ラブラブまじっくプリンセス? のーせれくとっ!

オジSUN

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一章

八話 『恩が増えてしまいました』

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 結局、お姫サマは俺の血を五分ほど舐めてから、ゆっくりと丁寧に口から離した。
 血と混ざり赤くなった唾液がねちゃりと指から垂れる。

「助かり……ました……」

 お姫サマはその指を両手で包むように握り、薄いが柔らかい胸に押し当て……

「……光の小精霊さま……このお方に安らぎを与えられますように」

 そっと呟く。
 すると、お姫サマの胸元で小さく光り、俺の指を包む両手の中で輝いた。
 さらに……

 ふっ~ふ~っと息を拭きかける……と、ジンジン激しく痛んでいた指の傷みが収まっていく。
 ……コレが、物理学を超越する、魔法の力なのか?

「……」
「……」

 無言のまま、お姫サマが手を開き、指を熱心に確認してから、胸元で血と唾液を優しく拭ってくれる。
 もうその時には、画鋲を刺した痛みもなく、柔らかい胸の心地好い感触だけ……

「ちょっ! お姫サマッ! 別に良いですって」
「……ッ!」

 恥ずかしくなり、手を引いたのだが、万力の力で抑えられぴくりとも動かない。
 まさかのここから復讐の始まりか!?

「……」

 緊張に身構えるが、お姫サマは一向に微動だにせず、口を開く事もなかった。
 ただただ、俺の指を見つめつづける。

「あの……体調の方は?」
「……」
「もしもし? よろしいのでしたら、離してくれると助かります」
「……」
「……エロフ」
「~~ッ!」

 何にせよ、このままでは色々とマズイと、少し挑発してみたら、すぐに耳を張りあげた。
 鼻息を荒くし、俺を憎悪の瞳で睨み、必死に怒りを堪える。
 ……なんか、こっちのお姫サマの方が、見慣れて来てしまった。

「ふぅ~~っ。貴方様と言うお人は……もうっ。なんでそういう事ばかり……だからっ」

 そこで、やっと口を開いてくれたお姫様に、指を引いてみるも、やはりぎゅっと抑えられる。
 ……こうなったら、いい機会だ。

「お姫サマ。俺に言いたい事があるなら、言ってくださいよ。エルフがどうかは知らないが、俺とお姫サマの間じゃ、言葉にしなきゃ解らない」
「……っ! そう……ですね」

 ここで、この因縁にピリオドを打とう。
 少し惜しい気持ちもあるが、お姫サマとは今日までだ。

「俺が気に食わないなら、ハッキリそう言えば――」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「――学校側だって、俺を別のクラスにしてくれる……はえ?」

 どんな罵倒が飛んで来ても構わないと思っていたが……コレは?

「っ! 別のクラスに行くだなんて……そんなっこと……言わないでください」
「……あ?」
「謝りますから……どうかっ。そんなに怒らないでくださいよ」
「……」

 嘘でも冗談でもなく、この一週間、常に高貴で上品だったあのお姫サマが、普通のクソガキが駄々をこねるように、瞳を潤ませている。
 どこか口調も荒っぽい。
 
「避けないで……くださいよ」
「……」

 ぽたぽたと、熱い雫が、お姫サマが握る俺の指にかかった。
 ……エルフの涙……か。悲しみと後悔……か。
 コレが俺を騙す嘘ならば、お姫サマは女優になれもかもしれない。

「手を挙げたことを……何度も謝罪しようとしたんですっ! でも、貴方様が避けるからっ……酷いことばかりおっしゃるからっ!」
「……」
「人間は一度の失言や失敗を……そんなに怒る……ものなのですか? ぐすっ……」
「……ちょっ、落ち着いて」

 こぼれて掛かる雫の量と大きさが増していく。

「全て聞きました。あの時のお言葉……アレは、同族を愚弄したものではなく……ただの照れ隠し……のようなものだと……」
「ぐふぅっ!」

 あの時とは、確認するまでもなく、お姫サマに殴られた初日の事だろう。
 アレが俺とお姫サマを決定的に分かった時だ。
 しかし、照れ隠し……と、照れ隠しをハッキリ言われるのは、精神的にクルものがある。

「だとしたら……全て私のはやとちり……それで、手を挙げてしまうなんて……一生の不覚です」
「いやいや……照れ隠しじゃねぇし……」

 それにだ、今更事実など、どうでもいい。
 俺が独り嫌われることで、あのクラスはうまく回っていた。
 そこには誰かの悪意があった訳ではなく、『お姫サマをもてなしたい』、『問題が起きそうな俺と引き離してあげたい』、そういう善意だけが重なった結果なのだ……多分。

