小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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裏の都編

着いた先 その1

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「はぐはぐ……もぐもぐ……ごちそうさま!」
 結城ゆうきの膝の上に座り、駅弁を平らげた媛寿えんじゅは、空箱を備え付けのテーブルに置いた。
「媛寿、なんだか張り切ってるね」
 まだ駅弁の封を開けて三分もっていない結城は、媛寿の様子に目を丸くしていた。
「ひさしぶりのしんかんせん! ひさしぶりのきょうと! えんじゅ、もえてきてる! もえてきてる~!」
「そ、そうなんだ……」
 いつになく気合の入っている媛寿に、結城は少し気圧けおされているような気になった。
 以前、媛寿の口から一時期は京都に滞在していた頃の話を聞いていた。
 だが、その内容というのがにわかに信じ難い内容だった。
 手に大怪我を負った坂本龍馬を薩摩藩邸まで連れて行っただの、肥溜めから出てきた桂小五郎を鼻をつまみながら幾松のところまで案内しただの、西郷隆盛に江戸で戦わないよう言い含めただの、歴史を動かしたのではないかという話ばかりが語られた。
 ちょうどその時に幕末を題材にしたドラマやアニメが流行っていたので、おそらくそれに合わせて言っているのだろうと、結城は話半分に聞いていた。
(たぶん今回もそれに似た感覚だよね)
 結城はゆっくりと駅弁を食べながらそう納得していた。
「ユウキ、体は大事ありませんか?」
 横の席に座っていたアテナが、結城の体調について触れてきた。
「もう大丈夫ですよ、アテナ様。僕だっていつまでも落ち込んでいられませんから。それに」
 結城は一度目を閉じ、気持ちを確かめてから目を開いた。
天照アマテラス様にはあの子のことで、とてもお世話になりましたからね」
「……」
 アテナはそれ以上言及することなく、手元の牛焼肉弁当に箸をつけた。

 結城の快復を待っていたかのように、天照アマテラスから古屋敷ふるやしきつかいの者が寄越された。
 それというのも結城たちに対する依頼なのだが、いたって単純な内容だった。
 京都の酒解神社さかとけじんじゃにいる神様に、届け物をしてほしいとのことだった。
 その神社にいる神様から酒を一樽ひとたる融通してもらったので、その返礼の品を送りたいが、神無月が終わってからは忙しいので時間が取れないのだという。
 そして天照アマテラスはそこの神様には、孫のことで大変な借しがあるらしく、直接会うのは忍びないのだとも。
 特別な儀式をする必要もなく、ただ本殿の前に納めてくればいいだけなので、ついでに京都観光もしてくればいいと、前金の依頼料もかなりはずんでいた。
 結城としては少し前の一件で、天照アマテラスには大変世話になったことから、一も二もなく引き受けた。
(あまり気負い過ぎなければ良いのですが……)
 少し前に死の淵を彷徨さまよい、精神にも相当な衝撃を受けた結城の身を、アテナはまだ全快したか案じずにはいられなかった。
 ただ今回はアテナはもちろん、媛寿、マスクマン、シロガネも揃っての旅だ。
 よほどのことが起こらなければ、結城に危険が及ぶことはない。
 古屋敷の面々を乗せた新幹線は、一路、NR京都駅を目指して走っていった。
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