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第四章
第四十六話
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グレアは全身の違和感で目を覚ました。
手足を縛られ、装備を奪われ、ラーラと並んで地面の上に転がされている。
前方から聞き馴染みのない話し声が聞こえてくる。
「流石は東洋で恐れられた究極の暗殺者『代理人』! 『代行者』連中とは全く違いますな。ほれ、これが報酬だ」
ケレム・ゲーレントがそう指示すると、奥から兵士が魔具と大量の金貨が入った袋を持って歩いて来る。
それを受け取ったのは全身に真っ黒な布をまとい、腰にサーベルを差した大柄な人物。
グレアたちを拘束してここまで連れ去り、その過程で「夜明けの旅団」を単騎で壊滅させた暗殺者。
「…確かに受け取った。契約はこの場において履行された。では失礼する」
「代理人」はそう言うと「影渡り」に似た魔法を使い、一瞬で目の前から消えた。
それを見て、かつてキリカと死闘を繰り広げた「魔王の卵」たちも「代理人」について知識がなくとも何かを感じた様だった。
「いやあ、あんなにも腕の良い仕事人を紹介して頂き、この度はどうもありがとうございました。それも手数料なしで。こんなことがあって本当によろしいんですか?」
「礼には及びません。私も好きでやっておりますから」
そう答えたのはローブに身を包んだ大柄な女性。
グレアは彼女にトロールの血が入っていることを一目で見抜き、デザ村の「忌み子」の話を想起した。
ユメリアがグレアたちに視線を向けた。その静かな殺気に二人は息を呑んだ。
「私も彼女たちに『要件』あるのです」
「ああ、そうでしたな」
ゲーレントも顔をこちらに向ける。
彼がゆっくり歩き出すにつれ、二人を囲んでいた兵士たちも武器を構えて近付いて来る。
「さて」
贅肉のたっぷり付いた足が飛び出し、無抵抗な少女二人を順に蹴り転がす。
「罪人どもよ、何故貴様らはここに連れてこられたか分かっているな」
周りにいる兵士たちに指示し二人を座らせると、今度は拳で何度も頬を殴る。
「貴様らは私の愛する息子を! 稀代の天才魔術師ジェテム・ゲーレントを! 殺したのだ!」
口から出た血液が打撃の度に地面や服に飛び散る。
本当は魔法を使って全員一網打尽にしたかった。だが虐待する群衆の後ろで夥しい量の魔力を全身から漏れ出させているトロールの魔法使いの存在が無視できなかった。
というのも、彼女はどうやら中・上級相当威力を持つ魔法をいつでも放てるよう準備してあるようだ。
拘束を解こうとすれば周りの兵士に、魔法を使おうとすればユメリアに首を刎ねられる。それは「疑似『回生』」や「獣化」しても同様。
そんな剣呑な状況に、甘んじて痛みを受け入れるほかなかった。
「ふん」
一通りいたぶった後、兵士たちに血に塗れた手袋を脱がせ、新しいものに代えさせてから彼は言う。
「それだけではない。貴様らは我が盟友、この世に得難き誠実な心を持つシーゾ・ハシレオス・レイホーンの命を奪い、国王陛下にさえ楯突いた。その罪の大きさと己の愚かさをその身を持って知るがいい」
ゲーレントが再び命じると、宝石によって無駄に煌びやかな装飾の施された剣を手に兵士が歩み出て、跪き主君に差し出す。
剣は兵士に支えられたままゆっくりと鞘から抜かれ、ゲーレントの肥満体をよろけさせる。
「おっとっと!」
彼は横転しかけて兵士に支えられた。
あまりに醜い処刑人の姿。グレアたちの頬を伝う涙は死への恐怖にではなく、これほど心も身体も腐敗した者によって命運を定められる事に対する屈辱と悔恨に対してであった。
兵士に支えてもらいながらやっとのことで剣を持ち上げる。
グレアたちは他の兵士によって頭を押さえつけられ、俯いた姿勢にされる。
「ごめんな嬢ちゃん…俺達もこんなことしたくねえんだけどさ…」
首が見えるよう後ろ髪を掻き分けながら兵士が耳元で零した。
「さぁその命を以て自らの罪を贖うのだ、罪人どもよ」
剣を高く掲げ、ゲーレントがグレアの真横に立つ。
「まずは貴様からだ。さあ、ゆくぞ」
次の瞬間、処刑の刃が力いっぱい振り下ろされる。
断末魔の刹那、二人はリスクを承知で魔法を発動した。
なにもせず死ぬよりは死を覚悟で抵抗した方がまだ可能性があると考えたのである。
しかしその時、どこからか飛ばされた凄まじい衝撃波がその場の全員を吹き飛ばす。
そして間髪入れずバランスを崩したままの敵兵たちとゲーレント、ユメリア、そして「魔王の卵」二人を縛る拘束具を、小型の火球「蟻の花火」が正確に撃ち抜く。
「…随分と無謀なことを」
何かしらの魔法を使って攻撃を防ぎながらユメリアが言う。
一瞬にして「処刑場」を解体したのは、もはや人の精神を失ったマギク。
