魔王メーカー

壱元

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第一章

第十六話

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 アルクは興奮気味に、私の識字の出処を尋ねた。

私は彼の熱血さに少々驚きながらも、「わからない」と答えた。

「誰かから教えてもらったとか、子供の頃に本を読んだことがあるとか、そういうのじゃないのか?」

「…違うと思う。もしそれが事実であったとしても、少なくとも、記憶にはないんだ」

彼は私の言葉を聞くと、腕を組み、目を閉じ、眉間にシワを寄せた。

彼がずっと沈黙しているのを見て、私は徐々に不安に駆られていった。

「あ!」

アルクは遂に何か考えついたようだった。

「グレア、お前がいつも使ってる言葉も、偶に難しい時があるよな?」

「そうかな?」

「ああ」

アルクは会話の帰着点をどこに見ているのだろう? 不思議に思いながらも、私は彼の流れに身を委ねていた。

「本の中にあるのも難しい言葉だ。どういう理屈かまでは分かんねえけどよ、それが関係あるんじゃね?」

彼自らの指摘通り、論理としてはまだ不完全。

だが、私自身もどこかに信憑性を感じていた。

「お前がいつも使う言葉ってどこで教わったんだ? …それも気付いたら使えるようになってたのか?」

「…それもわかんないや。『文字』に対する認識と同じ感じ」

「なるほどな…」

問答の後、彼はまた考えを巡らせていた。

だが、突如慌てて本を抱え出した。

「そろそろみんな起きる時間だ。帰ろうぜ」

一旦今日の別れを告げ、私達は各々帰宅した。


 私の言葉、私の能力、私の外見…

両親は、特別難しい語彙を使わない。

アルクの家のように豊かな訳ではないから、家に本がある訳でもないし、文字の読み方を誰かに教わったこともない筈だ。

村人たちの反応を見るに、魔法というのも本来普通のひとには扱えないらしい。

それに、ツンと吊り上がった黄金の瞳、細い鼻、白い肌と黄金色のウェーブの掛かった髪。

二人とも口に出すことは無かったが、お父さんにも、お母さんにも全く似ていない。

薄々気付いていたが、私はきっと、知らない「誰か」の子だ。

きっと、魔法使いの子だろう。

どういう経緯かは知らないが、二人が他の村人が知らぬ間にその人から託されたのだろう。

 私は一日中、自分自身について考えてばかりいた。

蝋燭を消し、二人が寝息を立て始めても、脳の疲れに反して眠れない。

私はぼんやり星空を見ていた。

左右には厚い雲が広がっていたが、正面の空は不思議な程に雲ひとつなく、澄み渡っていた。

我ながら奇天烈な空想だが…まるで、天空から地上への「覗き穴」のように思ったのであった。


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