小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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裏の都編

着いた先 その3

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裏京りきょう……で、いいのかな?)
 見上げた古い駅名標を、結城ゆうきはじっくりと確認した。
 大文字で書かれた『裏京』の下に、隣の駅名も表示されているが、
(右が、かた……かすれてて読めない。左は、あまが……こっちも掠れてる)
 古い木版に筆とすみで書かれた駅名標は、『裏京』の字以外は掠れていて判読不可能だった。
(ん? ここって駅なんだよね? ということは、僕はどこに着い―――!?)
 何気なく振り返った結城の目に、驚愕きょうがくの光景が飛び込んできた。
 プラットホームのどんよりとした雰囲気を吹き飛ばす程の、橙色だいだいいろあかりが眼下に広がっていた。
 その光量の差に一瞬いっしゅん目がくらみそうになった結城だったが、よく見れば、それは街の灯りだった。
 何を使っているのかは不明だが、暖色系の光が、街の近々きんきんから地平に至るまで、余すことなく照らしている。
 その灯りで浮かび上がるのは、十字路を果てしなくつなげていったような街並みだった。
 その往来を、大勢の人影がひしめき合って移動している。
 しかし、結城がいる位置からは、かろうじて人影の輪郭だけが確認できるだけで、それがどんな人物たちかまでは判別できない。
 結城がいるプラットホームは、天守閣てんしゅかくもかくやという高さに設けられていたからだ。
 そのことに気付いた結城が周りを見渡すと、プラットホームの下にかれた線路は、駅の外からは空中に浮かんで延びていた。
「ほ、本当にどこ? ここ?」
 どこを取っても異様な光景に、結城が思わず声に出して狼狽うろたえていると、
『ザザ……まもなく~ひつザザ駅発~あまがザザ駅着~、弧霊こだま0号が到着いたします~。危険ですので~鬼火の内側にお下がりください~』
 駅の天井にからんでいたウツボカズラに似た植物から、列車の到着を知らせるアナウンスが流れた。
(お、鬼火って?)
「うわっ!?」
 結城がプラットホームの端を見ると、小さな青い火の玉が一つずつともってきた。
 驚いて鬼火の線の内側にけると、そのまま反対の端まで火が灯った。
 同時に、車輪と線路がこすれる甲高い金属音が聞こえてくる。
 アナウンス通りに列車がプラットホームに入ってきたが、またも結城は驚いた。
 流線型のフォルムは間違いなく新幹線だったが、現在主流の先端がとがったデザインではなく、全体的に丸い車体をしていた。
 結城も資料や博物館でしか見たことがない、この国で運行した最初の新幹線が、そのままの形でプラットホームに到着していた。
『扉~開きま~す。ご注意くださ~い』
 衝撃で固まっている結城をよそに、各車両の扉が開く。
 停車してから十数秒、誰も降りてこないかと思いきや、結城が立っていた位置から一両分離れた扉から、キャスター付きのスーツケースが降ろされた。
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花雨
2021.08.09 花雨

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