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第一部
第四十話 仮面の孔(4)
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「ようし。いい心がけじゃねえか」
そう言って黙って相手を見詰める。
「まあまあ、トゲトゲ言葉は使わない使わない」
チキンを胃の腑の奥に全て送り込んだルナがほんわかと言った。
「あたしは態度をハッキリさせない奴が好きじゃないだけだ」
だが、そう言った後でまた事態をややこしくさせそうなセリフだと気付いた。
アグニシュカはこちらを恨めしそうに眺めてきている。
――あちゃあ。
心の底から怒っている訳ではないズデンカは参った。
「まあまあ、ウチのメイドは誰に対してもこんなやつでしてね」
ルナは気安く声を掛ける。
だが、アグニシュカはそもそもルナ自体を警戒しているらしい。
一応、知名度はあるのだが、ルナの著書の翻訳はまだヴィトカツイで進んでいないこともあって、知らなかったのだろう。
いや、知られているとしても警戒されないとは限らないし、本を読まない人種だってこの世の中にいるので、必ずしもそうとは言えないのだが。
話が上手いエルヴィラの恋人にしてはずいぶんと頑なに思えた。
「あれあれ、ご機嫌斜めかぁ……むしゃむしゃ」
ルナはそう言ってチキンに添えられてあったポテトを囓り始めた。
ズデンカはことごとく自分が円滑なコミュニケーションに向いていないことを思いしらされた。
「そっ、そうだぁ! アグニシュカさん。きっと疲れてるんですよ。きっ、緊張状態で長い旅路をしてこられたんです!」
冷や汗を流しながらスープを啜っていたカミーユが急に吃《ども》りながら声を荒げた。
「そうですね。少し、疲れたようです。私も苛立っていました」
反撥するかと思いきや、アグニシュカは素直に認めた。
「宿屋とか探して一休みされた方が良いですよ」
アグニシュカは自分の前に置かれたプレートに乗ったブラッドソーセージには手を付けずに立ち上がった。
「私も一緒に探しますね。このあたりの地理や言葉はちょっとわからないですけど!」
カミーユも急いで立ち上がり、歩き出した。
「ここらへんはヴィトカツイに近い地域なので土地勘もありますし、言葉もわかります」
アグニシュカは律儀に応じていた。
二人は店の外へ出ていった。
「良いのか? あいつらをそのままにして置いて」
ズデンカは焦った。
「良いのさ」
ルナは相変わらずだ。
「アグニシュカはいつもあんな感じなのか?」
ズデンカはエルヴィラに向き直って訊いた。
「私の前では笑ってくれますし、落ち着いているんですが、今はちょっと……何しろ、これまであまり多くの人と話すような生活じゃなかったものですから。私の場合各地の社交界で多くの人と話さなければならなかったので、自然と鍛えられましたが、あの娘は城の周りと、父親、私ぐらいで……」
「じゃあそのままにしておいたらまずいじゃねえか」
ズデンカは二人の後を追おうとした。
「いえ、エルヴィラは城に来る前、このあたりで暮らしていたことがあるんです。その点については大丈夫かと思います」
エルヴィラは丁寧に付け加えた。
「そうか、なら……ってルナ、どこへ行く!」
完全に食べ終わったルナが立ち上がって、店の奥の方へと歩き出していた。
ズデンカは床板を踏みならしながら、ずかずかとそこへ突進していった。
ルナは部屋の壁を前にして、注意深く眺めている。
「何を見てるんだ?」
ズデンカは訊いた。
「仮面さ」
ルナは答えた。
瞬時にズデンカは身構える。壁には不気味な表情を仮面が設置されていた。
赤ら顔で、鼻は異様に大きく、眼の部分に大きな孔《あな》が二つ開いている。
そう言って黙って相手を見詰める。
「まあまあ、トゲトゲ言葉は使わない使わない」
チキンを胃の腑の奥に全て送り込んだルナがほんわかと言った。
「あたしは態度をハッキリさせない奴が好きじゃないだけだ」
だが、そう言った後でまた事態をややこしくさせそうなセリフだと気付いた。
アグニシュカはこちらを恨めしそうに眺めてきている。
――あちゃあ。
心の底から怒っている訳ではないズデンカは参った。
「まあまあ、ウチのメイドは誰に対してもこんなやつでしてね」
ルナは気安く声を掛ける。
だが、アグニシュカはそもそもルナ自体を警戒しているらしい。
一応、知名度はあるのだが、ルナの著書の翻訳はまだヴィトカツイで進んでいないこともあって、知らなかったのだろう。
いや、知られているとしても警戒されないとは限らないし、本を読まない人種だってこの世の中にいるので、必ずしもそうとは言えないのだが。
話が上手いエルヴィラの恋人にしてはずいぶんと頑なに思えた。
「あれあれ、ご機嫌斜めかぁ……むしゃむしゃ」
ルナはそう言ってチキンに添えられてあったポテトを囓り始めた。
ズデンカはことごとく自分が円滑なコミュニケーションに向いていないことを思いしらされた。
「そっ、そうだぁ! アグニシュカさん。きっと疲れてるんですよ。きっ、緊張状態で長い旅路をしてこられたんです!」
冷や汗を流しながらスープを啜っていたカミーユが急に吃《ども》りながら声を荒げた。
「そうですね。少し、疲れたようです。私も苛立っていました」
反撥するかと思いきや、アグニシュカは素直に認めた。
「宿屋とか探して一休みされた方が良いですよ」
アグニシュカは自分の前に置かれたプレートに乗ったブラッドソーセージには手を付けずに立ち上がった。
「私も一緒に探しますね。このあたりの地理や言葉はちょっとわからないですけど!」
カミーユも急いで立ち上がり、歩き出した。
「ここらへんはヴィトカツイに近い地域なので土地勘もありますし、言葉もわかります」
アグニシュカは律儀に応じていた。
二人は店の外へ出ていった。
「良いのか? あいつらをそのままにして置いて」
ズデンカは焦った。
「良いのさ」
ルナは相変わらずだ。
「アグニシュカはいつもあんな感じなのか?」
ズデンカはエルヴィラに向き直って訊いた。
「私の前では笑ってくれますし、落ち着いているんですが、今はちょっと……何しろ、これまであまり多くの人と話すような生活じゃなかったものですから。私の場合各地の社交界で多くの人と話さなければならなかったので、自然と鍛えられましたが、あの娘は城の周りと、父親、私ぐらいで……」
「じゃあそのままにしておいたらまずいじゃねえか」
ズデンカは二人の後を追おうとした。
「いえ、エルヴィラは城に来る前、このあたりで暮らしていたことがあるんです。その点については大丈夫かと思います」
エルヴィラは丁寧に付け加えた。
「そうか、なら……ってルナ、どこへ行く!」
完全に食べ終わったルナが立ち上がって、店の奥の方へと歩き出していた。
ズデンカは床板を踏みならしながら、ずかずかとそこへ突進していった。
ルナは部屋の壁を前にして、注意深く眺めている。
「何を見てるんだ?」
ズデンカは訊いた。
「仮面さ」
ルナは答えた。
瞬時にズデンカは身構える。壁には不気味な表情を仮面が設置されていた。
赤ら顔で、鼻は異様に大きく、眼の部分に大きな孔《あな》が二つ開いている。
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