 そして、そもそも、俺はこのお姫サマが気に食わないし、許せないっ。

 ならば、俺がやることは、真実に気付いたお姫サマから再び嫌われること。
 方法は問わず、関係ない事でも良し。
 先ずは、この仲直りしそうな、甘ったるい流れを断ち切る……

「この長い耳は、飾りで付いている訳ではありませんよ?」
「……と、言いますと?」
「貴方を悪役にすると言うお話……聴こえておりました。貴方様が陰で私をゴリラ姫やゴリラエルフ等と呼んでいることもです」
「……ぐっ」
「それに声や表情から、多少は心の機微が解るのです」
「心の機微……」
「心を持った生物なら、感情で、ある程度、声色や反応のパターンが重なります」

 嘘だろ……と、思いはするが、それを言っていると言う事実が、本当だと証明になっている。
 交流学生のお姫サマは、その役割故に、自種族の事についてだけは嘘をつけない。
 そして、それが本当なら、もう取り繕っても仕方がない。

 ……というか、エルフ族、怖っ。

 でも、それなら少し向き合うか。

「じゃ……なんで、俺を睨みつけたり、机を破壊したり……していたのですか?」
「それは……だって、貴方様が私を避けるから……化け物でも見たかの様に怯えるから……失礼じゃないですかっ! 私は謝りたかっただけなのにっ」

 残念過ぎる。
 このお姫サマ。
 見た目が高貴で騙されていたが、コミュニケーション能力があまりにもあんまりだ。
 ……ま、その言葉は全て、俺にも反射してくる訳だけど。

「では、もしかして、俺の周囲の人ばかり、取り込んで行くのも理由があったりしますか?」
「それはもちろん……貴方様のお友達とお友達になれれば、また、貴方様ともお友達になれるかと……思いまして」
「――それは絶対ないですよ!」
「何故ですか! 皆で仲良くなれるじゃないですか!」
「幼稚園児か!」
「はぅっ?」

 なんか酷く疲れて、頭痛がしてきた。
 ……もう、帰って寝たい。

「あの……解ったので、離してください。身体は平気なんですよね?」
「ダメですっ!」
「おいっ! ひっぱんな」

 立ち上がって帰ろうとしたところで腕を引かれた為、バランスを崩し、お姫サマに倒れかかってしまう。
 そんな俺を、慌て騒がす、しっかりと腕で受け止めた怪力お姫サマは、

「まだ、今日のお礼をしておりません」
「お礼って……それなら……離してください」
「そういう訳にはまいりません。エルフは受けた恩を必ず返しますっ! 見くびらないでくださいっ」
「めんどくさいな、またっ」

 青く光るお姫サマの瞳は、力強く、そこには絶対に曲げない意思が見え隠れしていた。
 ……コレは、何を言っても聞かないときの、オクレ先生と同じ目だ。

「しかし……何度もご迷惑をかけ、命まで救われては、どう、恩を返せば良いか解らないのです……」
「……」
「どうすれば良いのですか?」
「それを俺に聞くのですか?」
「なんでも致しますよ?」

 本当にエルフという種族は面倒だ。
 何もしなくて良い……といっても、数秒前の問答を繰り返すだけだろう。

「なら……」
「はい」
「どうするか決めてから、俺に話してください」
「で、すよね……」

 ようやく当たり前の事に気がついてくれたお姫サマが、耳を垂らして小さく肯定してくれた。
 コレで、このはた迷惑な事件から解放される。
 俺の手を握っていたお姫サマの力も弱くなり……

「いえ。やっぱり、後回しはイケませんっ!」
「だから急に引っ張るなっ!」
「へ? ごめんなさい……ひゃっ」 

 エルフの力で引かれた俺は、再びお姫サマに倒れかかってしまう。
 しかし、今度のお姫サマは、謝罪に気を取られたせいで俺を受け止める事が出来ず、倒れてしまった。

 ……と、ちょうどその時である。

 ーーばたんっ!

