80 / 459
友宮の守護者編
残滓
しおりを挟む
まともな明かりがなく、暗闇に近い状態だったために、結城は螺旋階段の先に空間が開いていることに気付けなかった。目が慣れてきたことと、空間の先に淡い光源があったことで、ようやく周囲の状況を把握できた。
そこはドーム状の空間になっていた。微かな光だけが頼りなので、全体の面積までは掴めないが、相当広い場所であることは分かった。その奥にある柱のようなオブジェが、暗所で光る蛍光塗料に似た淡い光を放っていた。
「まさかここまで侵入してくる輩がいようとはな。わしが用意した守衛すらも突破して」
地下空間に重苦しい男の声が響き渡る。結城が目を凝らすと、光る柱のすぐ傍に座る人物が見えた。体格の良い和装の男が背を向けている。羽織には獣の牙を象った家紋が見て取れた。
「友宮家の家紋……あなたは、友宮咆玄!」
その人物に見当が付いた佐権院が名指しする。
「いかにも」
今回の依頼の発端、友宮家現当主、友宮咆玄。行き掛かり上とはいえ、結城はこの一件の最重要人物と相対することとなった。
「それで、お前たちは何だ? この場まで来た以上、何も知らんということもあるまい」
「私は佐権院蓮吏。佐権院家の現当主であり、警察官だ。あなたの行っていることは、裏の六法に著しく違反する。即刻儀式を中止し、出頭していただこう」
「佐権院か。平安の頃より護国鎮守を任ぜられた家名の一つ。噂で聞いたことはあったが、今は官憲も兼ねているか」
「それよりも儀式の中断が可能なら、早々に停止することを要求する。さもなくば、こちらも強硬手段に打って出る」
佐権院と友宮咆玄の会話が続く中、結城はある違和感を覚えていた。友宮咆玄は確かに結城たちを認識し、受け答えをしているが、なぜか背を向けたまま微動だにしない。神降ろしの儀式を行っているのが友宮咆玄であるのは間違いないため、今なお儀式を遂行しているので、こちらに向き直れないとも考えられる。しかし、それにしても結城の違和感は膨らんでいくばかりだった。
マスクマンから周囲の状況を把握するためには、目だけに頼ってはいけない。全ての感覚を以って気配を探ることが重要だと言われていた。そのための訓練もしていた結城にとって、佐権院と友宮咆玄の会話は異様だった。存在感が一方にしか感じられない。その一方は佐権院である。では、その佐権院が会話している友宮咆玄は―――。
「? 小林くん?」
媛寿を抱えたまま立ち上がり、友宮咆玄に向かって歩いていく結城を見て、佐権院は思わず言葉を切った。結城は傷の痛みと薄暗い足元によろけながらも、和装の男の元へ歩いていく。ちょうど座っている男の真横に立った時、結城は息を呑んで目を丸くした。
「さ、佐権院警視……」
「?」
驚愕の表情を浮かべて固まる結城を不審に思い、佐権院も警戒しながらではあるが、友宮咆玄の側面まで歩いていった。そこで佐権院は、結城がなぜ驚きに顔を引きつらせたのか、その理由を知った。
確かにそこにいたのは友宮咆玄だった。結城も佐権院も、写真で顔を見ていたので、本人と確認することができた。しかし、顔や手は土気色に染まり、頬はこけ、眼は落ち窪み、光を放っていなかった。
友宮咆玄は、すでに骸と成り果てていた。
「佐権院警視、これってどういう……」
「バカな。友宮咆玄が死んでいたなら、儀式を継続させられるわけがない。今なお神降ろしの儀式の影響は出ているというのに…………ん?」
全く予想だにしなかった事態に見舞われ、混乱しかかった佐権院だったが、ふと目に入ったものを凝視した。友宮咆玄の遺骸の首元。皮膚の変質は始まっていたため見辛かったが、首筋に噛み痕のような痣が残っていた。
「……そうか。神降ろしの儀式はそのために」
「佐権院警視、いったいどういうことなんですか?」
「友宮家は限界に達していたということだ。そうだな? 友宮咆玄」
佐権院の呼びかけに応えるように、結城たちの前に靄に似たものが現れた。それは少しずつ輪郭が整い、やがて人の形へと変わっていった。
最終的に色彩も得たその存在を目の当たりにして、またも結城は驚愕した。そこにいたのは、以前写真で見た友宮咆玄、そのままの姿だった。
そこはドーム状の空間になっていた。微かな光だけが頼りなので、全体の面積までは掴めないが、相当広い場所であることは分かった。その奥にある柱のようなオブジェが、暗所で光る蛍光塗料に似た淡い光を放っていた。
