婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ

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マーケットに到着するといつものように賑わっていた。
城下町のマーケットには新鮮な野菜や果物、また地方から運ばれた珍しい食材が並び、軽食を売るテントも数多く並んでいる。

「マーサはマーケットでよく買い物してると聞いたけど?」
「そうですね、週に一度は来ます」
「何か好きな物はあるの」
「果物を買うことが多いですねえ、夏だとドァバとか」
「ドァバって、あの黄色の中に黒と白の粒が入ってるもの?」

シルヴァンの口ぶりにマーサが察する。

「そうですよ、殿下はお嫌いですか?」
「......恥ずかしい話、小さい頃に、読んだ絵本に似たようなモンスターがいてね。食わず嫌いなんだよね」
「ふふ、なんでもお召しになると思っていたので意外です」
「子供っぽいと思っていないかい?」
「誰しも苦手な物はありますからね」
「ありがとう。絵画といいドァバといい苦手な物ばかりと思われていないか心配だよ」
「私も苦手なものはありますし......あ、噂をすればドァバが」

「お一ついかがですか!ここで食べることもできますよ」

売り子の男性が手のひらサイズのドァバを篭から一つ持ち上げる。

「......マーサは好きなんだよね?」
「ええ」
「一つ頂こう」

喜んでえ!と大きな声で返事をする男性が手際良くさくさくと格子状に切る。
護衛が皮にのったドァバを受け取り、果実を一つ食べると問題がないようでシルヴァンに手渡す。
シルヴァンが楊枝に刺されたドァバをマーサの口元に運ぶ。

「えっと」
「マーサ」

シルヴァンの圧に負けてパクリと咥える。甘酸っぱさが口内に広がる。

「おいひいです......殿下もいかがですか?」

マーサは果実を飲み込むと、もうひとつの楊枝を持ち上げる。

「マーサが食べさせて」

マーサは楊枝ごと渡すつもりだったが、シルヴァンは言ったそばから楊枝を持ったマーサの手を包み込み自分の口へ運んだ。
恋人のような振る舞いにドギマギするマーサだが、シルヴァンが平然としているので口ごもる。

「......美味しい。マーサのおかげで苦手なものが一つ無くなったよ」
「ふふふ、お力になれて光栄です」
「マーサとこうやって食事を共にする時間が一番幸せだ」

心からそう思っているかのような笑みにマーサは釘付けになる。
シルヴァンにそんなことを言われると簡単に喜んでしまう。
シルヴァンからすると、なんてことない軽口だろうけど、言われた側は大打撃である。
それはそれは簡単にうっかり好きになってしまいそうだ。
マーサは勘違い女にならないよう葛藤していた。


そこから長期休暇いっぱい、ほぼ毎日のようにマーサは登城し、シルヴァンと図書館に通ったり、シルヴァンの自室に籠り資料を見比べながらあれやこれやと議論し調査内容をまとめた。
昼食を共にすることも多く、ほぼ一緒に過ごしていた。
マーサは知的好奇心が刺激され(お腹も満たされ)、教師ながら楽しんでしまっていた。
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