小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

復讐者 その1

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「ガボッ!」
 四肢も下半身も失い、もはや首と胴しか残っていない状態になってなお、コチニールはまだ死を迎えられなかった。
 コチニール自身の血に呪術師ボコールほどこした処置によって、コチニールは半屍人ゾンビ化していた。
 たとえ首だけになろうとも、脳髄を破壊しない限り、死ぬことはできなかった。
「これは驚いた。まだ息があったか」
 建御雷神タケミカヅチもまた、コチニールが生存していることに気付いた。
「だが案ずるな。われいたずらに苦しめるのは好まん」
 太刀のつばに親指を当て、鯉口こいくちを切り、
「今度こそ―――微塵みじんに裂いて黄泉へと送ってやる」
 再び神速の剣技を放とうとした矢先だった。
「お待ちください! タケミカヅチ様!」
 建御雷神タケミカヅチの抜刀に待ったをかけたのはアテナだった。
如何いかがしたかな? アテナ殿」
 手を止めた建御雷神タケミカヅチは、振り返ってアテナを見た。
 まだ負傷が響き、まともに立つこともままならない状態だったが、アテナは非常に真剣な眼差しを向けていた。
 それを見た建御雷神タケミカヅチは、よほどの事情があると察し、太刀から手を離した。
「その者の始末、是非ユウキに一任していただきたい」
「ユウキ?」
 建御雷神タケミカヅチもアテナから小林結城こばやしゆうきについては聞かされていた。
 そして、この場にいることもすでに確認している。
 結城の方に目を向けた建御雷神タケミカヅチは、アテナの申し出の理由がわかった。
 コチニールを見る結城の目は、強い怒りと憎悪に満ちあふれていたからだ。

 死のふちから蘇り、それまではいなかったコチニールを目にした時、結城にはそれが誰なのか分からなかった。
 だが途中、謎の巨獣が口にした『凡俗』という言葉が、結城に正体を気付かせるきっかけになった。
 結城のことをそう呼んだのは、これまでたった一人しかいなかったからだ。
 当時は名前までは知らなかったが、三年前、ピオニーアを追い詰めようとしていた人物だった。
 そして、死の淵でピオニーアから聞かされた事実と合わせ、結城の中にある強い思いがき上がってきた。
(この人が……ピオニーアさんを……)
 復讐心だった。

媛寿えんじゅ、リズベルさんのこと、お願い」
「ゆうき?」
 リズベルを媛寿に預け、結城は立ち上がった。
 だが、結城の様子がそれまで違っていることに、媛寿は戸惑いを隠せなかった。
 結城はまだ覚束おぼつかない足取りでコチニールの元まで向かう。
 呼吸はまだ安定せず、身体も鉛のように重たい。
 それでも止まることなく、結城はコチニールが倒れている場所まで歩く。
 その途中で、結城は拳大の石を見つけた。
 しばらく見つめた後、その石を拾って再びコチニールに向かって歩き始める。
 ようやく辿たどり着くと、結城は倒れているコチニールを見下ろした。
 三年前とは全く姿が異なっているが、結城は確信していた。
 眼前で虫の息になっている巨獣と、三年前にピオニーアを追い詰めていた人物が、同一であると。
(ピオニーアさんは……この人のせいで……)
 三年前、結城が最後に記憶していたのは、耳に残った一発の銃声だった。
 その先を結城は知らなかった。
 しかし、ピオニーアから語られた事実によって、ようやく真相を知るに至った。
(ピオニーアさんを……よくも……よくも!)
「うあああああ!」
 結城は石を振りかぶり、コチニールの眉間みけんを叩き割ろうとした。
「っ!?」
 が、振り下ろす寸前だった結城の腕を、誰かがしがみ付いて止めていた。
「はあ……はあ……」
 息も絶え絶えに結城を追ってきた、リズベルだった。
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