誰も映画を観てくれないので、殺人鬼を幼女化してノベライズする

因幡雄介

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オープン・ウォーター

夏のけだるさと瀬戸内海

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*内容をさらにわかりやすくした『映画チャットノベライズ(笑)』のブログもよろしくお願いします。


映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/07/100929)


 門平善照は溶けていた。

 暑い。

 夏休みだし、家にいてもやることがない。

 大学の図書館にでもいくか。

 外に出て、コンクリートの道を歩く。

 セミが鳴いてる。

 熱い光が皮膚に食い込んでくる。

 財布には100円あるし、大学内にあるコンビニで麦茶でも買おうかと思う。



「門平君!」



 大学に着くと、駐車場から声をかけられた。

 ホットパンツの美雪が立っていた。

 黒いサングラスをつけて仁王立ちだ。

 暑くてダルいので、



「なんッスか?」

「今から海に行きましょう! リアナもいるわよ!」

「海か……」



 心引かれてしまう。

 リアナは男を釣るための餌だろうけど、広大な海には魅惑された。

 子供の頃、浮輪に乗って、水の上を漂うのが好きだった。



「いいね。行くよ」

「じゃ! 車に乗って!」



 美雪の軽自動車に乗り込む。

 中はクーラーで冷えていた。

 落ち着く。



「アイスと麦茶もあるわよ!」

「おお。ありがとう」



 シャクシャクとアイスを食べ、ペットボトルの麦茶を飲む。

 おいしい。

 このとき、俺は気づくべきだった。

 美雪のやたら高いテンションと、彼女の異常な優しさに。



 四国と本州の内海、瀬戸内海で車は止まった。

 波止場に着くと、リアナと言左衛門が待っていた。

 どうやら小型船舶に乗って、海に飛び込んで遊ぶようだ。

 白いTシャツを着たリアナが、



「ごめんね。ありがとう」



 なぜかお礼を言ってきたので、「いいよ。いいよ」と返す。

 盛り上がった胸を見ないようにするのが大変だった。

 小型船を運転するのは美雪のようだ。

 鼻歌を歌っていることから、運転に慣れていることがわかる。

 屋根のあるデッキに座って、太陽の光から逃げた。

 殺人的な暑さだ。

 40度を超えてるんじゃないか。

 思考能力を失っていく。

 リアナは浮かない顔をして、ずっと無言だった。

 言左衛門が、となりで武田信玄と上杉謙信の川中島の戦いを語り続けている。

 何かの本で、太陽が暑かったから殺人を犯した男の話があった。

 それは逃れられない絶望感を表現したものだったか。

 男の気持ちがわかるような気がする。

 船が泊まった。

 海のど真ん中じゃないかと思うぐらい、周りには島すら見当たらなかった。

 美雪が操舵室から下りてきて、



「さあ男ども! そこのデッキに並びなさい!」



 軍隊の隊長みたく言ってくる。

 暑さで何をやるのか考えられず、言左衛門と並ぶ。

 美雪は腕を組んで後ろを向き、



「ストリートファイターシリーズを知ってるかしら?」

「格闘ゲームだろ?」

「そうよ。その中で最強のキャラクターを知ってる?」

「最強……ベガっていうボスだっけ?」

「はん! ベガですって? あんなのただのアゴ割れてるアゴおじさんじゃない!」



 美雪は手を振って否定。

 わりと強かったような気がしたが。

 アゴおじさんの中二病気質は確かにすごかった。

 言左衛門が腕を組み、



「うむ。最強のキャラクターといえば、グレーシー柔術の創始者――カーロス・グレイシーでござるな」

「それ実在の人物だろ? ゲームじゃないぞ」



 ゲームをやったことがないであろうサムライにツッコむ。



「ぜんぜん違うわよ!」

「じゃ、誰なんだよ?」

「マグニートーよ!」

「……えっ?」



 うん? ストリートファイターシリーズに出てたキャラだっけ?



「ということで、どんっ!!」

「ぎゃっ!?」



 美雪に手のひらでど突かれ、海に落とされる。

 さっきまでの流れはなんだったんだ!?

 言左衛門はサイコパワーをくらって落とされたのか、両手、両足を前に、腰を曲げてふき飛ばされている。



「何すんだ!」

「あなたたちを呼んだのはこのためよ。人魚捕まえてきて」

「はあっ!?」



 船から見下ろす美雪に向かって、大声で怒鳴る。

 美雪は手をしゅばっと上げ、



「人魚はね。男の乳首に吸いつくの。じゃ、頼んだわよ!」

「門平君! 宮本君! ありがと! 絶対に捕まえてね!」



 何かを勘違いしてるであろうリアナが真剣な表情で言う。



「人魚なんているか! 俺たちを船に乗せろ!」

「あはははははははっ!! 捕まえてごらんなさい!!」

「船に追いつけるかぁぁぁぁぁぁっ!」



 狂ったように笑いながら、美雪とリアナを乗せた船が、海に飲まれ消えていく。

 夏のけだるさが一気に消え、瀬戸内海のど真ん中に取り残された恐怖とのゴングが始まった。


*内容をさらにわかりやすくした『映画チャットノベライズ(笑)』のブログもよろしくお願いします。
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