「斎藤くん。エルメテルさんの御様子は――」
「遅れてすまない。斎藤。話は聞いた。すぐに――」

 保険の先生が、担任のオクレ先生を連れて戻っていたのは。
 ……ここで何故、オクレ先生なのだ。
 
「「……」」

 そして、その先生達の瞳に、俺がベッドにお姫サマを押し倒している姿(実際は力関係が真逆)と、シーツに付く血痕(俺の)が、映る。
 当然の様に先生達は石の如く固まり、部屋の外で心配していた生徒達にも見られてしまう。

「にゃーん♪」
「おい……精液とか聴こえたよな?」
「あの血って……」
「そういうことだろうな」
「だから俺達を追い出したのか」
「ハジメくん。治療のため……だよね? 私は信じてるよ」
「だとしても停学だろ」
「ああ……」
「エルメテル様が汚された――っ! 僕が狙ってたのにぃ」
「俺もワンチャン……」
「いや、ないだろ」
「うむ。むしろ、喧嘩するほど仲が良い……という奴だっかの」
「ふぅーん。ハジメくん。やっぱりそういう子がタイプなんだね」

 ……もう。否定するのもめんどくさい。
 何より、

『あの方達は何をおっしゃられているのですか?』

 とか、惚けられる箱入りお姫サマに頭痛を覚える。
 誤解を解くには、生徒達、お姫サマ、保険医、そして、

「よくも……よくも……よくもよくもよくもっ! 私はまだ、なのにぃ! 色ぼけやがってクソガキどもがぁああっ! 死滅してやるげなっ! われぇえっ! 滅却っ!」

 一番めんどくさいオクレ先生が鬼と化して襲ってくる。
 もう……どうとでも、なれ! キャパシティーオバーだ。

 

 ……という、乱闘事件は、何とか事なきを終え。
 その翌日から、高校は普段通りの日常へと戻ったらしい。

 しかし、お姫サマは体調を調えるために一日休養をとった……らしい。
 らしい、というのは、俺もまた、翌日、学校を休んだからだ。

 何故か急に身体が怠くなり、激しい頭痛が前からも後ろからも響き、吐き気に、下痢と、一日中、寝込むことになった。
 ……本気で死ぬかと思った。
 もしかしたら、お姫サマにマナとやらを吸われた影響かもしれない。

「……間違いありませんね。申し訳ありませんでした。また、返すべき恩が増えてしまいましたね」
「面倒だから一度で返せよ……って」

 と、更に翌日、学校でずる休みと言い掛かりをつけてくるニフネくんやコネコちゃんに説明していると、お姫サマがそう答えて……

「お姫サマ……なんで、普通に俺達の会話に入ってるのでしょうか?」
「え? ダメでしたか? 仲直りしたから良いではありませんか」
「……いえ、してませんが」
「ぇえっ!? 嘘ですよね?」
「本当です」
「嘘……」

 他のことは、俺の勘違いもあったから、流すとはいえ。
 顔を殴られたあの事だけは、俺は絶対に許さない。
 いまでも痛み、永久の別れを遂げた奥歯の怨みは晴れる事はないのだ。
 だから馴れ馴れしくしないで欲しい……のだが、

 ――ペたり。

 何故か、そんなお姫サマが、俺の隣の席に座り、肩を密着させて来ている。
 美少女にくっつかれ心が躍る半分、うざったい。

「そうだにゃーっ! なんでニャーの特等席を姫にゃんに奪われなきゃいけないにゃんッ!」

 そして、可哀相なコネコちゃんが、前列から唾を飛ばして激しい抗議。
 潔癖症のお姫サマが俺を盾にするせいで、その唾がかかってくる。
 ……汚い。

「因みに、そんな事を言ってる猫ちゃんに私は席を奪われちゃったよ~っ。折角ハジメくんの前だったのに」

 更に前方、元々お姫サマが座っていた席で、前髪ちゃんが何かを言ってうなだれている。
 この不幸の連鎖、なんもかんもお姫サマが悪いっ。
 ……のだが、やはり、

「……こうして、肩を寄せていれば微量ですが、ハジメ様の身体と私の身体でマナを循環させる事が出来るのですっ」

 それにも理由があり、お姫サマの席移動は、学校側が正式に認めてしまったのだ。

「これで、もうあんな失態は見せませんよ」

 ……マナ暴走症候群の予防みたいなものだと。
 学校側もお姫サマも、人をワクチンかなにかだと思っているのだろう。

「はぁ~最悪だ。つまり、また、お姫サマにマナを吸われて明日は学校を休むことになるのか……」
「なりませんよッ! アレは緊急自体だった上に、貴方様が血液なんて飲ませるからっ! 私は拒んだでしょう? 無理矢理、押し入れた貴方にも責任はありますからね。鬼畜」
「なら、俺のブツを口にぶち込んだ方がおきにめしましたか? エロフ」
「~~っ。そんなことをしたら噛み切っていましたからっ!」
「ひぃぃっ!」

