上 下
130 / 342
第一部

第十三話  調高矣洋絃一曲(5)

しおりを挟む
 ガルシアは表向きはラサロの死を悲しむようだったけどぉ、眼の端で部屋の中を探っていた様子だったよぉ。

 あたしは眼が合っても怯まなかったよぉ。ここで何か覚られたらすぐに殺されちゃう。

「一体これからどうすればいいの……」

 気弱な風に聞いてみることにした。

「とりあえず、お前らは家の中にいろ。集団で来られたら、とてもじゃないがカヤネズミに太刀打ち出来ない」

 とガルシアは言いながらぁ、

「俺も死にものぐるいで逃げ帰ってきたんだ」

 と付け足した。それがとても胡散臭く感じられたけどねぇ。

「村の連中に伝えてくる、だから、な」

 あたしは怯えるふり、いんやぁ、ほんとに怯えていたけどぉ、兄殺しの犯人だって知んないような素振りで頷いたんだよぉ。

 ガルシアは他の兄弟に話しかけて、しばらくしたら部屋の外へ出ていったよぉ。

 あたしはこっそり尾けてったよぉ。家に戻るのかなって思ったら逆の方向だったさぁ。

 思わずガルシアの家に走り出していたよぉ。もちろん夜道を照らす灯りは持っていたけどぉ。

 家族はみんなラサロの死で気が動転してて、とても、あたしのことまで構ってらんなかったんだぁ。

 ラサロは一軒家に暮らしてて洞窟は掘っていなかったよぉ。アカネズミだから習性の違いもあるかも知れないけどぉ、中に入ってみて理由が分かったんだぁ。

 床や机には手紙や本が散らばっていたんだぁ。灯りを頼りに読んでみたよぉ。タイトルは『鼠流』がなんだとか。その考えが何なのかは今でもよく知らないんだけどぉ、なんかやばいってすぐにピンときたよぉ。手紙はカヤネズミの連中から来たもんだったさぁ。

 ほとんど忘れたけどぉ、一行だけは良く覚えてるよぉ。忘れられるわけがないよぉ。

「俺たちが篝火を上げた時に、後ろからラサを刺せ」

 ガルシアはその通りにしたんだぁね。しかも何回も何回も強く。

 とっても強い殺意だったんだろうさぁ。まさかラサロも腹心のガルシアにこんなに恨まれてるとは思わなかっただろうねぇ。

 さぁ? 元から恨んでいたのか、カヤネズミ連中に同調してなのかぁ、それは今となっては分からないよぉ。

 あたしは初めて泣けてきたよ。独りだし、いつガルシアが戻ってくるかもよく分からなかったからだけどぉ。

 でも、ずっと留まっている訳にはいかないからねぇ。

 あたしは家へ引き返したよ。

 したらパブロが出迎えてくれたんだぁよ。よぼよぼしていて杖を頼りに歩いてたけど、眼はしっかりとあたしを見据えてたさぁ。さすがに父親だぁねぇ。

「どこへ行ってきたんだ」

 あたしは口ごもったよ。

「……」

 パブロは穏やかに黒い目を輝かせるだけだったぁ。

「ガルシアんとこさぁ……」
「ガルシア、ね。なぜだい、うちの一大事だって言うのに……」

 あたしはなかなか答えられなかったぁ。だって、兄を殺した相手が何度もこの家に来たことのあるガルシアだなんてぇいえないもん。あたしの姉ちゃんを嫁にって話しまで出てたほどだからねぇ。頭から否定されたらどうしようかってなるもんねぇ。
 でも、思いきって話すことにしたんだぁよ。

「そうか……」

 パブロは静かに顔を伏せた。

「うちの家には掟があってな……」

 そして、あたしの耳元へ顔を寄せた。

「復讐だ。血は血であがなわなければならん」

 穏やかなお爺ちゃんが、んなことを言い出すなんてとても思えなかったぁよ。
しおりを挟む

処理中です...