4 / 15
4
しおりを挟む
マーケットに到着するといつものように賑わっていた。
城下町のマーケットには新鮮な野菜や果物、また地方から運ばれた珍しい食材が並び、軽食を売るテントも数多く並んでいる。
「マーサはマーケットでよく買い物してると聞いたけど?」
「そうですね、週に一度は来ます」
「何か好きな物はあるの」
「果物を買うことが多いですねえ、夏だとドァバとか」
「ドァバって、あの黄色の中に黒と白の粒が入ってるもの?」
シルヴァンの口ぶりにマーサが察する。
「そうですよ、殿下はお嫌いですか?」
「......恥ずかしい話、小さい頃に、読んだ絵本に似たようなモンスターがいてね。食わず嫌いなんだよね」
「ふふ、なんでもお召しになると思っていたので意外です」
「子供っぽいと思っていないかい?」
「誰しも苦手な物はありますからね」
「ありがとう。絵画といいドァバといい苦手な物ばかりと思われていないか心配だよ」
「私も苦手なものはありますし......あ、噂をすればドァバが」
「お一ついかがですか!ここで食べることもできますよ」
売り子の男性が手のひらサイズのドァバを篭から一つ持ち上げる。
「......マーサは好きなんだよね?」
「ええ」
「一つ頂こう」
喜んでえ!と大きな声で返事をする男性が手際良くさくさくと格子状に切る。
護衛が皮にのったドァバを受け取り、果実を一つ食べると問題がないようでシルヴァンに手渡す。
シルヴァンが楊枝に刺されたドァバをマーサの口元に運ぶ。
「えっと」
「マーサ」
シルヴァンの圧に負けてパクリと咥える。甘酸っぱさが口内に広がる。
「おいひいです......殿下もいかがですか?」
マーサは果実を飲み込むと、もうひとつの楊枝を持ち上げる。
「マーサが食べさせて」
マーサは楊枝ごと渡すつもりだったが、シルヴァンは言ったそばから楊枝を持ったマーサの手を包み込み自分の口へ運んだ。
恋人のような振る舞いにドギマギするマーサだが、シルヴァンが平然としているので口ごもる。
「......美味しい。マーサのおかげで苦手なものが一つ無くなったよ」
「ふふふ、お力になれて光栄です」
「マーサとこうやって食事を共にする時間が一番幸せだ」
心からそう思っているかのような笑みにマーサは釘付けになる。
シルヴァンにそんなことを言われると簡単に喜んでしまう。
シルヴァンからすると、なんてことない軽口だろうけど、言われた側は大打撃である。
それはそれは簡単にうっかり好きになってしまいそうだ。
マーサは勘違い女にならないよう葛藤していた。
そこから長期休暇いっぱい、ほぼ毎日のようにマーサは登城し、シルヴァンと図書館に通ったり、シルヴァンの自室に籠り資料を見比べながらあれやこれやと議論し調査内容をまとめた。
昼食を共にすることも多く、ほぼ一緒に過ごしていた。
マーサは知的好奇心が刺激され(お腹も満たされ)、教師ながら楽しんでしまっていた。
城下町のマーケットには新鮮な野菜や果物、また地方から運ばれた珍しい食材が並び、軽食を売るテントも数多く並んでいる。
「マーサはマーケットでよく買い物してると聞いたけど?」
「そうですね、週に一度は来ます」
「何か好きな物はあるの」
「果物を買うことが多いですねえ、夏だとドァバとか」
「ドァバって、あの黄色の中に黒と白の粒が入ってるもの?」
シルヴァンの口ぶりにマーサが察する。
「そうですよ、殿下はお嫌いですか?」
「......恥ずかしい話、小さい頃に、読んだ絵本に似たようなモンスターがいてね。食わず嫌いなんだよね」
「ふふ、なんでもお召しになると思っていたので意外です」
「子供っぽいと思っていないかい?」
「誰しも苦手な物はありますからね」
「ありがとう。絵画といいドァバといい苦手な物ばかりと思われていないか心配だよ」
「私も苦手なものはありますし......あ、噂をすればドァバが」
「お一ついかがですか!ここで食べることもできますよ」
売り子の男性が手のひらサイズのドァバを篭から一つ持ち上げる。
「......マーサは好きなんだよね?」
「ええ」
「一つ頂こう」
喜んでえ!と大きな声で返事をする男性が手際良くさくさくと格子状に切る。
護衛が皮にのったドァバを受け取り、果実を一つ食べると問題がないようでシルヴァンに手渡す。
シルヴァンが楊枝に刺されたドァバをマーサの口元に運ぶ。
「えっと」
「マーサ」
シルヴァンの圧に負けてパクリと咥える。甘酸っぱさが口内に広がる。
「おいひいです......殿下もいかがですか?」
マーサは果実を飲み込むと、もうひとつの楊枝を持ち上げる。
「マーサが食べさせて」
マーサは楊枝ごと渡すつもりだったが、シルヴァンは言ったそばから楊枝を持ったマーサの手を包み込み自分の口へ運んだ。
恋人のような振る舞いにドギマギするマーサだが、シルヴァンが平然としているので口ごもる。
「......美味しい。マーサのおかげで苦手なものが一つ無くなったよ」
「ふふふ、お力になれて光栄です」
「マーサとこうやって食事を共にする時間が一番幸せだ」
心からそう思っているかのような笑みにマーサは釘付けになる。
シルヴァンにそんなことを言われると簡単に喜んでしまう。
シルヴァンからすると、なんてことない軽口だろうけど、言われた側は大打撃である。
それはそれは簡単にうっかり好きになってしまいそうだ。
マーサは勘違い女にならないよう葛藤していた。
そこから長期休暇いっぱい、ほぼ毎日のようにマーサは登城し、シルヴァンと図書館に通ったり、シルヴァンの自室に籠り資料を見比べながらあれやこれやと議論し調査内容をまとめた。
昼食を共にすることも多く、ほぼ一緒に過ごしていた。
マーサは知的好奇心が刺激され(お腹も満たされ)、教師ながら楽しんでしまっていた。
234
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
買われた平民娘は公爵様の甘い檻に囚われる
りつ
恋愛
セシリアの父親は貴族で母親はメイドだった。二人は駆け落ちしてセシリアを田舎で育てていたが、セシリアが幼い頃に流行り病で亡くなってしまう。
その後、叔母家族のもとでセシリアは暮らしていたが、ある日父の兄だという男性――伯爵が現れる。彼は攫うようにセシリアを王都へ連れて行き、自分の娘の代わりにハーフォード公爵家のクライヴと結婚するよう命じる。
逆らうことができずクライヴと結婚したセシリアだが、貴族であるクライヴは何を考えている全くわからず、徐々に孤独に苛まれていく。
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい
なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。
※誤字脱字等ご了承ください
真面目な王子様と私の話
谷絵 ちぐり
恋愛
婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。
小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。
真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。
※Rシーンはあっさりです。
※別サイトにも掲載しています。
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる