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第一部
こんにちは、僕の恋人
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結局オープンキャンパスが終わっても、友人はアヤメさんを案内したまま帰ってこなかった。大方、振られた反動でそのまま飲みにでも行ったのだろう。
週明けが違った意味で怖い。
ユーリにも手伝ってもらいながら、机や椅子を運んでいく。
「本当、こんなことまでごめん」
「いいよ。それよりリヒト、この後時間ある?」
持っていた椅子を倉庫内に積み上げてから、ジャージのポケットからスマフォを取り出した。スケジュールを開いて確認すれば、今日の夜と明日の夕方までは特に何もない。
そういえば、オープンキャンパス用に予定は入れてなかったんだっけ、とスマフォをまたポケットに突っ込んだ。
「あるけど……」
「じゃ、今日は俺の家来なよ。もちろん泊まりで」
にやにやするユーリに多少ムッとし、僕は「考えとく」とユーリから受け取った椅子を積み上げた。そうして倉庫から出ようとした時、ユーリに背後から抱きしめられ、僕はすっぽりと腕の中に入ってしまう。
「リヒト、そんなこと言っていいんだ……?」
「ちょっと……」
振りほどこうにも、ユーリの片手で、両手を後ろにひとまとめにされて動くことが出来ない。声を荒げようと口を開けば、空いた手でジャージの上から太ももを撫でられ「あっ」と小さく声が出た。
「鍵かけてないし、誰か入ってくるかもね」
「やっ……ん」
ジャージの上を焦れったく撫でられ、僕は内ももを無意識に擦り始めた。耳元でユーリの「厭らし」と笑う声に、熱が一気に上がるのを感じた。
「わかっ、た……。行く、行くから。ここではやめて……」
「いいよ」
ユーリは案外あっさりと手を離してくれた。それに安堵する自分とは別に、がっかりする自分もいて、僕はそれがまた恥ずかしくて、とにかく顔を見られないように倉庫を飛び出すように外へ出た。
帰り道、僕たちはスーパーに寄っていた。
冷蔵庫に何もないため、夜ご飯の材料を買いに来たのだ。といっても、僕も料理が出来るほうではない。むしろ出来ない。豚肉こま切れを焼いて、塩コショウで味つけをして、皿に乗せるぐらいだ。
それでもいいと言うのだから、このユーリとかいう男は、やっぱり変わっているに違いない。
「ご飯は? ある?」
「あー、ない」
「レンチンご飯でいっか……」
三パックでひとつのご飯を籠に入れ、それから豚肉と塩コショウ、あとは……。
「アイスも買おうよ」
「えぇ? ま、いいか」
代金はユーリが払ってくれた。出すとは言ったんだけど、ユーリは頑なに僕に支払いをさせようとはしなかった。というか、今はサイフが無くてジップロックに入れて鞄に仕舞ってるだけなんだけど。
空に星がぼちぼち出てきた頃、僕たちはユーリの家に着いた。前はよく見てなかったけれど、玄関からは真っ直ぐに廊下が伸びていて、つきあたりにリビングとキッチン、廊下の右にトイレとお風呂場、左に寝室という、よくある1LDKになっている。
リビングへ最初に向かい、水のペットボトルばかりの冷蔵庫に、買ったものを入れ、アイスも冷凍室へと仕舞う。そうして振り返ると、ユーリが何やら小箱を持って嬉しそうに立っていた。
「……な、何?」
「六月誕生日でしょ? ちょっと早いけど、あったほうが便利かと思ってさ」
差し出された小箱を受け取った。
手のひらより少し大きいそれは、一瞬指輪かと思ったけれど、それなりに重さがあって、指輪でないことは明らかだ。
「指輪かと思った?」
「ま、まさか! 自惚れるのもいいかげんに」
照れ臭さから顔を背ければ、ユーリは当たり前のように僕の左手を取り、薬指に軽く唇を触れさせた。
「ユー、リっ」
「今日はまだないけど。その時まで待っててくれる?」
「……っ」
ずるいと思う。
元王子だからか、仕草のひとつひとつが丁寧で、気品に溢れていて、それでいてごく自然に、嫌味なんてどこにもない。突っぱねている僕のほうが馬鹿みたいだ。
僕はため息をついて、それから薄く微笑んで「うん」と手をゆっくりと離した。
「で、これは開けていいの?」
「もちろん」
ゆっくりと包装を解いていく。途中で面倒くさくなってガサガサと破ったけれど、ユーリは笑っただけで特に咎めはしなかった。
そうして箱を開け、中から出てきたのは、黒い革ザイフだった。ブランドに鈍い僕でもわかる。どう見ても高い。高級品だ。
慌てて箱を閉め、ユーリに突っ返す。
「こんなもの、受け取れないけど!?」
「でもサイフないと困るでしょ?」
「困るけど、値段を考えろよ!」
あげる、いらない、あげる、いらない、あげる、いらない。
そのやり取りが無限に続くかと思えた頃『お風呂が沸きました』の電子音がリビングに響いた。
「……ふふ」
「あー、じゃあさ、リヒト一緒に入ろうよ」
「やだよ」
ユーリの横を通り過ぎ、リビングのテーブルに箱をことりと置いた。なんとも不満そうなユーリに、僕は笑いが込み上げる。
「一緒に入ったらのぼせちゃうし。ご飯も作れなくなるだろう?」
「まぁ、それはそうかも……?」
否定しないのもユーリらしい。
だから僕はテレビをつけて、椅子に座った。
「これから一緒、なんだろ? なら焦ることないよ」
だから風呂に入れの意味だったのに。
