魔王メーカー

壱元

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第五章

第九話

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 城壁を守る門番は居なく、門は固く閉ざされていた。
グレアたちは短く言葉を交わした後、覚悟を決め、門を破壊して街の中へと入っていった。
城下町は静かだった。
市民たちの姿は一切見当たらない。
「みんなもう避難したんだろうか」
勇気と不安が綯い交ぜになったような面持ちでフェソロフォートは言った。
ワイバール王国が活動拠点の彼にとって、この町:カリバールは公私を問わず何度も訪れた、馴染みのある場所だった。
それに対し、彼の隣を歩くグレアは答えた。
「そうだと思いますよ」
彼女には確信があった。
「犯人」が年齢の割にずっと聡明で、弱者への配慮を欠かさず、無駄な犠牲を嫌う人物であるという確信が。
そんな中、風に乗ってかすかな怒声が響く。
煙が何本も上がっている城の方からだった。
覚悟は決めてきた。二人は馬車を安全なところに停めてから、城の方へと走って行った。
一方は正義感ゆえ、もう一方は責任感ゆえに。
 
 「風射フォリム」で身体を浮き上がらせ、窓から入る。
周囲を警戒しつつ、物音のする方へと歩みを進める。
廊下に転がる兵士の死体たちを踏み越え、城の中心部へと向かって行く。
階段を駆け上がり上階に足を踏み入れた刹那、けたたましい破壊音とともに黒い影が飛び出し、グレアたちの真横を通り過ぎる。
靡く金と紫の髪。
すれ違いざま、両者は驚きに目を見開き、視線を交差させた。
「ラーラ!」
「グレア様…?」
「危ないぞ、君たち!!」
次の瞬間、ラーラの後を追って、女性冒険者が高速で迫り来る。
グレアは咄嗟に状況を判断。彼女の邪魔にならぬよう脇に寄るとみせかけ、横から首に刃を入れた。
金プレート付きのネックレスと共に頭部が落ち、残った身体の方も数歩の後にバランスを失って倒れる。
「グレア! これはどういう…」
「グレア様、追っ手は他にも居ます。一旦付いてきてください!」
「わかりました!」
フェソロフォートの声を掻き消す「相方」の叫びに呼応し、グレアが走り出す。
フェソロフォートもまた、「置いて行かれまい」との一心で訳も分からぬまま「相方」に追従した。
「これはどういうことなんだい? さっきのは冒険者ではないのかい?」
「とにかく今は付いてきて」
真横を走るフェソロフォートの質問に、目もくれず答えた。
廊下を進み、大部屋に入っていく。
「伯爵殺し」たちは自らの城を攻めた過去のことを想起していた。
あの時のように敵も手強い。
大部屋にて対峙したのは、もう一人の「金級」冒険者。
先程の女性冒険者と共に城の警備として雇われ、その配置場所故に事件の発生に気付くのが遅れたことを悔やむ槍使い。
「…参ったな、一瞬で数的有利が逆転か。どこから湧きやがった」
「行きますよ。フェソロフォート様、ラーラ様」
三人は一斉に行動を開始する。
二方向から「駿馬」で迫る剣士。
槍使いはその長い間合いを活かし、大きく振り回して牽制する。
魔力を帯びた青白い軌道が描く弧を受け止めたのはグレア。
手早く「柳」で崩そうと試みるが、衝撃波で大きく吹き飛ばされる。
生じた隙を見逃さず、突きの構えのまま一気に距離を詰める。
フェソロフォートは二人の間に割って立ち、剣で攻撃を受け止めた。
その瞬間に刃はバラバラに砕け、そのまま肩を大きく抉られて倒れる。
だが十分だった。
グレアを守り、ラーラの攻撃を許すのには。
反射的に魔力を全身に充填し、「対魔法使い用」の盾をその身に宿す。
だが、「闇」魔法で出来たラーラの「黒き手」はそれごと対象を破り捨てた。
グレアは意識を失っているフェソロフォートの方へ急いで駆け寄り、その全身に魔力を注ぎ込んだ。

 フェソロフォートが目を覚ます。
「あっ、グレア…!」
状況を思い出して一気に頭が冴えた。辺りを見回した彼が目にした光景は、彼の想定した最悪な「惨状」よりもある意味ではさらに異様なものだった。
先程の大部屋を超える広い空間に大量の兵士の亡骸が散らばり、同時に生きて立っている兵士の姿も見える。
彼らは仲間の死を気にかけている様子はない。
王座の横に控え、そしてその王座にはグレアが座っていた。
なんと彼女の足元で跪いているのは…どうやらワイバール王国国王、その人のようだった。
「グレア様」
「王だった者」の真横に誇らしげに立つラーラは笑った。
「これが私から貴女への恩返しです」
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