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第二章 前編
第八話
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「おはようございます」
初めて聞くその声は思いの外高く、柔らかく、幼気だったが、それがかえって不釣り合いに思えた。
深淵から切り取った闇のように真っ黒なローブ、相変わらず不自然に盛り上がっている頭部、身長も私より高い。
「本日の魔法の試験は私が担当です。試験は街を出て西の森で行いますので、まずは馬に乗りましょうか」
「…はい」
彼女は馬の頭を撫でた。馬が地面に座り込み、容易に乗ることが出来た。
「秘密のラーラ」が手綱を握ると、馬は立ち上がり、ゆっくりと走り出した。
「しっかり掴まっていてくださいね」
私は指示に従うつもりだった。
しかし、そこで気付いてしまった。
黒いモヤのような物が、微かにだが絶えず彼女の身体から発生しているのだ。
私は再び恐ろしくなった。
だがそうしても居られないので、意を決して手を伸ばした。
馬が城壁外の田園地帯を颯爽と駆けている時でさえ、私は、実は本物の闇で出来ている彼女の身体を手がすり抜けてしまい、落馬死することを本気で心配していた。
だがそんな事は杞憂だった。
私達は下馬し、馬は森の入口の樹に繋いでおいた。
森の中には、意図的に作られたと思われる空間があった。
木が根こそぎ消失していて、十分に動き回れるだけの広さがあった。
「グレア様には、私と模擬戦闘を行って頂きます」
「…存じています」
「でしたら、お話が早いですね」
「秘密のラーラ」は緑の闘技場の中央に立つと、こちらを振り返った。
「これは魔法試験ですので、私は魔法を主体に戦い、グレア様にもそうして頂けると助かりますが、必要ならば物理攻撃を組み合わせても構いません。貴女はそれがお得意だと聞いています」
「どういうことですか?」
私は大いに戸惑った。
「…バセリアが言っていましたよ。貴女は力が強くて身体が頑丈だと。故に治療が不要とみなして帰還し、閣下にご叱責賜ったことで治療に戻ったらしいのです。…彼女は貴女には話をしなかったのですね」
「いえ、全く…」
引きこもりがちだった私に不釣り合いな二つの能力。
「回復能力」よりも、少し、前に…そのもう片方もどこかで知っていたように思う。
…アルクが死んだ時の記憶がやけに曖昧だ。恐らくその周辺で何かあったのだろう。
興味深いが、今は今の事を考えよう。
「グレア様、他にも何か不十分な事がありましたら遠慮なくお申し付けください。私の可能な範囲で補足致します」
「大丈夫です。ですので、試験を始めて下さい」
初めて聞くその声は思いの外高く、柔らかく、幼気だったが、それがかえって不釣り合いに思えた。
深淵から切り取った闇のように真っ黒なローブ、相変わらず不自然に盛り上がっている頭部、身長も私より高い。
「本日の魔法の試験は私が担当です。試験は街を出て西の森で行いますので、まずは馬に乗りましょうか」
「…はい」
彼女は馬の頭を撫でた。馬が地面に座り込み、容易に乗ることが出来た。
「秘密のラーラ」が手綱を握ると、馬は立ち上がり、ゆっくりと走り出した。
「しっかり掴まっていてくださいね」
私は指示に従うつもりだった。
しかし、そこで気付いてしまった。
黒いモヤのような物が、微かにだが絶えず彼女の身体から発生しているのだ。
私は再び恐ろしくなった。
だがそうしても居られないので、意を決して手を伸ばした。
馬が城壁外の田園地帯を颯爽と駆けている時でさえ、私は、実は本物の闇で出来ている彼女の身体を手がすり抜けてしまい、落馬死することを本気で心配していた。
だがそんな事は杞憂だった。
私達は下馬し、馬は森の入口の樹に繋いでおいた。
森の中には、意図的に作られたと思われる空間があった。
木が根こそぎ消失していて、十分に動き回れるだけの広さがあった。
「グレア様には、私と模擬戦闘を行って頂きます」
「…存じています」
「でしたら、お話が早いですね」
「秘密のラーラ」は緑の闘技場の中央に立つと、こちらを振り返った。
「これは魔法試験ですので、私は魔法を主体に戦い、グレア様にもそうして頂けると助かりますが、必要ならば物理攻撃を組み合わせても構いません。貴女はそれがお得意だと聞いています」
「どういうことですか?」
私は大いに戸惑った。
「…バセリアが言っていましたよ。貴女は力が強くて身体が頑丈だと。故に治療が不要とみなして帰還し、閣下にご叱責賜ったことで治療に戻ったらしいのです。…彼女は貴女には話をしなかったのですね」
「いえ、全く…」
引きこもりがちだった私に不釣り合いな二つの能力。
「回復能力」よりも、少し、前に…そのもう片方もどこかで知っていたように思う。
…アルクが死んだ時の記憶がやけに曖昧だ。恐らくその周辺で何かあったのだろう。
興味深いが、今は今の事を考えよう。
「グレア様、他にも何か不十分な事がありましたら遠慮なくお申し付けください。私の可能な範囲で補足致します」
「大丈夫です。ですので、試験を始めて下さい」
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