追っかけメイドはイケおじ騎士団長とチョメチョメしたい!

春浦ディスコ

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第2話


 転機が訪れる。エマはその日も張り切って掃除を終わらせた。同僚の皆が嫌がる騎士団の宿舎の便所もピカピカに磨きあげた。
 すっきりした気持ちでメイドの更衣室兼、待機場に戻ると、メイド長が掲示板に張り紙を貼っていた。

「どうしたのですか?」

 メイド長に話しかけると、メイド長がちょうど良かったとエマに話し掛けた。

「新人騎士の遠征に付いていくメイドの募集よ」
「毎年行う遠征ですか?」
「そうよ」

 騎士団は魔獣退治に各地に遠征に行く。年度始めは新人の演習を兼ねているらしく、新人騎士を多く連れて行く。

「騎士団の宿舎をいつも担当してくれるあなたにどうかしらと思って。騎士団に好きな人がいるのでしょ?」

 メイド長は好きな人のためにいつも宿舎の掃除をしていると思っているようだ。あながち間違いでもない。

「いえいえ、好きな人だなんて、えへへ」

 ただ憧れているだけである。庶民の自分が騎士団長相手に好きだなんて、烏滸おこがましすぎて笑ってしまう。

「演習といっても、小型魔獣の退治が目的だから……あまり参加するメイドはいないと思うのよ」

 確かに王都の出身のメイドは魔獣など出現する場所に行きたくないだろう。
 今年はどこに遠征に行くのだろうとエマが張り紙を読むと、行先:セイグル地方、特別手当有り、と記載されている。セイグル地方はエマの出身地である。この地域には森林地帯があり、そこが魔獣の住処となっている。なんという偶然だろう。里帰りが出来て、第三騎士団のお世話が出来て、特別手当が貰える。良いことづくめではないか。これほど幸せな仕事はないだろう。

「今年は第三の団長様が参加するみたいだからメイドの募集依頼があったのだと思うわ。あなたに行ってもらえると助かるのだけど……」

「はいっ!参加します!」

「あらそう?助かるわ。一人でも参加しないとさすがに王宮メイドとして面目がないから」
「精一杯、働いてきますっ」
「いつも助かるわぁ」

 メイド長がほっと胸を撫で下ろす隣で、エマが期待に胸を膨らませる。

(団長様とお近づきになれちゃうかもしれないってこと……?!)

 都合のいい妄想にむふふと顔がにやける。何かと連携を取ることもあるだろうし、ジルベルトと話が出来ることもあるだろう。それに休みがあれば地元の友人と会えるかもしれない。

(そうだ!友人達に手紙を送ろうっと)

 タイミングが合えばもしかしたらジルベルトについての相談も出来るかもしれない。

 着替えようとロッカーを開けると、メイド仲間達が近寄ってきた。

「エマ、昇級試験受かったんでしょう?おめでとう!」
「ありがとう!」
「上級メイドになったんでしょう?すごいわ」

 えへへとエマが照れる。

「エマ、上級メイドになったのに、あの遠征の仕事に応募するの?」

 上級メイドになると、王宮内の要人の部屋の掃除を担当することができる。失敗は許されないが騎士団の宿舎掃除や、洗濯係と比べると、随分と肉体労働としては楽になる。

「うん、もうメイド長に言ったよ」
「大きい声で言えないけど、怖くない?」
「んー、実は地元でさ、意外に森林地帯から出てこないから、わざわざ近寄らなければ安全だよ?」
「そんなものなの?」

 王都のメイド達には理解ができないかもしれない。メイド仲間が好き好きに話し出す。

「第三騎士団って、格好良いの団長と副団長だけじゃない?」
「私、副団長のほうが好きかなーキリッとした感じで」
「私は団長派かな、あの穏やかそうな感じがいいじゃん」

