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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

寄生型蛇タイプエイリアン

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 褐色の美女はあっけにとられている。

 迷彩ズボンや武器の扱いからして、宇宙戦艦の兵士である可能性が高い。

 七瀬といい、この褐色女といい、やはりキャラクターは外国人っぽい。

 細くてキツイ目つきしてるし。

 日本のような萌えが存在しない世界なのだからしかたないが、唯一クルミだけは萌え要素があった。

 そこは外国人の開発者もわかってらっしゃる。

 褐色女は歯をくいしばり、ロケット砲を投げ捨て、ハンドガンで私を撃ち続ける。

 弾がパワードスーツの装甲を貫通できるわけがなく、赤い火花を散らして砕け散るだけだった。

『六道さんを見て、クリーチャーだと勘違いしている可能性があります。言葉で訂正してください』
「はっはっはっはっはっ。なんだねその弾は? ヒヨコちゃんのほうがもっと激しく体当たりしてくるぞ?」
『あおってどうするんですか』

 文曲が何か言ってるが、高揚感を抑えきれない。

 褐色美女が撤退し始めた。

 コンテナに上り、ジャンプしてわたっていく。

 無駄だというのに、銃を撃ち続けていた。

「しょうがない。何をしても無駄だと教えてやらねばな!」
『もうあなたがクリーチャーですね』

 文曲が言った瞬間、私は大きくジャンプし、1回で転がっているコンテナたちを乗り越えた。

 褐色美女がこちらを見上げ、ぎょっとした顔つきになっている。

 私に手を出したことを後悔させるために、お説教をしてやらねば!

「それで終わり……うん?」

 着地と同時に、足が何かのレーダーにふれる。

 緑のランプから、赤のランプに変わる映像が見えた。

 褐色美女が私に向かって、指で銃を撃つマネをしたあと、目覚ましのような機械音が鳴った。

 爆発音がしたあと、映像にノイズが走った。

『熱源感知できず。信号をコーディングされていました。レーザー式地雷です』

 罠を見逃してしまった文曲が言う。

「バカが!! あたしをなめんじゃないよ!! 誘導に引っかかりやがって!!」

 褐色女が大声で怒鳴った。

 強力な地雷だったらしく、火炎が船の天井にまで舞い上がっている。

 コンテナが溶解してマグマと化していた。

 モニターのノイズが消えたことを確認し、

「ふむ。ちょっと寒かったのだが、おかげで暖かくなったな」

 私は炎の中をどうどうと歩き、燃え盛る火の海から出ていった。

 褐色美女のよゆうの表情が一変する。

 固まっている。

 パワードスーツから火の粉がなくなり、焦げ一つない体表を見せつけた。

「ばっ……化け物め!」

 褐色女が銃をかまえる。

 私は指をにぎりしめ、

「さてと、お返しをしてあげなければ。文曲。もちろん両足にブースター設置してるよね?」
『もちろん』

 パワードスーツの両足から出るブースターを起動させ、青白い火花を散らせながら、女に向かって拳を突き出す。

 褐色美女は見開いたまま動かない。

 顔面を通りすぎ、後ろにいたクリーチャーの胴体をふき飛ばした。

 遠くの壁にまで飛んでいった敵は、緑の体液を散らして絶命。

「なっ……」

 敵が後ろにせまっていたことに、美女はやっと気づいた。

「ちゃんと背中を警戒したまえ。私のありがたいお説教を聞く前に、死なれては困るだろ?」

 褐色女はへたっと座り込み、

「お前……何者なんだよ?」

 私を見上げて言う。

「私の名前は伝説の……」
『六道久という38歳のオッサンです。パワードスーツがすべてで、これを脱ぐと、老化しつつあるたれた肉体があらわれます。そのお世話をしているAIの文曲といいます』
「もう! やめてよ! せっかくいい名前考えたんだからさっ!」

 文曲がようしゃなく自己紹介するので、ついおネエ言葉で文句言ってしまった。

 美女は口を手でぬぐい、

「なんだ。パワードスーツを着た人間だったのかい? 見た目がグロいから、てっきり怪物かと思ったよ。私の名前はモナカってんだ」
『スーツを脱ぐと、醜い化け物の姿が出てきますので、あなたの言うことはあながち間違っていませんよ』

「うおいっ!」と、文曲に向かって、スーツをしばく。

 これ以上私を侮辱するなら、このスーツを脱いでやらんぞ!

「六道さん!」

 クルミを抱きかかえた、七瀬が汗を飛ばしつつ走ってやってきた。

 私の無事を確かめに来るとは。

 よい心がけだ。

「私は無事だ。だがほれてはいけない。すでに私は性欲を捨てた身……」
「コンテナの中から敵が!」

 七瀬は汗をまき散らし後ろを振り向きつつ、私のほうに向かってくる。

 コンテナの中に?

 外郭が壊れたコンテナから、灰色の蛇のようなものが出てきていた。

 うねうね動いている。

 数は多く、数えきれない。

 モナカの顔つきが青くなり、

「寄生型タイプのエイリアンだ! 生物の穴から体内に入り込むんだ!」
「ケツからもか?」
「そうさ! 入られたら化け物になっちまう!」
「ちなみにこれは興味本位で聞くのだが、男の尿道はどうだね?」
「知るか!!」

 なるほど。怪物と化した金髪女の口が異様にあいてたわけだ。

 エイリアンは細長い身体をのばし、私や七瀬のほうに襲いかかってきた。

『七瀬さん。あの緑のマットの上に立っててください。モナカさんも早く』

 文曲がコンテナ近くに置いてあったマットを指定する。

「あんなひらたいマットにのってどうするんだよ!?」
「まあ落ち着け。あのマットは何かね?」
「絶縁マットだ!」
「なるほど。わかった。死にたくなかったら、早く向かいたまえ」

 モナカはまだ私に言いたいことがあるようだが、敵がすぐ近くまできているので、言葉をつまらせて走っていった。

『さすが六道さん。何をするのかわかっているようですね』
「あたりまえだ。技名も考えておいた。準備したまえ」
『神とかつけるんじゃないでしょうね?』

 右腕のパワードスーツが発射チューブタイプに変形。

 青白い電気がチューブの穴に集中していく。

 蛇型の敵が床をはって、一斉に襲いかかってくる。

「キシャアアアアアアッ!」

 醜い鳴き声だ。

 すべて灰にしてくれる!

『高性能タービン回転完了。充電率100%。いけます』
「ゆくぞ、《雷神》!!」

 右腕の発射チューブをおもいっきり床に打ち込む。

 高圧の青い電気が床をつたい、敵をすべて感電させていく。

 雷が床から立ち上がり、直線上に天井へと昇っていった。

 竜がすべてを焼き尽くし、天へと帰っていくように。

 寄生型のエイリアンは、奇怪な悲鳴を上げたあと、煙を発生させながら全滅した。

『やっぱり「神」つけましたね』

 文曲のせいで、半分気分がそがれてしまった。
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