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第1章:難攻不落と転入生

第14話:天敵くん

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 数学。それは私の2番目に苦手な教科。そして授業など全くもって聞いていない。

 やばい。やばすぎる。何もわからない。

 抜き打ちテストが始まってから早10分。
 みんなは問題の難易度に安堵の息をこぼす。
 だけど私はそれどころじゃない。1問も解けてない。

 なんだこの問題の意味は……なんで確率を求めなきゃいけないのよ。
 しかもAとかPとかBとか書いてあるし。これって数学じゃないの?数字は一体何処へ……

 でもとにかく何か書かなきゃ。確率の問題は大体15%くらいよね。ここは神頼みだ。

 あとは適当に書いておけば40点はいくかな?部分点を狙ってとりあえず書きまくる。

 そして残り5分。ああ、もうダメだ。
 周りのみんなはもうシャーペンを机に置いている。
 落書きを始めてる奴もいるぞ。まずい。まずい。かなりまずい。

 ◇◇◇

 「じゃあ後ろから集めてきて」

 撃沈した。1問もわからない。でも点数を隠せばなんとか……

 「エマ様、どうだった?」

 赤石よ。今は話しかけないでくれ。

 「え、ええ。まぁまぁ、ですかね?」

 まぁまぁどころじゃないよ!多分30点くらいだよ。

 「えー。またまたぁ、謙遜は嫌味だぞー」

 謙遜じゃないよ。真実よ。
 
 「け、謙遜じゃないですよ……赤石さんはどうでした?」

 「私はフツーかな。まぁダメでも80点くらいは取れるかなーってくらいね」

 80点でだめ!?もう私とは次元が違うわ。そんな点数取れたら死ぬほど喜んじゃうわよ。

 「それはすごいですね……」

 言葉を失ってしまった。ああ、先生。採点は終わらせないでください……

 ◇◇◇

 「採点終了っと。じゃあ今から返すから。名前呼ばれたらこい。あ、あとこれは成績には入らないからきにするなー」

 「じゃあなんでやったんだよ!」「意味ねー」

 クラスから批難の声が上がる。その通りよね。なんでやったの?意味ないじゃない。

 「最初は満点だったやつから返す。クラスで1人だったからな。そのあとの順番は適当だから」

 私に向けて集まる視線。私って随分と期待されてるのね。いやだわ~。

 「じゃあ発表するぞ……」

 みんなの視線が先生の方へと戻る。

 「100点満点、神谷蓮二」

 「おぁー!」「きゃー」「蓮二くーん!」「さすが湘表だぜ!」「かっこいいー!」

 な、湘表ってのは本当だったのね。てか運動もできて頭いいって不公平よね。

 「すごいな。1問だけ難しいやつ入れといたのに」

 「嘘つきー」「簡単って言ったじゃーん」

 飛び交う批難。その中で軽く会釈する天敵。なんだか無性に腹がたつ。

 「じゃあのやつ、赤石」

 「はーい」

 そんな感じでどんどん呼ばれていく。でも私の名前は呼ばれない。そして最後の1人になった。

 「じゃあ最後、磯鷲さん」

 私は黙ってテストを取りに行く。
 テストを手渡してきた先生が残念そうな顔をしているよ。ごめんなさい。私は頭が悪いんです。

 「中間は頑張ろうな」

 気を使って小声で言ってくれた先生。はい、頑張ります。私は軽く会釈して席に戻った。

 「エマ様、どうだった?」

 赤石よ。本当にやめておくれ。

 「まぁまぁ、ですかね?」

 「えー、教えてよー。じゃあ見せ合いっこしよ!」

 それはダメだ。私のハイスクールライフが終了してしまう。

 「そ、それはちょっと……」

 「じゃあ私の教えるから、そのあとに教えてね。ちなみに私は85点だった!」

 そういってテスト用紙を見せてくる赤石。いいなぁ。羨ましいなぁ。

 「わ、私は……」

 適当な点数を言おうとした瞬間、私のテスト用紙が宙に浮いた。

 「きゃっ」

 まずい。思わず叫んでしまった。みんなの視線が私に集まる。

 「おー。エマちゃん95点ってすごいじゃん。クラスで2番目じゃね?」

 テスト用紙を高々と持ち上げたのは天敵だった。でも95点って私のは10点だったはず……

 「えー。エマ様やっぱ謙遜じゃん」

 赤石が少し笑いながら皮肉る。

 「やっぱ主席だな」「湘表よりはできなくて当然だろ」「でもやっぱりエマ様は秀才ね」

 周りから上がる声。でも誰も私の点数を疑わない。それほど天敵が信頼されてるのかしら?

 「いきなり取って悪かったな。主席って聞いてたからどんなもんかと思ってよ」

 天敵はテスト用紙を小さく畳んでくれた。でも主席って言いながらニヤけるあたりは許せないわね。
 
 「ほらよ。次は頑張ってな」

 そう言って私の手元に戻ってくるテスト用紙。その流れでカバンの奥底へと封印する。

 「そ、そうですね。頑張ります」

 でも助かったわ。今日だけは感謝しなきゃね。ありがとう、私の天敵くん。
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