月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

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第一部

第五十話 三剣鬼(9)

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 髪の毛を伝い滴り落ちる鮮血を払い落としながら、オドラデクはとてとてとフランツの元へ歩いてきた。

「人間って不思議ですね。さっきまでいろいろ脳の中で考えてわめいていたのでしょうけど、息の根が止まればもう何もない。無、ただの無ですよ」

 血を吐きながらガクリと倒れる三剣鬼たちの遺骸を観察しながら、興味深そう
にオドラデクは言った。

「もっと早く助けろ」

 フランツは文句を付けた。

 だが同時に、とても安心していた。

 正直死への恐怖を感じていたからだ。

「とりあえず三人が技を披露するまでは生かしておきたかったんですよ。てへっ」

 オドラデクは笑った。

 フランツはもう言葉もなかった。

「我が行くべきだった」

 ファキイルは相変わらず表情を変えないが、なぜだか心配そうな様子が感じ取れた。

「ありがとう、その思いだけで十分だ」

 フランツは言った。

「あれあれ、フランツさん。実際に助けてあげたぼくにはお礼もないんですか?」

 オドラデクが身を乗り出した。

「お前のせいでこんな目に遭ったんだぞ!」

 フランツは怒気を滲ませて叫んだ。

「でも、いいじゃないですか。そのおかげで、ボリバルの分身をちゃんと始末できるでしょう?」

 オドラデクは奥を指差した。

 聴覚は残っているはずなので、この様子を訊いているはずだ。

 だが、ボリバルは何も言わず静かに踞っていた。

 もはや、正気を失っているのだろう。

 オドラデクは平気で三剣鬼の遺骸を漁っていた。

「あ、鍵! ありましたよ」

 たかだかと掲げながらオドラデクは鍵を振り回した。

 フランツは何も言わずそれを奪い取って、折へと近づき、鍵を上げた。

 ボリバルは怯えたような声にならない声を上げて、檻の隅の方へ移動する。

「面倒なんで、ぼくが串刺しにしてあげましょうか」

 オドラデクが言った。

「いや、俺がやる」

 フランツは檻に向かって声を掛けた。

「クリスティーネ・ボリバル。お前はその名前をしまっているかも知れないが。お前はクリスティーネ・ボリバルだ。その分身だった。俺は、お前を殺す。殺して楽にしてやる。この意味はわかるな?」

 ボリバルは相変わらず意味のわからない音を上げ続けていた。舌を抜かれているのだから、あたりまえだ。

 フランツはもう何も言わず、檻の中へ半ばは入り込み、ボリバルの肩を掴んで、無理に外へ引き摺りだした。

 苦痛の叫びが耳を劈《つんざ》く。

 フランツは薔薇王を振り、その頭を斬り落とした。

 たちまち黒い煙になって霧散していく。

「こいつの分身能力は厄介だ」

 フランツは自分の行為を正当化するように呟いた。

「いいんですよ。あなたは正しいことをしただけです」

 オドラデクは穏やかに言った。

「お前に言われたくない」

 オドラデクは立ち上がり、『薔薇王』を鞘に収めた。

「フランツ」

 ファキイルはフランツをただ静かに見詰めていた。

 フランツは視線を外して外へ向かって歩き出した。

「三剣鬼は確かに強かった」

 そして、静かに呟いた。

「へえ、あんなの簡単に殺せちゃいましたけどねえ」

 オドラデクも従う。

「それはお前が不意を突いたからだ。卑怯な行為だ。俺は剣と剣を交えて戦っていた」

 フランツは答えた。

「でも、そのままだったら死んじゃってたじゃないですかぁ」

「人は死ぬ。誰も命は一つしかない。どんな使い手だって寝込みを襲われたら死ぬし、思ってもいない方向から攻撃されたら死ぬ。死なないお前はわからないかも知れないがな」

 フランツはしんみりと語った。そして階段を注意しながら登る。

「何言ってるんですか。人は死ぬってぼくの受け売りでしょうがぁ」

 オドラデクは喚いた。

「滑らないように注意しろっ……と」

 フランツは大きく前へつんのめった。だが両手を突いて助かった。

「ぎゃはははははは! フランツさんったら不注意ですよぉ! って……すってーーーーん」

 といいながらオドラデクが倒れてくる。二人は縺れ合って階段を転がった。

 途中でファキイルが押さえてくれなかったらフランツはしたで頭を打って死んでいただろう。

「ほら、死はどこにだってある」

 フランツは言った。

「もう帰りましょ」

 オドラデクは面倒臭そうに答えた。

 フランツも従った。
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