小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

佐権院の思い

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佐権院が暗に示した判断に、結城は目を細め、九木は固唾を飲んだ。
 術が完了した後の処置により、友宮の企みを挫く。それは術の基点となっている友宮里美の精神が掻き消えた後に成立する対策となる。事実上、友宮里美を救うことは適わない、犠牲ありきの作戦だった。
 結城と九木がその実を理解した時から、いや、佐権院が結城たちの提案を止めた時から、その場の空気は凍りつくように冷たくなっていた。
「警視……冗談ですよね?」
 九木が漏らした問いに、佐権院は応えない。それこそが肯定を表していた。
「佐権院警視。もう一度訊きますが、友宮里美を見捨てるんですか?」
 もはや佐権院を睨みつけている結城の問いに、佐権院は特に何も感情を出すことなく言った。
「そうだ」
「っ!」
「事ここに及んでは、被害を最小限に留める必要がある。リスクの大きい手段を取るよりは、可能な限りリスクの小さい手段で臨むべきだ。たとえ犠牲が出ると分かっていてもね」
「じゃあ虎丸が助けたいっていう友宮里美は死んでもいいってことですか?」
「犬神一匹と一人分の命、街一つあるいは日本全体の人々の命。秤にかけるまでもない」
 佐権院は表情はおろか、目元も、眉一つ動かすことなく淡々と続ける。その様子に九木は変わらず戦慄しており、結城は怒りの眼で彼を見据える。
 だが、双方とも何も言えない。それは佐権院の言っていることが、紛れもない正論だからだ。友宮の行っていたことは、当初の想定を遥かに超えるものだった。それは刺松市のみならず、もっと大きな規模で人々に不幸をもたらす可能性を孕んでいる。なら、確実に状況を収めようとすれば、少数の犠牲を支払って全体を救うしかない。二人とも、それを解かっているからこそ、佐権院の方針に反論などできるはずもなかった。
「と、ここまでが組織人としての私の意見だ」
 佐権院の放っていた冷徹の空気がいきなり消え失せ、結城も九木も急に毒気を抜かれてしまい、目を瞬かせた。
「佐権院警視?」
「一警察官として、大きな被害が出ると分かっているなら、たとえ少数の犠牲を覚悟してでもそれを抑えなければならない。まして今回の案件は私が陣頭指揮を執っているのでね。しかし一個人、佐権院蓮吏としての意見を述べるならば、友宮里美も救った上で、友宮咆玄の企ても阻止したい」
「じゃあ……」
「君に依頼したのは、君と、そして君とともにある存在が動いてくれれば、奇跡でさえも可能になるかもしれないと踏んだ上だよ、小林結城くん?」
 先程までとは一転した、柔和な微笑みを佐権院は見せた。それは彼もまた、一人の人間として、友宮里美を救いたいという意思を共感していたという何よりの証だった。
「お、驚かせないでくださいよ~、警視~」
 慄いてばかりだった九木が、緊張の糸が解けたのか、泣き笑いの表情を浮かべる。
「九木刑事、私とてこの国の鎮守を任された家系の者であると同時に人の子だ。そこを弁えておいてもらいたい」
「は、はい!」
 佐権院の言葉に、九木は敬礼を以って応えた。
「だが事態はそこまで悠長にはしていられない。いざという時には私の作戦にシフトさせてもらう。いいかな、小林くん?」
「はい、そうして下さい」
 佐権院の心を汲んだ結城は、彼の問いに力強く頷いて応えた。
「さて、それではあなた方の今後の作戦をお伺いしましょうか?」
 三人以外は誰もいないはずの店内の、後方のボックス席に向かって佐権院は声をかけた。
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