 エマはわかるわかると、大きく頷く。

「みんなそれなら宿舎の掃除来たらいいのに。団長様達が見れるよ?」
「それはない!」

 口を揃えるメイド仲間達にたじろぐ。

「エマ、見れるだけで頑張れるのはあんただけよ!マトモに会話できるでもないし、びっくりするくらい汚いし」
「そうよ、エマ!不毛だから、団長に憧れるのもわかるけどさっさと出会いを見つけなさい!」

 同僚達の発言は、その通りで言い返す余地もない。ジルベルトに憧れ続けても進展があるはずがないのだ。
 エマはまだ誰とも付き合ったことがなく、加えて驚くほど出会いもなく、メイド仲間達がそういうのも理解ができる。しかし、きっと自分は憧れ続けるんだろうなあと、半ば諦めのような心境であった。

ーーー

 蓋を空けると、遠征に参加する王宮メイドはエマただ一人だけだった。
 想像以上に遠征の仕事は人気がなかった。メイド長が同僚達に掛け合っていたようだが首を縦に振ることはなかったようだ。足りないメイドは現地の詰所経由で募集して二人来てくれることになっているそうだ。仕事内容はメイド長から聞いているため、分担して上手く回せるといいが。
 馬車寄せに今回参加する騎士達が集まってくると、最後にジルベルトも現れた。

(今日から二週間ほど、毎日団長様を眺められるってこと?)

 あまりの幸せに今年、いや来年の分の幸せも使ってしまったかもしれない。
 少し離れた場所から騎士達がチラチラとエマを見てくるが話しかけて来る者はおらず、そわそわとしている。なんとも気まずい。

(皆、童貞なのかな?)

 わざわざこちらから近寄って話しかける理由もないため大人しく待つ。参加するメイドはエマだけということで女性も一人だけだ。最後にやってきた団長は補佐官といくつか言葉を交わすと、エマの姿を確認するように頷くと、無事に出発となった。

(きゃー!視界に入っちゃった!)

 まだ出発したばかりだが、この遠征に参加して心から良かったと、神に感謝したい気分だ。

 荷馬車に乗せてもらうと、馬車に揺られて遠征場所へ向かう。うとうととしていると、馬車の外から楽しげな声が聞こえてくる。

「セイグル地方の女って、大胆らしいぜ」
「まじかよ、最高じゃん」

 ここにもセイグル出身の女がいますよ、と思いつつエマは話しかけたりはせずに聞き耳を立てた。

「王都の女はやらせてくんないからなー」
「お前最低かよ」

 あははと盛り上がる騎士達は、エマの存在を忘れているのかもしれないし、別に聞かれてもいいと思っているのかもしれない。
 騎士達が話しているように王都の女性は性に控えめである。地方に比べて裕福な家が多く、蝶よ花よと育てられた娘たちは、結婚式という大切な日に初めて体を重ねることに夢を見ている女性が多い。結婚するまでは清いままで、という昔からの王都の風習も根強く残っている。

 セイグル地方出身のエマは、王都の女性とは全く違い、男女の睦事に興味ありまくりである。セイグル地方は昔からお盛んである。近くに広大な森林があり、昔から魔獣がそこを住処にしている。なぜか森林からあまりでてくることはないため基本的に平和だが、昔から定期的に自警団や騎士団が魔獣の数を減らすために討伐隊を組んでいたりする。魔獣退治の後は高揚するらしく、騎士団の性処理をするために娼館や安宿が多いことと、その他に娯楽がないことがお盛んな理由の一つとなっている。

 エマは十六歳の時に王都に上ってきたが、その時には周りの友人はみな経験者だった。あけすけな話を聞く度に、いいなあ、私もしてみたいと妄想を膨らませた。友人達が羨ましくて仕方がなかったが驚くほどにモテなかったため、機会がなかった。王都に来て就職をする際に貴族の御屋敷のメイドは断られてしまったが、門戸が広い王宮のメイドに就職が出来てからは、全く出会いがなくいまだ清廉潔白の身である。

(はぁ、団長と一回だけでもできたら最高なのにな!)

 ガタン、ゴト、と馬車が揺られる。その間中、騎士達の雑談(ほとんど猥談だった)に耳を傾けるエマであった。
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