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豪宴客船編

幕間 魔女の独り言

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「わっ!」
 不意に起こった大きな揺れに、カメーリアは驚いて周囲を見渡した。
「も~、何ですの?」
 クイーン・アグリッピーナ号で最高級のロイヤルロフトスイート。そこでカメーリアはテーブルの上に、薬包紙にった様々な粉末や薬草を置き、手元のすりばちで慎重に混ぜ合わせていた。
 だが、断続的に起こっていた船体の揺れの中、一際大きい震動が来たので、さすがに少し苛立いらだたしくなる。
「まったく、人が調薬している時に――――――あっ!」
 手元を見たカメーリアは思わず声を上げた。先程の揺れのせいで、薬匙やくさじに載せていた粉末が全てすり鉢に落ちてしまっていた。本来必要な量の倍近くは混入している。
(キュウが言っていた時間を考えると、今から作り直しはできませんわね……)
「こ、これが少しくらい多かったとしても、それほど大したことにはなりませんわ。うん、たぶん……」
 誰に言うでもない自己弁護をしながら、カメーリアは乳棒ですり鉢の中をかき混ぜる。
「完成ですわ。あとはこれを……」
 すり鉢の中身を薬包紙に移し、それを実をくり抜いた手のひらサイズのカボチャに注いでいく。
 注入が完了すれば、導火線付きのへたをはめて穴をふさぎ、継ぎ目を小麦粉で作った接着剤兼用のパテで埋める。
「これで準備よし」
 薬の調合を終えたカメーリアは、道具や材料を片付ける前に時計を見た。
 キュウが指定した時間にはまだ余裕がある。荷物をまとめて脱出用に用意した物まで運んでおくには充分だった。
 カメーリアは三角帽を被り直し、粛々と広げていた材料を薬箱に片付けていく。
 そして、何気なくキュウが言っていた時間を口にした。
「20時58分っと」
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