374 / 377
竜の恩讐編
伯爵の血を継ぐ者 その4
しおりを挟む
「……そう。退く気はないってわけね?」
マスクマンの失われるどころか、逆に強くなった戦意を感じ、ルーシーはそれを確かめるつもりで聞いた。
「YΞ。Tπ4↑NΛ1↓(ああ。オレも、他の奴らも、退くつもりはない)」
それに対して、マスクマンもはっきりと肯定する。
「じゃ、しょうがないか。降参してくれるなら見逃してあげようと思ったけど――――――まともに動けない身体にしてあげる」
前髪を掻き上げたルーシーの眼は、これまでとは比較にならないほどの殺気を放っていた。
常人なら魅了の力も相まって、ルーシーに触れることなく敗北を悟り、平伏していたことだろう。
だが、あくまで人が負の方向へ進化した形態である吸血鬼では、原初の精霊の一柱であるマスクマンを魅了することは適わない。
マスクマンは平然と相対しているが、純粋な戦闘においては相性が良くないのも知っている。
吸血鬼の不死性を高める能力を獲得しているルーシーを倒すには、マスクマンの通常戦法では決め手に欠ける。
ましてや、マスクマンはルーシーの能力を知らない。
能力を知られないことで、ルーシーは吸血鬼の中でもより不死身と認知され、畏怖される存在となり得たのだ。
(大抵は心臓、でなければ脳を急所と断じて狙ってくる。けど妾は基本脊髄に最大の致死率を割り振っている。心臓と脳を破壊しても死なないと分かれば、ほとんどが降参するところだけど……随分な気骨ね)
擬似的な不死性ではあれど、ルーシーの生命力を目の当たりにしても、マスクマンは退くどころか揺らぎもしない。
そういったマスクマンの珍しさを、ルーシーは戦いの最中であれ、高く評価していた。
(まぁでも、こっちも依頼なんでね)
ルーシーが投げ針を右手に備えるのと、マスクマンが突撃を開始するのはほぼ同時だった。
マスクマンは駆けながらブーメランを放つが、それは真横へと飛んで行き、まるでルーシーを狙っているようには見えない。
ルーシーもブーメランの軌道を目で追ったが、自身に定められて放たれたものではないとすぐに判断できた。
当のマスクマンは丸腰のまま、ルーシーに対して一直線に向かってくる。
武器もなく、左手も喪失したまま、ただ突撃してくるだけのマスクマンに、ルーシーは大いに失望した。
気骨を見せた割には単なる玉砕だったと。
これ以上はつまらない戦いになると考えたルーシーは、早々に終結させるべく、針をマスクマンの脚部へ重点的に投げた。
だが、マスクマンは腿に、膝に、脛に針を打ち込まれても、構うことなく前進してくる。
脚部だけでは足りないと判断したルーシーは、今度は胴に、肩にと針を投擲するが、それでもマスクマンは止まらない。
(このっ! こうなったら!)
業を煮やしたルーシーは、鋭い爪による刺突で、マスクマンの胴を貫こうと構える。
もはや間合いは数歩のところまで詰まり、投げ針は意味を成さない。
あと一歩でルーシーが爪を突き出せるという時―――――――――空気を切り裂いて樫製のブーメランが飛来した。
それも、マスクマンが投げた方向とは、完全に真逆の方向から。
ルーシーは一瞬だけ困惑したが、すぐにブーメランが大きく迂回してきたのだと解った。
それも、やはりルーシーに当たる軌道ではないと見抜き、危険度はないと考えた。
しかし、マスクマンの狙いはここからだった。
ブーメランの軌道は下がり、地面を這うように飛んでいた。
そしてその先で、刃先が地面にめり込んでいた手斧の柄に命中した。
「!?」
ルーシーが驚いた瞬間、手斧は回転しながらマスクマンの右手に収まり、渾身の一撃が振り下ろされた。
黒曜石の刃は再びルーシーの心臓を斬り裂いたが、脊髄が弱点のルーシーにとってはそれほどのダメージがあるわけでもない。
「上手くやったと思うけど、妾がこの程度で死なないってまだ解ってない?」
「YΩ。DΦ4↓――――――BΘ!(ああ。死なないだろうな――――――だが!)」
マスクマンは手斧をルーシーから引き抜くと、すかさず傷口に右手を突きこんだ。
「Tξ?(これならどうだ?)」
「あぁ! んぅ……」
ルーシーはこれまでにない感覚に、体をびくりと跳ねさせた。
再生する寸前だった心臓を、マスクマンの右手が鷲掴みにしてきたのだ。
「し、心臓を……掴まえたところで……わ、妾を殺せるわけじゃ……!?」
再び手刀を構えようとしたルーシーだったが、その時になってようやく上空の異変に気付いた。
「KΞ2→。KΛ1↑(このままじゃお前を殺せねぇさ。このままじゃな)」
ルーシーを睨むマスクマンの単眼が、より強い輝きを放ち始めていた。