 あの時、反射的にコネコちゃんの提案を棄却したのは正解だったようだ。
 この年で、去勢には早すぎる。

「とにかく。マナを循環させることで貴方様に負担はかかりません。長期的にみれば、むしろ、血行が良くなったり、病に掛かりにくくなったり、万病に効きます。更に更に、もっと長い目でみてくだされば寿命まで伸びます。役得ですね♪ 仲直りしましょう」
「長期的にはみないから意味がないがな。つまり、やっぱりマナを吸われるだけ、無意味。絶対に嫌です」
「……くっ」

 自分が短期間の交流学生であることを思いだし、言葉に詰まるお姫サマを、俺は小馬鹿にして笑ってやった。
 なんか気分が晴れやかになる。

「と言うかお姫サマ。なんで、俺に固執するんですか?」
「固執している訳では……」
「していないんですか?」
「……しているかもしれません」

 かも、ではなく確実にしている。
 一昨日まで気付かなかったが、お姫サマの潔癖症が俺だけには反応しない。
 ……だからこそ、血を飲ませることが出来たのだが、それでは俺の負担が大きすぎる。

「何故ですか? まさか、俺に一目惚れとか?」
「それはありませんね。むしろ、意地悪ばかりできら……苦手です」
「同じくです……では?」

 理由が解れば、この依存関係を他の誰かと代わることが出来るかもしれない。
 それこそ、サポート役にして人が良い、御影くんの出番だ。

「さあ? 波長が合う……とかですかね?」
「……波長? 魔法の世界の不思議な力ですか?」
「いえ、第六感です」
「……つまり、なんとなく、か」
「そうとも言います」

 理論を超えた感覚的な話では、他人へ応用することは出来ない。
 この辺はエルフの研究が進むのを待つ他ないか。
 ……多種族との接触を極端に嫌うエルフ族にとって俺が特別なのか、お姫サマにとって特別なだけなのか……。
 まあ、そこら辺はどうでもいい。
 俺は研究者でも、エルフ族に興味がある訳でもないのだから。

「でも」

 そこで、お姫サマの視線が一つ前の席で、静かに本を読み込んでいる高根さんに向いた。

「……別に貴方様だけが特別な訳ではありませんよ?」
「中二病じゃないんだから、俺が特別な存在、と思っていませんよ……」
「……?」

 その視線の意味は、なんとなく解る。
 しかし、初日に友人にはならないとバッサリ断られているため、その事実をお姫サマは言えないのだろう。
 ……そこまで考えて、俺を学級委員に推薦したのなら、凄すぎる。

「くっそ……狐に化かされた気分だぜ」
「誰の事でしょうか?」
「エロフ……被害妄想ですよ」
「~~っ! エルフは受けた恩を必ず返しますが、受けた讐も必ず返しますからね」
「そうですか。期待しています」
「後悔しますよっ」
「はいはい」


 今日何度目か? 耳を吊り上げるお姫サマを放置して、とある書類をクリアファイルから取り出す。
 それをそのままお姫サマに手渡した。

「……コレは?」
「『普段着着用許可書』です。普通は怪我とかで、制服が着れない生徒に発行するものですが……」

 骨折で圧迫したくないときや、宗教関連でそもそも学校指定の制服が着れない生徒が、提出すれば、制服の代わりに普段着を着て来れるという制度だ。

「……それが?」
「空気中からマナを大量に取り込むエルフは、普段、マナを取り込みやすい服をきているのでしょう?」
「ええ……そうですが……はっ。もしかしてっ」
「こっちの世界は空気中のマナが少ないとは言え、制服よりはマシなのでは? と、思っただけです」
「……」

 怪我でも、宗教でもないが、お姫サマの事情なら、毎日は無理でも、たまになら許可されるだろう。
 なんせ、国主導の重要プロジェクト。お姫サマの健康がベッドされれば、無視は出来ないはずだ……と、一般生徒Aは愚考しました。

「感謝致します。……また、恩が増えてしまいました……貴方様は……ズルイです」
「また倒れられて、エロフになったら、イロイロな意味で大変ですからね」
「……っ。また、讐が増えてしまいましたよ?」
「なら、恩の方で相殺しておいてください」
「いえいえ。遠慮なさらず。コレだけお世話になったのです。両方とも色を付けて返します」
「……」

 ニコニコと笑ってそう言うお姫サマに、俺の背筋がゾクリと嫌な予感を訴えた。
 ……相当、怒っていらっしゃるようだ。
 やはり、復讐される日は近いのかもしれない。

「ボソッ……(一緒にしてしまったら、コレからどんな意地悪をされても、やり返す事が一生、出来なくなってしまいますし……)」
「……ん? 何て言いました?」
「いえ、何も言っておりませんよ?」
「……」

 この日から、お姫サマは、エルフの民族衣装を纏い学校で大半を過ごす事になる。
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