小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

襲撃

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 龍脈の中に入ってからは、アテナに代わって虎丸が先頭を進んだ。一度通ったことで道を知っているからなのか、虎丸は自然に皆の前に立って洞窟を歩いていた。虎丸の後姿を懐中電灯で照らしつつ、結城たちは水をかき分けて進む。
 ただの一本道に見える洞窟だが、結城は虎丸の先導があって助かったと思っていた。龍脈の中はなぜか方向感覚が効かなくなりそうだったからだ。正確には方向感覚が四方八方に散ってしまうような感じだった。龍脈に入る前に感じた『力の流れ』のようなものが、洞窟の中ではあらゆる方向から吹いてきて、またあらゆる方向へ通り抜けていく。おかげで結城はどちらが前か後ろか、右か左か分からなくなってしまいそうになった。
 影響が出ているのは結城だけではないようで、他の者にしてもどことなく顔が険しくなっていた。結城には中でも佐権院は一番辛そうに見えた。結城と違い、生粋の霊能力者であり、人間である佐権院にとっては、龍脈の中を直接通るというのは、それなりに負担が掛かるものなのかもしれない。
(みんな大丈夫かな。虎丸もよくこんな中を通って来れたな。しかももう一度通ることになるなんて……)
 そう考えつつ何となく結城は前方に目をやった。相変わらず虎丸は寡黙に先を進み、それに追いて結城たちも歩いていく。
 だが、ふと虎丸の輪郭が少しボヤけているように結城は感じた。
 違和感を覚えて目を凝らしてみるが、特に虎丸の様子に変化はなかった。ただ洞窟の中で懐中電灯を点けているものだから、ちょっと目が錯覚を起こしただけだと結城は思うことにした。

 地下水路をしばらく歩いていくと、石を積み上げて作った壁に突き当たった。壁は周囲をぐるりと囲んでおり、それが頭上に向かって円筒状に伸びていた。
「TΞ1↓(ここが例の井戸らしいな)」
 マスクマンが先頭に出てきて辺りを見回した。
「ここからがトモミヤの本拠となります。皆、油断をしないように」
「おー」
 アテナの言葉に一同が力強く頷く一方、媛寿だけは小さく声と拳を上げた。
 その後、結城はすぐに、この場面で適任であろう人物に顔を向けた。
「それじゃマスクマン、お願いできる?」
「GΣ。AΓ5↑(ああ。シロガネ、ロープくれ)」
「う、ん」
 マスクマンが差し出した手に、シロガネはロープの先端を手渡した。
「……QΨ6↓? SΠ2→(なんで麻縄なんだ? しかも真っ赤な)」
「SMプレイ用に、持ってたやつ」
 手にしたロープに疑問を持ったマスクマンがその端を辿っていくと、なぜかシロガネのメイド服の胸元から伸びていた。
「ホントは結城を、亀甲縛りで吊るしたかったけど―――」
「NΘ0↓(いや、もういい)」
 そのロープがどういう目的のためだったとか、誰に使うつもりだったとか、この際状況を優先したいので、マスクマンはそれ以上の追及はしないことにした。ついでに青い顔をしている結城についても見なかったことにした。

 身軽なマスクマンがシロガネの麻縄を持って井戸の壁を登り、外に縄を固定した。縄を伝って一人、また一人と井戸から這い出し、全員が揃ったところで周囲の状況を確認した。
 井戸は鬱蒼と茂る森の真ん中に、雑草や土くれに埋もれるようにしてそこに在った。一見しただけでは井戸の存在はほとんど判らないので、それも虎丸が友宮邸を脱出できた要因の一つかもしれなかった。
 結城をはじめとした全員が、井戸の位置している場所を理解していた。結界に遮られながらも、友宮邸の表面上の場景は掴めていたので、そこが左寄りにある小さな森林地帯だと分かった。
 敷地内に入ることには成功した。次は気取られないようにしながら屋敷内に潜り込む。
 だが、結城が一歩を踏み出そうとした時、アテナは非常に不気味な気配を感じ取った。
「ユウキ!」
 急いで襟首を掴み、結城の体を後ろ側に引っ張り込む。ちょうど移動する前に結城の頭があった場所を、何かが一瞬で横切った。それは甲高い音を立てて井戸の端に刺さって止まった。
 矢だった。それも現代の競技などで使われているものではなく、木製のシャフトに鳥の羽をあしらい、石の鏃を据えつけられた古い狩猟用の矢。その矢が、おそよ人間では陰影すら捉えられない速度で飛来したのだ。
「Bχ! TΔ8→!(気をつけろ! いるぞ!)」
 マスクマンの声に、その場にいた全員が身構えた。
「マスクマン、いるって何が?」
 結城もまた木刀を構えながらマスクマンに問いかける。マスクマンは緊張した様子で重く口を開いた。
「Aπ3←……SΦ9(この気配は……精霊だ)」
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