マスクマンの失われるどころか、逆に強くなった戦意を感じ、ルーシーはそれを確かめるつもりで聞いた。
「YΞ。Tπ4↑NΛ1↓(ああ。オレも、他の奴らも、退くつもりはない)」
それに対して、マスクマンもはっきりと肯定する。
「じゃ、しょうがないか。降参してくれるなら見逃してあげようと思ったけど――――――まともに動けない身体にしてあげる」
前髪を掻き上げたルーシーの眼は、これまでとは比較にならないほどの殺気を放っていた。
常人なら魅了の力も相まって、ルーシーに触れることなく敗北を悟り、平伏していたことだろう。
だが、あくまで人が負の方向へ進化した形態である吸血鬼では、原初の精霊の一柱であるマスクマンを魅了することは適わない。
マスクマンは平然と相対しているが、純粋な戦闘においては相性が良くないのも知っている。
吸血鬼の不死性を高める能力を獲得しているルーシーを倒すには、マスクマンの通常戦法では決め手に欠ける。
ましてや、マスクマンはルーシーの能力を知らない。
能力を知られないことで、ルーシーは吸血鬼の中でもより不死身と認知され、畏怖される存在となり得たのだ。
(大抵は心臓、でなければ脳を急所と断じて狙ってくる。けど妾は基本脊髄に最大の致死率を割り振っている。心臓と脳を破壊しても死なないと分かれば、ほとんどが降参するところだけど……随分な気骨ね)
擬似的な不死性ではあれど、ルーシーの生命力を目の当たりにしても、マスクマンは退くどころか揺らぎもしない。
そういったマスクマンの珍しさを、ルーシーは戦いの最中であれ、高く評価していた。
(まぁでも、こっちも依頼なんでね)
ルーシーが投げ針を右手に備えるのと、マスクマンが突撃を開始するのはほぼ同時だった。
マスクマンは駆けながらブーメランを放つが、それは真横へと飛んで行き、まるでルーシーを狙っているようには見えない。
ルーシーもブーメランの軌道を目で追ったが、自身に定められて放たれたものではないとすぐに判断できた。
当のマスクマンは丸腰のまま、ルーシーに対して一直線に向かってくる。
武器もなく、左手も喪失したまま、ただ突撃してくるだけのマスクマンに、ルーシーは大いに失望した。
気骨を見せた割には単なる玉砕だったと。
これ以上はつまらない戦いになると考えたルーシーは、早々に終結させるべく、針をマスクマンの脚部へ重点的に投げた。
だが、マスクマンは腿に、膝に、脛に針を打ち込まれても、構うことなく前進してくる。
脚部だけでは足りないと判断したルーシーは、今度は胴に、肩にと針を投擲するが、それでもマスクマンは止まらない。
(このっ! こうなったら!)
業を煮やしたルーシーは、鋭い爪による刺突で、マスクマンの胴を貫こうと構える。
もはや間合いは数歩のところまで詰まり、投げ針は意味を成さない。
あと一歩でルーシーが爪を突き出せるという時―――――――――空気を切り裂いて樫製のブーメランが飛来した。
それも、マスクマンが投げた方向とは、完全に真逆の方向から。
ルーシーは一瞬だけ困惑したが、すぐにブーメランが大きく迂回してきたのだと解った。
それも、やはりルーシーに当たる軌道ではないと見抜き、危険度はないと考えた。
しかし、マスクマンの狙いはここからだった。
ブーメランの軌道は下がり、地面を這うように飛んでいた。
そしてその先で、刃先が地面にめり込んでいた手斧の柄に命中した。
「!?」
ルーシーが驚いた瞬間、手斧は回転しながらマスクマンの右手に収まり、渾身の一撃が振り下ろされた。
黒曜石の刃は再びルーシーの心臓を斬り裂いたが、脊髄が弱点のルーシーにとってはそれほどのダメージがあるわけでもない。
「上手くやったと思うけど、妾がこの程度で死なないってまだ解ってない?」
「YΩ。DΦ4↓――――――BΘ!(ああ。死なないだろうな――――――だが!)」
マスクマンは手斧をルーシーから引き抜くと、すかさず傷口に右手を突きこんだ。
「Tξ?(これならどうだ?)」
「あぁ! んぅ……」
ルーシーはこれまでにない感覚に、体をびくりと跳ねさせた。
再生する寸前だった心臓を、マスクマンの右手が鷲掴みにしてきたのだ。
「し、心臓を……掴まえたところで……わ、妾を殺せるわけじゃ……!?」
再び手刀を構えようとしたルーシーだったが、その時になってようやく上空の異変に気付いた。
「KΞ2→。KΛ1↑(このままじゃお前を殺せねぇさ。このままじゃな)」
ルーシーを睨むマスクマンの単眼が、より強い輝きを放ち始めていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる