小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

泥成る胎児

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「小林くん! それはゴーレムだ!」
「えっ!? ゴ、ゴーレム? おわっ!」
 佐権院の方に振り向いた一瞬を狙って打ち込まれるハルバートを、結城は何とか紙一重でかわした。
「ゴーレムってゲームとかでよく出てくる動く石像のことですか?」
「元は導師が操る擬似生命を与えられた駆動人形だ。材質は問わず、術式さえ確かなら泥からでも造ることができる」
 佐権院は九字兼定のレプリカをかざし、刀身を結城に見えるようにした。刀の腹には切っ先から鍔元まで、うっすらと泥が付着していた。
「その鎧の中身は泥を基本素材にしたゴーレムだ。物理攻撃はほとんど効かない」
「じゃあ倒せないってことですか!?」
「私が急所を探り出して突き抜く! 少しの間、注意を逸らしていてくれ!」
「わ、分かりました!」
 結城は甲冑の攻撃を避けつつ、隙を見ては木刀で打撃するという戦法へ移った。もっとも、甲冑の中身が動く泥人形では、ダメージは見込めるはずもない。佐権院がゴーレムの急所を見つけるまで耐える。確かにパワーとスピードを兼ね備えた難敵だが、鍛錬の時に見ているアテナの力と比べればまだまだ見劣りする。打破することはできないまでも、しばらく攻防を続ける自信は、結城には充分にあった。
「トオミ、霊視モード最大」
「了解」
 佐権院とトオミの霊視能力がシンクロし、より深く甲冑を纏ったゴーレムを解析する。最初こそ佐権院は甲冑に何かしらの呪術や憑依術が施されていると考え、通常の霊視能力のみしか使わなかった。しかし、本来ゴーレムは邪悪な存在ではないため、魔を見通すための霊視では感知に引っかかることはなかった。ならば神位を見るための霊視ならば、ゴーレムの内部を視ることが可能となる。
 ゴーレムの基本構造は3つから成る。肉体となる物質、それを動かすための術式、そして精神あるいは生命の代替となる『emeth』の文字。どのゴーレムも必ずこの要素によって、製造から撃退方法まで成り立っている。ゴーレムを倒す唯一の方法は、『emeth』の『e』の文字を消し、『meth』に意味を切り替えることである。そうなればゴーレムはたちどころに形を失ってしまい、元の無生物へと還る。
 佐権院の霊視能力をトオミの能力で強化すれば、ゴーレムの肉体のどこに最も大きな力が存在しているかを探り当てることができる。それこそが即ち、ゴーレムの力の中心、『emeth』の文字の在り処ということだ。
 いま佐権院の眼は、本来視ることのない、形無きものを視るために集中していた。結城と交戦し続けている甲冑の、内部に存在する物理エネルギーとは全く異なる力の根源。それを見つけ出すために、佐権院の霊視は甲冑の深部にまで入り込んでいった。
(見えた!)
 甲冑の背部、中心からやや左腕寄りの場所を起点に、全身にエネルギーが行き渡っていた。そこに『emeth』の文字がある。確信を得た佐権院は再び刺突の構えを取る。ただの鋼でできたフルプレートアーマーなら、日本刀の鋭い切っ先は貫通し得る。正確に『e』の文字を消さなければゴーレムに死を与えることはできないが、ダメージを与える意味では充分。今は敵の動きを封じ、先へ進むことが重要。ゴーレムの急所めがけ、佐権院は死角から突進した。
 が、甲冑は予想だにしない動きを取った。結城に対して向いていた兜が、いきなり90度回転して佐権院の方を向いたのだ。人間ならばありえない、頸部の可動範囲を超えた動き。暗闇のようなバイザーの奥にある視覚が、佐権院の攻撃を完璧に捉えていた。
 甲冑は左腰に携えていたロングソードを逆手で抜き、刀身で背中を庇うようにして佐権院の刺突を受け止めた。さらに今度は腰部の関節を一回転させ、その遠心力を利用してハルバートの穂先を佐権院に突き立てようとしてきた。
「くぉっ!」
 咄嗟にブリッジの要領で背を逸らし、佐権院はハルバートの先端をやり過ごす。そのまま倒立後転で間合いを取り、顎を伝った冷や汗を拭った。
(何だ、今の反応は!? いくらゴーレムでも、知覚能力そのものは人間と変わらない。完全な死角からの攻撃に、あんな対応ができるはずが……まさか!)
「トオミ! もう一度霊視だ!」
「OK、蓮吏れんり
 ゴーレムらしからぬ異常な能力について思い当たった佐権院は、再び霊視を発動する。先程とは違い、もう少し範囲を大きく取った上で甲冑の内部を探査した。
「これは……二重デュアルゴーレムだ」
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