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竜の恩讐編

凶撃 その1

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「っ!」
 結城ゆうきとラナンの様子を見守っていた媛寿えんじゅの背筋に、ぞわっとひどい悪寒が走った。
「ゆうき! よけて!」
 半ば反射的に無線に叫び、その声は電波に乗って結城の耳の小型インカムに届いた。
「媛寿!?」

 スコープに結城とラナンを捉えたヴィクトリアは、再度弾道を計算し、小さく息を整えた。
 傍らにはふたの開いたライフルケース。その中には人間の右腕が無造作に置かれていた。
 いまヴィクトリアの右腕は、長距離狙撃用のライフルに換装されている。接続機コネクターを通して繋がったライフルは、ヴィクトリアの意思一つでトリガーが引かれ、12.7mm弾を炸裂させる。
 狙いを付けたら、あとは『思う』だけでいいのだ。
 『撃つ』、と。
(照準……補正……)
 弾道計算は完了した。
(撃つ)
 ヴィクトリアの意思が神経を通じ、接続機コネクターから発射機構へと伝わる。
 消音器サイレンサーの先から、乾いた発射音だけが静かに鳴った。

『ゆうき! よけて!』
「媛寿!?」
 耳に付けた骨伝導タイプの小型インカムに媛寿の声が届き、結城は状況は理解できないまでも、起こさなければならない行動はわかっていた。
「ラナンさん!」
「えっ?」
 咄嗟とっさにラナンの肩を抱き、何とか二歩分の距離を横に移動した。
 その直後、結城の耳元を小さな疾風はやてかすめた。
 視認するよりも速く通り過ぎたその物体は、舗装された道にめり込むことでようやく止まった。
 アスファルトに開いたあとには、結城も見覚えがあった。銃弾の痕だ。
『ゆうき! はしって!』
「うあっ!」
 媛寿からの通信で我に返った結城は、ラナンの手を引いて駆け出した。
 以前にも何度かあった状況だった。遠くから狙われている場合、反撃のしようがないから、とにかく姿を隠せる場所まで逃げる。
 ラナンを連れた結城は、目の端でとらえた路地裏への入り口へ急ぎ飛び込んだ。

「……」
 結城たちが路地裏に入ってスコープから消えると、ヴィクトリアは立ち上がり、左手で無線機を取り出した。
標的ターゲットは北北東へ移動。追撃を要請する」
『りょ~かい。わたしたちも準備できてるわ』
 無線機からルーシーの返信を聞き届け、ヴィクトリアはその場を撤収する準備を始めた。

「ますくまん! ゆうきたちだいじょうぶ?」
『NΩ2→(今のところはな)』
 狙撃を受けた結城たちを追い、建物を屋根から屋根へ移動しつつ、媛寿はマスクマンと交信した。いま結城たちに最も近く、死角に入っていても位置情報を把握できるのは、超感覚を持っているマスクマンだけだった。
『SΛ2→。AΘ9↑CR。SΞ1→G――――――WΣ6←(もうすぐ結城のところに着く。そしたらオレが弾道から敵の居場所を特定してやる。シロガネをそこへ向かわせ――――――何だ、こりゃ)』
「どしたの、ますくまん」
 無線から聞こえるマスクマンの声の変化に、媛寿はまたしても嫌な予感がした。
『Qπ4↓……EΓ(どうなってんだ……この区画は……)』
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