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淫靡な匂いがシルヴァンの鼻をくすぐる。
「ほら、マーサのここは嫌って言ってないよ。どんどん溢れてる」
「ダメです......あ、っあん」
「素直になったらいいのに、気持ちいいよね?ほら、ぐちょぐちょだよ」
「んっはあっ......駄目、駄目ですう、シルヴァンっ殿下あ......」
「はあ、美味しい......俺のマーサ、ああ、俺の......」
なぜこんなことになったのか。
マーサは必死に声を出さないよう我慢しながら、こうなってしまった原因を脳内で探しはじめた。
ーーー
時を少し遡る。
結婚適齢期をとうに過ぎたマーサは、そろそろ身を固めなければと勤めていた王立学院の教師を退職し、婚活を始めた。
高身長、高学歴、高収入(もう仕事は辞めたが)のマーサは婚活市場で需要が低かった。
特に身長が高いマーサは、小柄な女性がモテるこの国ではモテるとは言いがたい。
なまじ子爵令嬢という肩書きのせいで、親が貴族もしくは商家でなければ嫁にださぬと言う。
一般的な貴族令嬢は十代後半までには婚約者を見つけ、二十二、三までには結婚している。
三ヶ月ほど毎日のように見合いやパーティーに出向くが、全く相手が見つからなかった。
親もマーサもこれは厳しいのでは......と思い始めた頃、王城から家庭教師の依頼があった。
親が婚活に諦めかけていたこともあり、仕事に生きるのもありかと家庭教師を引き受けることとなった。
ーーー
王城の裏口に向かい、用件を伝えると、しばらくして案内係がやってきた。
案内係に付いていくとなんと第四王子のシルヴァン殿下の家庭教師を勤めるということだった。
巷では第二王子のフリード殿下の婚約者決めが盛り上がっているので、婚約者候補といえるご令嬢たちの家庭教師だと予想していたが、まさか王子の家庭教師をさせていただくとは想像もしていなかった。
マーサは恐縮しながら丁重に談話室へ足を進めた。
第四王子シルヴァン殿下は王立学院に通う十八歳。
マーサは教師時代に授業を担当したことがある。
立場ゆえに注目を集める存在であったが、担任ではなかったため深く接したことはない。
このシルヴァン殿下、なんてったって顔がいい。
王子殿下の四人共、見惚れるほど見目が良いが、シルヴァン殿下は神が創造したと言っても過言ではないほど美しい。
女王陛下譲りの白髪に近いブロンドの髪に、宝石のように透き通った碧い瞳。
美しい輪郭と唇。
全てのパーツが完璧に配置されているご尊顔。
あまりにも美しくかっこいい。
眉の動きや瞬き一つで女生徒がうっとりと溜め息をついていたのが懐かしい。
大変に優秀であったことも有名な話なので、特に家庭教師の必要はないとも思うが、色々事情もあるのかもしれない。
シルヴァンが卒業するまでの一年弱、算術や経済学、地理学を中心に担当し、週に二日ほど王城に通うこととなった。
「久しぶりだね、マーサさん」
「シルヴァン殿下、ご無沙汰しております」
「堅苦しいのはいらないよ。ここは学院ではないからね。遠慮なく接して欲しいな」
シルヴァンはにこやかにしているが、そんなことできるかい、とマーサは心の中でツッこむ。
「ありがたいお言葉に甘えさせていただきます。お元気そうでなによりです」
だがマーサは素直に受けとることにする。
ただの家庭教師は肩身がせまい。
「採点が終わりました。この一問だけ間違えておりますよ」
「あれ、満点だと思ったのに」
「考え方は概ね合っています。......ここです。途中式は丁寧に書きましょうね」
「ああ、ここか。途中式めんどくさいんだよね」
「いけません。途中式を省いた結果間違えてしまうのはあるあるですよ」
「わかったよマーサ」
素直に間違いを認め直してくれる点は、立場上も、思春期だとしても難しいだろう。
課題を真面目に取り組む姿勢も素晴らしい。
マーサからみてもシルヴァンは優秀といえる。
地頭が良いというか、賢いというか。
王立学院の成績は宰相の次男に次いで二番を維持しており、実際に勉強をみるとやはり家庭教師の必要性は感じない。
まあ勉強時間を確保するという意味合いが強いかもしれないとマーサは考えていた。
賢くても、勉強しなくては置いていかれるのが王立学院だ。
マーサは第二王子のフリード殿下や第三王子のベルナール殿下がギリギリなんとか卒業できたことを知っている。
王子でも容赦なく評価される。
「マーサの教え方は上手だな、今までの教師の中でもとてもわかりやすいよ」
「恐れ入ります」
「お世辞じゃないからね」
「ふふ、ありがとうございます」
マーサは家庭教師を務めはじめてから一月経つと、少しはくだけた対応ができるようになった。