「助かりました、マギク様」
その言葉に対する返答は無かったが、グレアとラーラも立ち上がり、ユメリアに対して戦闘態勢を取った。
手足を縛られ、装備を奪われ、ラーラと並んで地面の上に転がされている。
前方から聞き馴染みのない話し声が聞こえてくる。
「流石は東洋で恐れられた究極の暗殺者『代理人』! 『代行者』連中とは全く違いますな。ほれ、これが報酬だ」
ケレム・ゲーレントがそう指示すると、奥から兵士が魔具と大量の金貨が入った袋を持って歩いて来る。
それを受け取ったのは全身に真っ黒な布をまとい、腰にサーベルを差した大柄な人物。
グレアたちを拘束してここまで連れ去り、その過程で「夜明けの旅団」を単騎で壊滅させた暗殺者。
「…確かに受け取った。契約はこの場において履行された。では失礼する」
「代理人」はそう言うと「影渡り」に似た魔法を使い、一瞬で目の前から消えた。
それを見て、かつてキリカと死闘を繰り広げた「魔王の卵」たちも「代理人」について知識がなくとも何かを感じた様だった。
「いやあ、あんなにも腕の良い仕事人を紹介して頂き、この度はどうもありがとうございました。それも手数料なしで。こんなことがあって本当によろしいんですか?」
「礼には及びません。私も好きでやっておりますから」
そう答えたのはローブに身を包んだ大柄な女性。
グレアは彼女にトロールの血が入っていることを一目で見抜き、デザ村の「忌み子」の話を想起した。
ユメリアがグレアたちに視線を向けた。その静かな殺気に二人は息を呑んだ。
「私も彼女たちに『要件』あるのです」
「ああ、そうでしたな」
ゲーレントも顔をこちらに向ける。
彼がゆっくり歩き出すにつれ、二人を囲んでいた兵士たちも武器を構えて近付いて来る。
「さて」
贅肉のたっぷり付いた足が飛び出し、無抵抗な少女二人を順に蹴り転がす。
「罪人どもよ、何故貴様らはここに連れてこられたか分かっているな」
周りにいる兵士たちに指示し二人を座らせると、今度は拳で何度も頬を殴る。
「貴様らは私の愛する息子を! 稀代の天才魔術師ジェテム・ゲーレントを! 殺したのだ!」
口から出た血液が打撃の度に地面や服に飛び散る。
本当は魔法を使って全員一網打尽にしたかった。だが虐待する群衆の後ろで夥しい量の魔力を全身から漏れ出させているトロールの魔法使いの存在が無視できなかった。
というのも、彼女はどうやら中・上級相当威力を持つ魔法をいつでも放てるよう準備してあるようだ。
拘束を解こうとすれば周りの兵士に、魔法を使おうとすればユメリアに首を刎ねられる。それは「疑似『回生』」や「獣化」しても同様。
そんな剣呑な状況に、甘んじて痛みを受け入れるほかなかった。
「ふん」
一通りいたぶった後、兵士たちに血に塗れた手袋を脱がせ、新しいものに代えさせてから彼は言う。
「それだけではない。貴様らは我が盟友、この世に得難き誠実な心を持つシーゾ・ハシレオス・レイホーンの命を奪い、国王陛下にさえ楯突いた。その罪の大きさと己の愚かさをその身を持って知るがいい」
ゲーレントが再び命じると、宝石によって無駄に煌びやかな装飾の施された剣を手に兵士が歩み出て、跪き主君に差し出す。
剣は兵士に支えられたままゆっくりと鞘から抜かれ、ゲーレントの肥満体をよろけさせる。
「おっとっと!」
彼は横転しかけて兵士に支えられた。
あまりに醜い処刑人の姿。グレアたちの頬を伝う涙は死への恐怖にではなく、これほど心も身体も腐敗した者によって命運を定められる事に対する屈辱と悔恨に対してであった。
兵士に支えてもらいながらやっとのことで剣を持ち上げる。
グレアたちは他の兵士によって頭を押さえつけられ、俯いた姿勢にされる。
「ごめんな嬢ちゃん…俺達もこんなことしたくねえんだけどさ…」
首が見えるよう後ろ髪を掻き分けながら兵士が耳元で零した。
「さぁその命を以て自らの罪を贖うのだ、罪人どもよ」
剣を高く掲げ、ゲーレントがグレアの真横に立つ。
「まずは貴様からだ。さあ、ゆくぞ」
次の瞬間、処刑の刃が力いっぱい振り下ろされる。
断末魔の刹那、二人はリスクを承知で魔法を発動した。
なにもせず死ぬよりは死を覚悟で抵抗した方がまだ可能性があると考えたのである。
しかしその時、どこからか飛ばされた凄まじい衝撃波がその場の全員を吹き飛ばす。
そして間髪入れずバランスを崩したままの敵兵たちとゲーレント、ユメリア、そして「魔王の卵」二人を縛る拘束具を、小型の火球「蟻の花火」が正確に撃ち抜く。
「…随分と無謀なことを」
何かしらの魔法を使って攻撃を防ぎながらユメリアが言う。
一瞬にして「処刑場」を解体したのは、もはや人の精神を失ったマギク。
「助かりました、マギク様」
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