小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

面会室にて

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「本当にあなたではないのですね、エンジュ?」
「ち、ちがうもん!」
「B☆9←(訳:前にもやらかしてるからなぁ)」
「ちがうもん!」
「可能性は、大きい」
「ちがうんだもん! う~・・・」
 警察からの連絡を受けて、四人は刺松市警察署の前まで来ていた。今回、まともな交渉ができそうなのがアテナということで、彼女は黒のスーツにタイトスカートという出で立ち。マスクマンは仮面を隠れせるフード付きのジャンパー。シロガネは目立つエプロンドレスを隠すケープ。そして媛寿は通常着こなしている薄桃色の振袖だが、風呂敷で犬小屋を背負っているという珍妙な格好になっている。
 座敷童子は家に憑く。普段は古屋敷に憑いているか、名前に住居を表す『城』の字を持つ結城に憑いて外に出るかするのだが、今は結城がいないので外に出られなかった。しかし、結城が警察に捕まったと聞いては居ても立ってもいられない。かと言って正式な手順も踏まずに外に出れば、彼女の能力は『家を離れた』と判断し、古屋敷が傾いてしまう。 
 泣く泣く媛寿は庭先に置いてあったオンボロの犬小屋を代用した。『家』や『住居』の概念があるなら憑くことが可能で、持ち運べるならそのまま移動もできる。効果範囲内での乗換えなら、どこにも不運は発生しないので、結城からは『特急の乗り換え切符みたいだ』といわれていた。
 ただ、彼女にも憑く家の好みがあるので、犬小屋に憑いて移動するというのは、断じて愉快な話ではなかった。
「警察に捕まるとは、ただ事ではない不運ですよ。結城は特に何もしていないはずですし。本当にあなたの力のせいではないのですね?」
「う~、ち~が~う~も~ん・・・・・・たぶん」
「N●4→H£11(訳:今たぶんって言ったか? 聞こえたぞ)」
 媛寿の力は無意識的に発動し、それも彼女の機嫌によって大きく左右される。基本的には小さな幸運を引き寄せるのだが、機嫌が悪ければ日常ではあり得ないような凶運に見舞われることがある。以前、結城たちが住んでいたアパートが見事にペシャンコになったのは、媛寿がプツンと切れたのが原因だったりする。
 なので結城が警察に捕まったのは、媛寿の力が作用したのではないかと、皆は疑っていた。媛寿自身も身に覚えがない、はずなのだが。
「とにかく、入る。結城に、面会」
 警察署の前で審議し続けている三人を促すように、シロガネは早々に入り口へ歩き出した。なぜか『監獄プレイ、監獄プレイ』と呟いている気がするが、そこは誰も突っ込まない。
 このまま言い合っていても仕方がないので、三人もシロガネに続いて警察署へ入っていった。
 
 受付に事情を説明した四人は、刑事ドラマでよくあるガラスで区切られた面会室に通された。アテナが長寿刑事ドラマの『ベストパートナー』によく出てくる部屋の内装に関心気味にしていたら、向かいのスペースから警察官に付き添われた結城が入ってきた。警察官は面会者たちの容貌に目を丸くしていたが、結城はごく自然にガラスの仕切り板の前に腰掛けた。
「ちょっとやつれましたね、ユウキ」
「・・・まだ入って二時間も経ってませんよ、アテナ様」
「冗談です。こういう場面で言ってみたかっただけです」
「ゆうき~!」
 結城とアテナが話していると、べそをかいた媛寿がガラスに顔を押し当ててきた。
「み、みんなが、えぐっ、ゆうきがつかまったのが、ひくっ、えんじゅのせいだってイジメる~」
「いや、そんなことはない・・・と思うよ。媛寿が本気出したら捕まるどころじゃすまないだろうから、安心して。とりあえず泣き止んでくれるかな。さっき一緒に留置所に入ってた二人がいきなり腸捻転と急性盲腸で運ばれてったから」
「ぐずっ・・・ずびっ・・・うん」
「それより何で犬小屋背負ってんの?」
 落ち着きはしたが、結城に犬小屋のことを指摘されて恥ずかしくなったのか、媛寿は仕切り板からフェードアウトした。
「A$4←BM(訳:で、結局なんで捕まったんだよ?)」
「僕にもよく分からないんだよ。拾得物の件で来たら、いきなり留置所に通されちゃって。あっ、でも扱いが悪かったわけじゃないよ。カツ丼のお新香つきとお茶ももらえたし。座布団も用意されてたし」
「なら、あと半日延長」
 結城の話になぜかシロガネが食いついてきた。また無表情ながら、目が爛々と輝いている。
「扱いが悪くなくても居心地良いわけじゃないよ、シロガネ。あと何で半日なの? 中途半端でしょ」
 シロガネはケープの中から一冊の文庫本を取り出し、差し入れ用の隙間から結城に渡した。タイトルは『ドMメイドは監獄プレイがお好き』とある。ヨーロッパ書院ガールズ文庫である。
「・・・・・・やらないよ?」
 次にシロガネは牛革の鞭と鎖付きの手枷を取り出した。無表情だが頬は紅潮している。心なしか呼吸も荒い。
「だから、やらないって」
「心配ない。最初は痛い、でもすぐに気持ちよくなる。結城が」
「ぼ、僕がやられるの!?」
 ごくりと喉を鳴らすシロガネ。結城はいつもの不穏な空気を感じていた。よく見ればマスクマンが部屋の一番後ろまで下がっている。
 結城は思った。ヤ、ヤられる。
 得体の知れない恐怖に後退りしようとした時、面会者側のスペースに新たに人が入ってきた。
「あっ、小林くん。ここにいたのか!」
 ドアを開けて入室してきたのは、くたびれた帽子とコートを纏った知人の刑事、九木だった。相変わらず世界をまたにかける怪盗の三代目を追っていそうな出で立ちである。
「九木刑事?」
「いやぁ~すまない。小林くんに用事あったんだけど、山に入っても鹿の大群にエサをたかられたり、崖から滑り落ちたりで全然家に辿り着けなくってさぁ。もう頭にきたから拾得物の件で来署したら留置所でもどこでも入れとけって最寄の警察署に頼んどいたら、ホントに留置所に入れたって言われたんだからなぁ、ハハハ。言い出したオレが驚いちゃったよ」
 九木は事情を説明しながら呑気に笑っているが、結城を始めとした他の者は一切笑えない。ガラス板の前でうずくまっていた媛寿が、ドス黒いオーラを立ち昇らせていたのだから。
「あなたが原因だったのですね、クキ・・・・・・」
「けど連絡もらった時、待遇は良くするようにって言っておいたから、他の奴よりはずっと好待遇だったろ? カツ丼はオレが出すように言ったんだぜ? どうだった、警察で食べるカツ丼ってやっぱ一味違うだろ?」
「まぁ、確かに味は違いましたけど・・・・・・」
「そうだろ、そうだろ? ところで媛寿ちゃん、なんでそんなボロい犬小屋しょってんの? ついに小林くんトコからお引越しかい? なんならオレんトコに来る? ちょっと汚いけど」
 媛寿は顔を伏せたままスタスタと九木の前まで歩いていった。もちろん九木の元へ引っ越すのではない。右足を思い切り後ろへ振り、勢いをつけて蹴り上げた。九木の股間のモノを。
「ギイィヤアアアァ!!!」
 昼にさしかかろうとしている刺松市警察署に、天にも届きそうな悲鳴がこだました。
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