後ろからのしかかるように「リヒト……」と甘えた声を出されては、僕も答えるしかない。夜ご飯はなしかな、なんて思いながら、僕は目を閉じて、ユーリの唇に僕のを重ねた――
週明けが違った意味で怖い。
ユーリにも手伝ってもらいながら、机や椅子を運んでいく。
「本当、こんなことまでごめん」
「いいよ。それよりリヒト、この後時間ある?」
持っていた椅子を倉庫内に積み上げてから、ジャージのポケットからスマフォを取り出した。スケジュールを開いて確認すれば、今日の夜と明日の夕方までは特に何もない。
そういえば、オープンキャンパス用に予定は入れてなかったんだっけ、とスマフォをまたポケットに突っ込んだ。
「あるけど……」
「じゃ、今日は俺の家来なよ。もちろん泊まりで」
にやにやするユーリに多少ムッとし、僕は「考えとく」とユーリから受け取った椅子を積み上げた。そうして倉庫から出ようとした時、ユーリに背後から抱きしめられ、僕はすっぽりと腕の中に入ってしまう。
「リヒト、そんなこと言っていいんだ……?」
「ちょっと……」
振りほどこうにも、ユーリの片手で、両手を後ろにひとまとめにされて動くことが出来ない。声を荒げようと口を開けば、空いた手でジャージの上から太ももを撫でられ「あっ」と小さく声が出た。
「鍵かけてないし、誰か入ってくるかもね」
「やっ……ん」
ジャージの上を焦れったく撫でられ、僕は内ももを無意識に擦り始めた。耳元でユーリの「厭らし」と笑う声に、熱が一気に上がるのを感じた。
「わかっ、た……。行く、行くから。ここではやめて……」
「いいよ」
ユーリは案外あっさりと手を離してくれた。それに安堵する自分とは別に、がっかりする自分もいて、僕はそれがまた恥ずかしくて、とにかく顔を見られないように倉庫を飛び出すように外へ出た。
帰り道、僕たちはスーパーに寄っていた。
冷蔵庫に何もないため、夜ご飯の材料を買いに来たのだ。といっても、僕も料理が出来るほうではない。むしろ出来ない。豚肉こま切れを焼いて、塩コショウで味つけをして、皿に乗せるぐらいだ。
それでもいいと言うのだから、このユーリとかいう男は、やっぱり変わっているに違いない。
「ご飯は? ある?」
「あー、ない」
「レンチンご飯でいっか……」
三パックでひとつのご飯を籠に入れ、それから豚肉と塩コショウ、あとは……。
「アイスも買おうよ」
「えぇ? ま、いいか」
代金はユーリが払ってくれた。出すとは言ったんだけど、ユーリは頑なに僕に支払いをさせようとはしなかった。というか、今はサイフが無くてジップロックに入れて鞄に仕舞ってるだけなんだけど。
空に星がぼちぼち出てきた頃、僕たちはユーリの家に着いた。前はよく見てなかったけれど、玄関からは真っ直ぐに廊下が伸びていて、つきあたりにリビングとキッチン、廊下の右にトイレとお風呂場、左に寝室という、よくある1LDKになっている。
リビングへ最初に向かい、水のペットボトルばかりの冷蔵庫に、買ったものを入れ、アイスも冷凍室へと仕舞う。そうして振り返ると、ユーリが何やら小箱を持って嬉しそうに立っていた。
「……な、何?」
「六月誕生日でしょ? ちょっと早いけど、あったほうが便利かと思ってさ」
差し出された小箱を受け取った。
手のひらより少し大きいそれは、一瞬指輪かと思ったけれど、それなりに重さがあって、指輪でないことは明らかだ。
「指輪かと思った?」
「ま、まさか! 自惚れるのもいいかげんに」
照れ臭さから顔を背ければ、ユーリは当たり前のように僕の左手を取り、薬指に軽く唇を触れさせた。
「ユー、リっ」
「今日はまだないけど。その時まで待っててくれる?」
「……っ」
ずるいと思う。
元王子だからか、仕草のひとつひとつが丁寧で、気品に溢れていて、それでいてごく自然に、嫌味なんてどこにもない。突っぱねている僕のほうが馬鹿みたいだ。
僕はため息をついて、それから薄く微笑んで「うん」と手をゆっくりと離した。
「で、これは開けていいの?」
「もちろん」
ゆっくりと包装を解いていく。途中で面倒くさくなってガサガサと破ったけれど、ユーリは笑っただけで特に咎めはしなかった。
そうして箱を開け、中から出てきたのは、黒い革ザイフだった。ブランドに鈍い僕でもわかる。どう見ても高い。高級品だ。
慌てて箱を閉め、ユーリに突っ返す。
「こんなもの、受け取れないけど!?」
「でもサイフないと困るでしょ?」
「困るけど、値段を考えろよ!」
あげる、いらない、あげる、いらない、あげる、いらない。
そのやり取りが無限に続くかと思えた頃『お風呂が沸きました』の電子音がリビングに響いた。
「……ふふ」
「あー、じゃあさ、リヒト一緒に入ろうよ」
「やだよ」
ユーリの横を通り過ぎ、リビングのテーブルに箱をことりと置いた。なんとも不満そうなユーリに、僕は笑いが込み上げる。
「一緒に入ったらのぼせちゃうし。ご飯も作れなくなるだろう?」
「まぁ、それはそうかも……?」
否定しないのもユーリらしい。
だから僕はテレビをつけて、椅子に座った。
「これから一緒、なんだろ? なら焦ることないよ」
だから風呂に入れの意味だったのに。
後ろからのしかかるように「リヒト……」と甘えた声を出されては、僕も答えるしかない。夜ご飯はなしかな、なんて思いながら、僕は目を閉じて、ユーリの唇に僕のを重ねた――
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