小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

結界消失……

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「な、何の音だ!?」
 友宮邸の中から轟音と地響きが聞こえ、九木くきは待機していたワゴン車の運転席から顔を出した。
 神降ろしの儀式を阻止するために突入した結城ゆうきたちが、万一失敗した場合の保険として、佐権院佐権院さげんいんは現状で持てる時間とコネクションを使って対策部隊を用意していた。
 偽装ワゴン車の中には、一流の結界師が八名待機していた。もしも神降ろしが成功してしまったならば、友宮邸を囲む謎の結界のさらに上に結界を被せ、何者も出られないように封印してしまう手筈だった。
 そして、もし結界が破られた時に備えて、九木の相棒と認識されている少女、スズが召還されていた。丈の短いプリーツスカートに改造した、黒の正装軍服を纏うスズは、今はワゴン車の助手席で静かに目を瞑っていた。
(スズ様が無反応ってことは、まだ最悪の事態にはなってないってことか。あれ? ちょっと待てよ)
 スズの様子を窺った後で、九木はある違和感に気付いた。
(友宮邸は謎の結界のせいで、中で何が起こってるか一切分からないんじゃなかったっけ? なんで音が聞こえてるんだ?)
 つい先程感じ取った、何かが崩れる音と大きな振動。それは間違いなく友宮低から発せられていた。
(まさか!?)
 九木の脳裏に最悪の状況が思い浮かんだ。結城たちが神降ろしの儀式を阻止できていたとしても、友宮咆玄ともみやほうげんと相打ちになった可能性もなくはない。
 慌ててワゴン車から飛び出そうとした九木だったが、フロントガラスをノックする音が耳に入り、その方向を見た。
 ワゴン車の外にいたのは、佐権院のパートナー、トオミだった。全身傷だらけでスーツもボロボロだったが、かろうじてワゴン車のボディに掴まっていた。
「トオミさん!?」
 上司の腹心をその目で確かめた九木は、すぐさま車外に出てトオミの肩を持った。
「いったい何があったんですか!?」
蓮吏れんりから……伝言を……預かって来ました……」
 媛寿えんじゅによってダンスホールが崩壊した少し後、佐権院はトオミに別行動を指示していた。もと来た龍脈とトンネルを通って敷地外に出て、待機しているであろう九木たちに合流することだった。ここから友宮邸に少しでも霊的な異変を感じ取ったら、すぐに部隊を動かして友宮邸の封印に取り掛かること。佐権院は地下拝殿に下りる前に、最悪の事態を想定してトオミを遣わしていたのだ。
「じゃあ今のって……くそっ! 全員配置に着け! これより友宮邸の空間領域を切り取って結界の構築を―――」
「ちょっと待って、洸一こういち
 それまで助手席でくつろいでいたスズが、急にすっと背筋を立てた。
「今のはたぶん違う」
 スズは傍に立て掛けてあった太刀拵たちこしらええの刀を二振り手に取ると、助手席のドアから外に出た。
「ちょっ! スズ様!?」
 九木が止める間もなく、スズは友宮邸の敷地を区切る壁の前に立った。
 そして持っていた太刀の一振りの柄を握り、鞘込めのまま壁を勢いよく突いた。
 鞘の先に付いた石突いしづきは、重い音を立てて壁の向こう側まで貫いた。
「やっぱり。ここ、もう結界は張られてないみたい」
 鞘の刺突による手応えから、スズは友宮邸の謎の結界が消失していることを看破した。
「へっ!? でも、じゃあさっきの音は……」
「例の神降ろしの儀式自体は何とかなったんだと思う。けど……」
「けど?」
「もう一騒動起こりそうな気がする……」
 九木はスズの考察を聞いて半分は安堵したものの、もう半分は言い知れぬ不安が湧き上がっていた。千年に渡るあらゆる経験を統合したスズの直感は、恐ろしく正確であることを、これまでの付き合いで知っている。
 改めて友宮邸の敷地に目を向ける九木。地響きが鳴ってから特に異変は起こっていないが、果たしてここから状況がどう転ぶのか。
「……来た」
「っ!?」
 スズが一言発すると同時に、九木も大量の禍々しい気配を感じ身震いした。
「な、何だ!? いきなりこんなに……現れた!?」
「洸一、それと他の皆も気を付けておいて」
 壁に刺さった鞘だけを残し、スズは太刀を抜刀した。
「この敷地から出てくるのは、私が全部斬り伏せる」
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