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竜の恩讐編

三年前にて…… その23

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 せいフランケンシュタイン大学病院でピオニーアを取り逃してから、コチニールは夜の数少ない通行人に手当たり次第に魔眼を使い、目撃証言を追ってピオニーアたちに追いついてきた。
 魔眼の対象外だった者たちには不審者扱いされてしまったが、自身が官憲かんけんに通報されるよりも、ピオニーアの拉致の方を優先させた。
 そして、川べりの空き地まで辿たどり着いた時、コチニールはピオニーアを奪還に来た者の姿をはっきりととらえた。
 琥外家こがいけ隠れ家セーフハウスへの侵入者であり、とうに始末していたはずの男だった。
 眩浪げんろうが手配した探偵と言っていたが、コチニールにとって、そのあたりの背景は瑣末さまつなことだった。
 より問題視するべきは、その男が燃え落ちる洋館から生き延び、さらにはピオニーアとも関わりがあり、なおかつピオニーアをあっさりと奪還せしめた手腕。
 果たしてどんな特殊な才覚を持ち合わせているのか、コチニールにははかることはできなかったが、それでも第六感はげていた。
 ここで確実に葬っておかなければ、必ず赤の一族ジェラグに、いな、自分に災いをもたらすだろう、と。
 銃弾ではなく、爆発物によって五体を吹き飛ばすべく、コチニールは手榴弾を投げ放とうとしたが、
「くっ!」
 それに気付いたピオニーアが、コチニールの左腕にしがみついた。
「なっ!? お、お放しください、ピオニーア姫!」
媛寿えんじゅちゃん!」
 ピオニーアが時間を稼いでいる間に、媛寿は左袖ひだりそでからスリングショットとビー玉二個を取り出して構えていた。
 はじかれた一個目のビー玉は、コチニールの左手の指に命中し、
「ぐあ!」
 コチニールは反射的に手榴弾を手放してしまった。
 しかし、即座に放たれた二個目のビー玉が、手榴弾本体に命中し、可能な限り後方へと弾き飛ばした。
 すでに安全ピンが抜かれていた手榴弾は、宙空で安全レバーが外れ、数秒後には爆発する状態となっていた。
「ぴおにーあ!」
 媛寿がピオニーアの名前を呼ぶと、ピオニーアは一目散いちもくさんに媛寿の元へ駆け出した。
 その時には、媛寿は左袖からレジャー用のアルミシートを出して広げていた。
 倒れている結城ゆうきの元にピオニーアがすべり込むと、媛寿は二人にアルミシートをけ、自身もその中へと隠れた。
 次の瞬間には、手榴弾が炸裂し、爆発音が盛大にとどろいていた。
 飛び散った鉄片でシートの表面は傷だらけになったが、断熱仕様であったので爆風と炎からは身を守ることができた。
「いったたた~、はへんがばしばしあたった~」
 爆発が収まると、媛寿は頭を押さえながらシートからい出した。
「でもおかげで最小限の怪我で済みました。ありがとうございます、媛寿ちゃん」
 媛寿に続き、ピオニーアもシートの下から起き上がった。
「む~、ぴおにーあ、むちゃしすぎ」
「媛寿ちゃんならきっと上手くやってくれるって信じてるからですよ」
 そう言ってピオニーアは媛寿に微笑ほほえんだ。
 信頼されていた嬉しさと、打ち合わせなしの連携が見事に成功した可笑おかしさから、
「ぷっ―――くくっ―――あはははは」
 媛寿は自然と笑い出していた。
「うふふ―――ふふ―――あははは」
 つられてピオニーアも愉快そうに笑い出す。
「ん? あれ? 僕どうしたんだっけ? というか何で二人とも笑ってるの?」
 今さらながら気絶からめた結城に、媛寿とピオニーアは、
「なんでもな~い」「何でもないですよ~」
 と、口をそろえて言うのだった。

 爆炎を受けた煙を立ち昇らせ、半身に大量の鉄片を受けながらも、コチニールはまだ意識を保っていた。
 うつ伏せで倒れている状態から、結城たちに気取けどられないよう、そっと自身の装備を確認する。
 無事だった物は二つ。それもこの場で充分に使える物であったことで、コチニールは口角を上げて破顔した。
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