月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

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第一部

第十一話 詐欺師の楽園(8)

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「断っとくけど。ボクはキミと共闘しているわけじゃないからね。あいつの手にルナを渡しちゃいけないから、仕方なくやっただけの話だ」

 大蟻喰は無表情だった。

「ルナとお前は……」

 と言いかけてズデンカは口を噤んだ。

 青い顔でぼんやりしているルナが訊いているかも知れないからだ。

「なんだよ言い止《さ》して。気持ち悪いやつだな」

 大蟻喰は初めて笑った。

「お前ほどじゃねえよ」

 ズデンカは吐き捨てた。同時にルナの顔を見る。

 ハウザーの顔を見ただけで、ルナは震えが止まらなくなった。まだ青白く、項垂れたままだ。

 ルナが少しでも苦しんでいるなら、肩代わりしたい。ズデンカは次第にそう思うようになっていた。

 今まで押し隠していたルナの過去を知りたいという気持ちが急激に強くなってくる。

「過去を知りたいんだろ、前も言っていたよね」

 その気持ちに押し被せるように、大蟻喰は訊いてきた。

「知っても知らなくても変わりない。ルナはルナであたしはあたしだ!」

 ズデンカは自分の望みを絶つかのように叫んだ。

「でも、相手の過去を知ることでそいつを深く理解できるってことはあるよ。ボクの場合、喰ったらいいだけだけど」

 と言って懐から肉を取り出した。

「お前は知ってるんだろう」

「知ってる。でも、キミにそれを話したいかは別だ。二人だけの秘密って言っただろ?」

「訊くとしてもあたしはルナから直接訊きたいんだ」

「知りたいなら、話すよ」

 ルナだった。

 ズデンカと大蟻喰は振り返った。

「ルナ……大丈夫なのか?」

「うん。怯えてばかりもいられないからね」

 ルナは苦く微笑みながらパイプを取り出して口に咥えた。

「ああ。こうしてると落ち着く」

「なら、ずっとやっとけ」

 とりあえず休める場所を確保しなければならない。ズデンカと大蟻喰はいっせーのーで、ルナを担ぎながら少し小高い山に登って、中腹あたりで焚き火をすることにした。

 枯れ木を並べ、ルナのライターで火が点される。

「敵にとったら目印になっちゃうかもね」

 大蟻喰は言った。

「仕方がねえ、あたしらは大丈夫だが。ルナが凍え死にそうだ」

「えー、ボクも死んじゃいそうだよ」

 大蟻喰はクスクス笑った。

 ズデンカは無視して用意を進めた。

「キミは寂しいだろうなあ。自分の身体じゃ暖められないからねえ」

 大蟻喰は丸太の上に寝っ転がって言った。

「そりゃ死んでるしな」

 ズデンカは表情を隠しながら言った。

「死後の生をルナの世話で送って虚しくならないの?」

「……」

 ズデンカは答えなかった。

 ルナは微笑みを浮かべて パイプを咥えたまま黙っていた。

「どこから話したらいいかな?」

 ルナはいつも以上に優しかった。

「お前と大蟻喰についてだ。他は良い」

「わかった。手短にするね」

「何だよ! ボクの目の前で!」

 大蟻喰が子供っぽく喚いた。

「目の前だからこそいいじゃないか。これは言ってみれば、わたしの綺譚《おはなし》なんだから」

 ルナは初めて朗らかに言った。いつも使っている手帳を取り出し、ページを開く。

「むう」

 大蟻喰はぷくーと頬を膨らませた。

「わたしはね、昔、双子だったんだよ」

 ルナは話し始めた。
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