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第一部
第三十六話 闇の絵巻(7)
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「やつらは無事に辿り付けるのか?」
ズデンカの主な疑問はそこだった。
アララト山はそれほど遠いのだ。
「最悪アララトには行けなくてもいい。似た場所で集会は開かれるってさっきいっただろ? そこへ連れて貰えれば大丈夫さ」
「それは願いを叶えたことになるのか?」
煙を吹かすルナの眉がグッと釣り上がった。
これは怒ったぞ、とズデンカは思った。
「あいつはアララト山に行きたかったんだ。別の場所に連れていかれたとしたら、願いを叶えたことにはならんだろう。ただでさえ、お前は今回何もしてないんだぞ」
ズデンカの返答は実に理詰めで、まことにもっともなものだ。
ルナはしばらく言葉に詰まったようにズデンカを見詰めていたが、
「そうだよ……うん、そうだよ! わたしは願いを叶えられてないよ! 何もしてないよ! 二度も、三度も! だって難しすぎる! むきー!」
とぴょんぴょん跳ねながら叫び始めた。
「あんまり騒ぐと火の子が飛び散って福が燃えるぞ」
ズデンカは静かに注意した。
「でも、そういえば、思い出した! 各地の山にはアララトに通じる幻の隧道《トンネル》が存在するんだよ」
「幻の隧道、ねえ」
ズデンカは眉唾だった。
「インゲボルグさんならきっとそこに辿り付けるはずさ!」
「それをあたしらは知る術はないけどな」
ルナの顔がまた曇った。
何か言いたそうに足踏みしている。
「おい、ズデ公、ルナを苛めるな!」
屋根の方で大蟻喰の声が聞こえるが、ズデンカは無視した。
「さ、十分吸えたか? 席に戻ろうぜ、ちゃんと消せよ」
間近でルナが吐き続ける煙が鬱陶しくなってきたズデンカは命令した。
「はーい」
ルナはしょぼくれながら火を吹き消し、先へ歩き出すズデンカに従った。
「おーい待てよぉ!」
窓の外で吠える大蟻喰の声が聞こえるが、ズデンカは振り向かなかった。
「待たせたな」
とズデンカは部屋の扉を開けると、カミーユは座席で独り座って本を読んでいた。
「おっそーい。もう一冊読んじゃってましたよ!」
カミーユは勢いよく立ち上がる。
「すまん。実は知り合いと車内であって、ながながと話しててな」
ズデンカは誤魔化した。
ルナはしょぼんとして座席に腰掛けた。
ズデンカも倣う。
「で、インゲボルグ! どうだったんですか? 小説の元になった、本当の話を聞けたりしたんですか?」
カミーユは誤魔化されない。
「しばらく見てたらすぐに消えた。話なんか出来もしなかったぞ」
ズデンカは嘘を吐いた。
「へー、ホントなのかなー! 怪しいな!」
カミーユは身を乗り出した。
「本当だ」
ズデンカはその勢いに呑まれた。
「わたしも証言するよ。本当だ」
ルナが項垂れながら言った。
――夢は夢のままにしておく、か。言ったことは守ったわけだ。
ズデンカは内心苦笑していた。だが、ルナの助け船には感謝した。
「うーん、二人とも言うならそうなのかぁ。残念ですね。追いかけたいと思ったんだけど、二冊目も面白くて! この人本当に天性のストーリーテラーですよ」
と同じ作者の『時計台の下で』を差し出した。
「内容聞きたいですか?」
「遠慮する」
ズデンカは言った。もうまた現実に現れたらと思うとこりごりだったのだ。
「妄想力が強いってのは作家には必要な能力なのかも」
ルナがぽつりと漏らした。
「え? どういうことです?」
即座にカミーユが嗅ぎつけた。
ズデンカの主な疑問はそこだった。
アララト山はそれほど遠いのだ。
「最悪アララトには行けなくてもいい。似た場所で集会は開かれるってさっきいっただろ? そこへ連れて貰えれば大丈夫さ」
「それは願いを叶えたことになるのか?」
煙を吹かすルナの眉がグッと釣り上がった。
これは怒ったぞ、とズデンカは思った。
「あいつはアララト山に行きたかったんだ。別の場所に連れていかれたとしたら、願いを叶えたことにはならんだろう。ただでさえ、お前は今回何もしてないんだぞ」
ズデンカの返答は実に理詰めで、まことにもっともなものだ。
ルナはしばらく言葉に詰まったようにズデンカを見詰めていたが、
「そうだよ……うん、そうだよ! わたしは願いを叶えられてないよ! 何もしてないよ! 二度も、三度も! だって難しすぎる! むきー!」
とぴょんぴょん跳ねながら叫び始めた。
「あんまり騒ぐと火の子が飛び散って福が燃えるぞ」
ズデンカは静かに注意した。
「でも、そういえば、思い出した! 各地の山にはアララトに通じる幻の隧道《トンネル》が存在するんだよ」
「幻の隧道、ねえ」
ズデンカは眉唾だった。
「インゲボルグさんならきっとそこに辿り付けるはずさ!」
「それをあたしらは知る術はないけどな」
ルナの顔がまた曇った。
何か言いたそうに足踏みしている。
「おい、ズデ公、ルナを苛めるな!」
屋根の方で大蟻喰の声が聞こえるが、ズデンカは無視した。
「さ、十分吸えたか? 席に戻ろうぜ、ちゃんと消せよ」
間近でルナが吐き続ける煙が鬱陶しくなってきたズデンカは命令した。
「はーい」
ルナはしょぼくれながら火を吹き消し、先へ歩き出すズデンカに従った。
「おーい待てよぉ!」
窓の外で吠える大蟻喰の声が聞こえるが、ズデンカは振り向かなかった。
「待たせたな」
とズデンカは部屋の扉を開けると、カミーユは座席で独り座って本を読んでいた。
「おっそーい。もう一冊読んじゃってましたよ!」
カミーユは勢いよく立ち上がる。
「すまん。実は知り合いと車内であって、ながながと話しててな」
ズデンカは誤魔化した。
ルナはしょぼんとして座席に腰掛けた。
ズデンカも倣う。
「で、インゲボルグ! どうだったんですか? 小説の元になった、本当の話を聞けたりしたんですか?」
カミーユは誤魔化されない。
「しばらく見てたらすぐに消えた。話なんか出来もしなかったぞ」
ズデンカは嘘を吐いた。
「へー、ホントなのかなー! 怪しいな!」
カミーユは身を乗り出した。
「本当だ」
ズデンカはその勢いに呑まれた。
「わたしも証言するよ。本当だ」
ルナが項垂れながら言った。
――夢は夢のままにしておく、か。言ったことは守ったわけだ。
ズデンカは内心苦笑していた。だが、ルナの助け船には感謝した。
「うーん、二人とも言うならそうなのかぁ。残念ですね。追いかけたいと思ったんだけど、二冊目も面白くて! この人本当に天性のストーリーテラーですよ」
と同じ作者の『時計台の下で』を差し出した。
「内容聞きたいですか?」
「遠慮する」
ズデンカは言った。もうまた現実に現れたらと思うとこりごりだったのだ。
「妄想力が強いってのは作家には必要な能力なのかも」
ルナがぽつりと漏らした。
「え? どういうことです?」
即座にカミーユが嗅ぎつけた。
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