる。
 と言うか嫉妬に狂ったリスティー教(学校内自治組織)に夜道で刺される。
 
「屋上じゃないの?」
「いや、あそこは……」

 つやつやの姫野さんが疲れて仮眠を取っている。
 なんて言えない。姫野崇拝教(そんな組織はない)に殺される。

「校舎裏の造園に行こう。あそこなら人も寄り付かないし」
「ん」

 この学校の造園は、造園部が管理している屋内式の人口花畑で、テーブルもおいてある為、昼休みには割と人気なスポットに見えるのだが……
 校舎裏という距離は意外にも遠く、昼休みと言う限られた時間では、わざわざ足を運ぶ生徒はほぼいない。
 ボッチの俺はたまにここで昼食を取るが、未だに誰かを見かけた事が無いほどである。

 とまあ、そんな雅な場所に到着し、テーブルを挟んで椅子に座りリスティーと向き合った。
 気まずい沈黙が流れるが、姫野さんのおかけで覚悟は決まっている。

「リスティー」「ソラ」
「「ッ! なに?」」
「「ッ!」」

 しかし、運が悪い。
 ここぞと言うタイミングでシンクロしてしまった。
 こうなったら、覚悟も揺らぐ。

「ソラから言って!」
「ここは、レディーファーストで」
「帰る!!」

 バン!
 テーブルを叩いて立ち上がり、スタスタ……

「ま、待ってよ!」

 そんなリスティーを必死に縋り付いて止める。
 ひよった俺が悪かったです。

「じゃ、早く言って!」
「……朝のこと。悪かった」
「……」

 言うとリスティーは、ピタリと止まって、色素の薄い瞳で俺の瞳を覗き込む。

「何が悪いか解ってるの?」
「……え? それは――」

 正直、解らない。
 別に悪くないと思ってるし……
 でも、

「――リスティーを怒らせた事だよ」
「……」
「リスティーの気に食わないことをした俺が悪い。もう、エロ本は買わないよ……ごめん。許してよ。リスティーと仲良くしていたいんだ」
「……」

 俺は、姫野さんと浮気しているクズだけど、リスティーの事は本気で大切で尊く思っている。
 少し前まで、一人暮らしに憧れていたけど、今はもうリスティーがいない生活なんて考えられない。
 リスティーに嫌われないためならばなんだってするつもり……

「違う! そうじゃないもん!」
「……何が?」

 パタパタパタパタと、リスティーに胸板を叩かれ、頬を膨らませられた。
 ……全く解らない。

「リスティーは、ソラが好きなの! 大好きなの!」
「お、おう……ありがとう」

 いきなりの告白に心臓バクバク。
 もちろん、リスティーの気持ちも知っているけど、面と向かって言われるとまだ、ムズ痒い。

「なのになんで!」

 バン!

 と、取り出したのは朝、リスティーが破ったアレ。
 ……非常にいたたまれない気持ちになる。
 コレ、なんのプレイ?

「なんで! 自主規制(ピー)モノなの!? こんなの好きだなんて聞いてない!」

 そこかよ!

「なんでって……リスティーは俺の性癖にまで口出す気? それは戦争だぞ!」
「違うもんっ! リスティーは、ソラが言ってくれたらなんでもするのに! お口でも、お尻でも! するのに! なんで言ってくれないの!? 酷いよ!」
「……い、いや」

 なるほど、そっち方面の怒りだったのか……
 俺って愛されてるな。
 でも、

「ネネにも言ったけど! 現実と創造じゃ違うから!」

 ピシッとリスティーが開いているページを指差して言う。

「こんな特殊プレイ! 現実で出来る訳ないだろ!」
「むーっ! 出来るもんっ!」

 怒ったリスティーがストンと制服を脱いで、俺のベルトを外す。

「え?」
「出して!」
「い、いや……ここで? もう、昼休みも終わるのに!?」
「良いから出して! リスティーがソラの望み叶えてあげるから!」
「ちょっ! 無理だって! ちょっ! ちょっ! ひゃーーーーんっ」

 してくれた。
 夢だった特殊性癖を叶えてくれた。

 事後。

 昼休みもすっかり終わってしまった造園で、身嗜みを整えてからリスティーにキスをしていた。

「ごめんね、リスティー」
「何が?」
「リスティーに頼らなくて」
「うん……いいよ。リスティーもソラに嫌いって……言ってごめんなさい。リスティーは、ソラが大好きなのに……」
「いいよ。そんなこと……俺だってリスティーが……」
「リスティーが?」
「なんでもない」
「もー! ソラの馬鹿ー!」

 ぷりぷりするリスティーに、更に濃厚なキスをして、許してもらう。
『好き』なんて、本人にそうそう何度も言える訳がない。
 でも、とても愛おしい。
 
 ムラッ……

「あっ……! ソラ。また?」
「いや、いいよ。こんな程度、健全な男なら自然現象。一日何度もあるからね、一々、リスティーが付き合わないで――」
「むー! ソラ! リスティーは、何度でも付き合うもん!」
「ちょっ! ひゃーーーーん」
「ふふ♪」

 搾られた。
 俺は学校に何しに来ているんだろうか?
 でも、やっぱりここまで尽くしてくれるリスティーが愛おしい。

 ムラ……

「ソラ~」
「いや、リスティーが離れてくれないと……」
「だメッ!」
「ひゃーーーーん」

 絞り尽くされた。
 マジで何してるんだろうか。

 この時、俺は気付かなかったが、造園の陰からある人物にソレを見られたいたのだった。
 気付かなかった事を、俺は後悔する事になる。


  


 
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