「まさかここまで侵入してくる輩がいようとはな。わしが用意した守衛すらも突破して」
地下空間に重苦しい男の声が響き渡る。結城が目を凝らすと、光る柱のすぐ傍に座る人物が見えた。体格の良い和装の男が背を向けている。羽織には獣の牙を象った家紋が見て取れた。
「友宮家の家紋……あなたは、友宮咆玄!」
その人物に見当が付いた佐権院が名指しする。
「いかにも」
今回の依頼の発端、友宮家現当主、友宮咆玄。行き掛かり上とはいえ、結城はこの一件の最重要人物と相対することとなった。
「それで、お前たちは何だ? この場まで来た以上、何も知らんということもあるまい」
「私は佐権院蓮吏。佐権院家の現当主であり、警察官だ。あなたの行っていることは、裏の六法に著しく違反する。即刻儀式を中止し、出頭していただこう」
「佐権院か。平安の頃より護国鎮守を任ぜられた家名の一つ。噂で聞いたことはあったが、今は官憲も兼ねているか」
「それよりも儀式の中断が可能なら、早々に停止することを要求する。さもなくば、こちらも強硬手段に打って出る」
佐権院と友宮咆玄の会話が続く中、結城はある違和感を覚えていた。友宮咆玄は確かに結城たちを認識し、受け答えをしているが、なぜか背を向けたまま微動だにしない。神降ろしの儀式を行っているのが友宮咆玄であるのは間違いないため、今なお儀式を遂行しているので、こちらに向き直れないとも考えられる。しかし、それにしても結城の違和感は膨らんでいくばかりだった。
マスクマンから周囲の状況を把握するためには、目だけに頼ってはいけない。全ての感覚を以って気配を探ることが重要だと言われていた。そのための訓練もしていた結城にとって、佐権院と友宮咆玄の会話は異様だった。存在感が一方にしか感じられない。その一方は佐権院である。では、その佐権院が会話している友宮咆玄は―――。
「? 小林くん?」
媛寿を抱えたまま立ち上がり、友宮咆玄に向かって歩いていく結城を見て、佐権院は思わず言葉を切った。結城は傷の痛みと薄暗い足元によろけながらも、和装の男の元へ歩いていく。ちょうど座っている男の真横に立った時、結城は息を呑んで目を丸くした。
「さ、佐権院警視……」
「?」
驚愕の表情を浮かべて固まる結城を不審に思い、佐権院も警戒しながらではあるが、友宮咆玄の側面まで歩いていった。そこで佐権院は、結城がなぜ驚きに顔を引きつらせたのか、その理由を知った。
確かにそこにいたのは友宮咆玄だった。結城も佐権院も、写真で顔を見ていたので、本人と確認することができた。しかし、顔や手は土気色に染まり、頬はこけ、眼は落ち窪み、光を放っていなかった。
友宮咆玄は、すでに骸と成り果てていた。
「佐権院警視、これってどういう……」
「バカな。友宮咆玄が死んでいたなら、儀式を継続させられるわけがない。今なお神降ろしの儀式の影響は出ているというのに…………ん?」
全く予想だにしなかった事態に見舞われ、混乱しかかった佐権院だったが、ふと目に入ったものを凝視した。友宮咆玄の遺骸の首元。皮膚の変質は始まっていたため見辛かったが、首筋に噛み痕のような痣が残っていた。
「……そうか。神降ろしの儀式はそのために」
「佐権院警視、いったいどういうことなんですか?」
「友宮家は限界に達していたということだ。そうだな? 友宮咆玄」
佐権院の呼びかけに応えるように、結城たちの前に靄に似たものが現れた。それは少しずつ輪郭が整い、やがて人の形へと変わっていった。
最終的に色彩も得たその存在を目の当たりにして、またも結城は驚愕した。そこにいたのは、以前写真で見た友宮咆玄、そのままの姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。
公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。
ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。
怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。
慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。
というお話にする予定です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる