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竜の恩讐編
リズベルの想い その4
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信州某所の山奥。
通常の山道から離れ、余人が決して足を踏み入れないであろう場所に、その洞穴はあった。
そこは真夏でも強い冷気を保っており、かつては氷室として利用されていた。
江戸時代の終わりから近代に至るまでの過程で忘れ去られ、もはや近隣の村落の者でさえ、そこに氷室があったことを知らない。
その最奥に今、繋鴎、天照、そして木苺が立っていた。
氷の棺を前に。
「知己に氷を自在に操る妖怪の末裔がいて、特別に力を貸してもらった。その氷は作り出した本人以外では、溶岩にでも浸けない限り溶けることはない」
棺の中には、両手を胸に組んで、安らかに眠るピオニーアの亡骸があった。
「ピオニーアが、もしもの時のために準備させた」
『もしも私が命を落とすことになったら、私の亡骸は誰にも渡さず、どこかに保存してください。そして、いつかリズベルに会えることがあったら、渡してあげてほしいんです。私の亡骸……いえ、私の血を』
「ピオニーアの血は先祖返りだったと、繋がりのある闇医者とも既に実証している。それでも始祖と比べれば、かなり効力は落ちているらしいが……自分の屍を君に託したのは、赤の一族における君の地位が少しでも良くなるように、と願ってのことだろう。コチニールはもちろん、他の赤の一族にも絶対に渡さないよう、情報が漏れないよう、取り計らってほしいと頼まれた」
氷の棺を見ながら、ある種の諦観とともに、繋鴎は淡々と話を続けた。
「どうして……最初に言ってくれなかったの……」
木苺は棺の前に膝をつきながら聞く。
「復讐に取り憑かれた君に言っても、まともに信じなかっただろう。君のあの小林結城を頭から仇だと思っていたからな。それなら人一人に生け贄になってもらって、丸く収める方が安いと、播海家は判断した」
澱みのない声でそう告げる繋鴎を、天照は少し非難するように横目で見た。
「許してくれなんて言える立場じゃないのは解ってる。腹を切れというなら潔くそうしよう。だが、その前にピオニーアからの頼まれ事を果たさせてくれ。君がピオニーアの亡骸__なきがら__#をどうするのか、聞かせてくれ」
棺の端に手を置いたまま、木苺はしばらく沈黙していた。
が、やがてぽつりぽつりと語り始めた。
「ピオニーアからの手紙にあった。この日本の古い御伽噺……」
通常の山道から離れ、余人が決して足を踏み入れないであろう場所に、その洞穴はあった。
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その最奥に今、繋鴎、天照、そして木苺が立っていた。
氷の棺を前に。
「知己に氷を自在に操る妖怪の末裔がいて、特別に力を貸してもらった。その氷は作り出した本人以外では、溶岩にでも浸けない限り溶けることはない」
棺の中には、両手を胸に組んで、安らかに眠るピオニーアの亡骸があった。
「ピオニーアが、もしもの時のために準備させた」
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「どうして……最初に言ってくれなかったの……」
木苺は棺の前に膝をつきながら聞く。
「復讐に取り憑かれた君に言っても、まともに信じなかっただろう。君のあの小林結城を頭から仇だと思っていたからな。それなら人一人に生け贄になってもらって、丸く収める方が安いと、播海家は判断した」
澱みのない声でそう告げる繋鴎を、天照は少し非難するように横目で見た。
「許してくれなんて言える立場じゃないのは解ってる。腹を切れというなら潔くそうしよう。だが、その前にピオニーアからの頼まれ事を果たさせてくれ。君がピオニーアの亡骸__なきがら__#をどうするのか、聞かせてくれ」
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