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第1章:難攻不落と転入生

第12話:強化された天敵

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 翌朝、学校へ向かう途中で私は岡本さんにある相談をしていた。

 「岡本さん。私太ったみたい」

 するとバックミラー越しに私を見る。

 「そうですね……言われてみれば少しふっくらしている気もしますよ」

 そこは太ってないと言われたかった私。これは痩せねば。
 
 「だからダイエットしようと思うんだけど、どうすればいいと思う?」

 「食制限とかは健康に良くないのでオススメはしません。なので少し運動などするのはどうでしょうか?」

 運動かー。私の3大嫌いなことに入るやつね。嫌だなー。

 「運動って例えば?」

 「運動って言っても少し体を動かせばいいだけですよ。例えば学校まで歩いてみるとか」

 なるほど、徒歩通学ね。それならできそうよね。

 「それはいいわね。でもママが許さないんじゃないの?」

 ママは結構過保護だ。理由は知ってるけどでも過剰な部分がある。

 「でしたら……そうですね、帰り道だけっていうのはどうでしょうか?お嬢様は朝起きるのも遅いですし、それだと少々慌ててしまって危なそうですからね」

 もっともな意見だが少し癪にさわる。まあ事実だけど。

 「それならママは許してくれるのかしら?」

 「ええ。恐らく大丈夫だと思いますよ。この後伝えておきますね」

 すごい自信だな。あのママを説得できる自信があるなんて。

 「そんなことできるの?」

 「大丈夫ですよ。お嬢様は私を信頼していませんか?」
 
 「そ、そんなことないわよ!岡本さんは私の大事な人よ」

 「そう言って頂けて嬉しいです」

 ん?なんだか上手く躱されたような気がしなくもない。まぁしょうがないか。

 「到着いたしました。お帰りはご自分で頑張ってください。ですが万が一道に迷ったらこのスイッチを押してくださいね。GPSが入ってるのですぐにお迎えに上がります。では今日も楽しくお過ごしください。」

 岡本も随分と心配性よね。でもこんな装置作ってるなんて知らなかったわ。なんだか防犯ブザーみたいな形ね。

 「大丈夫よ。じゃあ行ってきます!」


 ◇◇◇

 ガラガラガラ。いつものドアの音。テストで25点取ったらしいけど、その傷もあの絆創膏が癒してくれるわ!って呑気に言ってると家庭教師の時間が増えちゃうのよね……頑張ろう。

 「あ、おはようございます、エマ様」「おーエマ様、おはよ!」

 いつも通りの中田と田中。2人一緒だと言いづらいわよね。

 「おはようございます」

 「あ、エマ様、おはよー。さっき英語の先生が呼んでたよ?」

 え、英語の先生……これは確実に小テストの件だろうな。それともママへのクレームとか?

 「おはようございます、赤石さん。職員室に行けばよろしいのですか?」

 「そうみたいだよ。なんか焦ってたからすぐ行きな」
 焦ってたのか……そしたらママがなんか言ったんだろうな。

 「分かりました。早速向かいますね」

 行きたくない。怒られには行きたくない。ママが絡んでるとしたら最悪だ。そしたら私がいい点数を取らないと先生の人生も危ないかもしれない。

 ◇◇◇

 コンコン。私は職員室の扉をノックする。

 「どうぞー」

 ガラガラ。いつもは好きなこの音が今は少し嫌だ。

 「失礼します。1年A組の磯鷲エマです。英語の佐藤先生はいらっしゃいますか?」

 すると男性教員全員が私をみる。正直気持ち悪い。

 「ああ、磯鷲さん。待たせてごめんね。ちょっと別室に行こうか」

 佐藤先生は冷や汗をかいていた。きっと人生の瀬戸際なんだろう。ごめんね。

 そして別室に着くと先生は1枚の紙を出した。これが私の25点なんだろうなぁ。

 「お母様から聞いているとは思うがこれを見てくれ」
 
 そして明かされる私の小テスト。バツが多すぎて逆にあってるんじゃないかと思ってしまう。
 「あ、あの……」

 「私の教え方が悪いようだ。この通り、許してほしい」

 先生は両手を膝に立てて頭を下げた。なんで先生が謝るのよ。悪いのは完全に私なのに……ごめんなさい。

 「せ、先生のせいなんかじゃありませんよ。私が勉強できないのがいけないんですから」

 「だ、だがそれだとお母様が……」

 やっぱりママの仕業なのね。

 「私が勉強できるようになればいいだけですから、先生は気を落とす必要はありませんよ。母には私から言っておきます」

 言えないけどね!

 「そ、そうか?だが先生もできる限り協力しよう。なんかあったらなんでも言ってくれ」

 ならテストの答案が欲しいです!なんて言える訳はない。

 「はい。私のためのお気遣いいただき、ありがとうございます」

 私はテーブルの上に置かれたテストを手に取った。

 「それでは私はこれで失礼します」

 「あ、ああ。頑張ってくれよ……」

 先生の人生まで私のテスト次第となってしまった。これはまずい。

 急ぎ足で職員室を後にする。すると職員室の出口が自動ドアになっていた……訳はなく、私はまた天敵という名の壁に激突した。

 「お、エマちゃん。悪い。いつもドアでぶつかるな?」

 笑いながら言う天敵。私はいますぐにこのテストをカバンの奥底に封印しなきゃいけないってのに……ってテストどこ行った?

 「なんか落としたぞ?」

 あ、だめ。それだけは…… 

 「英語の小テスト?25……ってハッハッハ」

 見られてしまった。天敵がさらに天敵になってしまった。こいつは私の秘密を2つもつかんでいる。これはまずい。

 「み、見ないで!」

 やばい。素が出てしまった……

 「エマちゃんそんな喋り方だったっけ?まぁいいか。てか意外と頭悪いのな」

 あ、終わった。もうだめだ。また頭が真っ白になっていきそうだ……

 「あ、そうだ。勉強できないなら俺が教えてやろうか?」
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