品行方正なシルヴァンが特に問題が起こすはずもなく、むしろ親しげに接してくれているので緊張はすぐにしなくなった。
「ほら、マーサのここは嫌って言ってないよ。どんどん溢れてる」
「ダメです......あ、っあん」
「素直になったらいいのに、気持ちいいよね?ほら、ぐちょぐちょだよ」
「んっはあっ......駄目、駄目ですう、シルヴァンっ殿下あ......」
「はあ、美味しい......俺のマーサ、ああ、俺の......」
なぜこんなことになったのか。
マーサは必死に声を出さないよう我慢しながら、こうなってしまった原因を脳内で探しはじめた。
ーーー
時を少し遡る。
結婚適齢期をとうに過ぎたマーサは、そろそろ身を固めなければと勤めていた王立学院の教師を退職し、婚活を始めた。
高身長、高学歴、高収入(もう仕事は辞めたが)のマーサは婚活市場で需要が低かった。
特に身長が高いマーサは、小柄な女性がモテるこの国ではモテるとは言いがたい。
なまじ子爵令嬢という肩書きのせいで、親が貴族もしくは商家でなければ嫁にださぬと言う。
一般的な貴族令嬢は十代後半までには婚約者を見つけ、二十二、三までには結婚している。
三ヶ月ほど毎日のように見合いやパーティーに出向くが、全く相手が見つからなかった。
親もマーサもこれは厳しいのでは......と思い始めた頃、王城から家庭教師の依頼があった。
親が婚活に諦めかけていたこともあり、仕事に生きるのもありかと家庭教師を引き受けることとなった。
ーーー
王城の裏口に向かい、用件を伝えると、しばらくして案内係がやってきた。
案内係に付いていくとなんと第四王子のシルヴァン殿下の家庭教師を勤めるということだった。
巷では第二王子のフリード殿下の婚約者決めが盛り上がっているので、婚約者候補といえるご令嬢たちの家庭教師だと予想していたが、まさか王子の家庭教師をさせていただくとは想像もしていなかった。
マーサは恐縮しながら丁重に談話室へ足を進めた。
第四王子シルヴァン殿下は王立学院に通う十八歳。
マーサは教師時代に授業を担当したことがある。
立場ゆえに注目を集める存在であったが、担任ではなかったため深く接したことはない。
このシルヴァン殿下、なんてったって顔がいい。
王子殿下の四人共、見惚れるほど見目が良いが、シルヴァン殿下は神が創造したと言っても過言ではないほど美しい。
女王陛下譲りの白髪に近いブロンドの髪に、宝石のように透き通った碧い瞳。
美しい輪郭と唇。
全てのパーツが完璧に配置されているご尊顔。
あまりにも美しくかっこいい。
眉の動きや瞬き一つで女生徒がうっとりと溜め息をついていたのが懐かしい。
大変に優秀であったことも有名な話なので、特に家庭教師の必要はないとも思うが、色々事情もあるのかもしれない。
シルヴァンが卒業するまでの一年弱、算術や経済学、地理学を中心に担当し、週に二日ほど王城に通うこととなった。
「久しぶりだね、マーサさん」
「シルヴァン殿下、ご無沙汰しております」
「堅苦しいのはいらないよ。ここは学院ではないからね。遠慮なく接して欲しいな」
シルヴァンはにこやかにしているが、そんなことできるかい、とマーサは心の中でツッこむ。
「ありがたいお言葉に甘えさせていただきます。お元気そうでなによりです」
だがマーサは素直に受けとることにする。
ただの家庭教師は肩身がせまい。
「採点が終わりました。この一問だけ間違えておりますよ」
「あれ、満点だと思ったのに」
「考え方は概ね合っています。......ここです。途中式は丁寧に書きましょうね」
「ああ、ここか。途中式めんどくさいんだよね」
「いけません。途中式を省いた結果間違えてしまうのはあるあるですよ」
「わかったよマーサ」
素直に間違いを認め直してくれる点は、立場上も、思春期だとしても難しいだろう。
課題を真面目に取り組む姿勢も素晴らしい。
マーサからみてもシルヴァンは優秀といえる。
地頭が良いというか、賢いというか。
王立学院の成績は宰相の次男に次いで二番を維持しており、実際に勉強をみるとやはり家庭教師の必要性は感じない。
まあ勉強時間を確保するという意味合いが強いかもしれないとマーサは考えていた。
賢くても、勉強しなくては置いていかれるのが王立学院だ。
マーサは第二王子のフリード殿下や第三王子のベルナール殿下がギリギリなんとか卒業できたことを知っている。
王子でも容赦なく評価される。
「マーサの教え方は上手だな、今までの教師の中でもとてもわかりやすいよ」
「恐れ入ります」
「お世辞じゃないからね」
「ふふ、ありがとうございます」
マーサは家庭教師を務めはじめてから一月経つと、少しはくだけた対応ができるようになった。
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