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第二章 前編
第二十九話
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作戦前日は休みだ。
朝食後、与えられた条件に身を委ね、自室でぐーたらしていると戸が叩かれた。
開かれた扉の向こうには黒布の使者。
「せっかくの休日なんです。ただ寝ているのも勿体ないですから、疲れない範囲で何かしましょうよ」
「例えば?」
「図書館とか」
元々学習に対する興味は強かったので、彼女の提案に乗ることにした。
背の高い木棚がずらりと並び、色とりどりの背表紙を持つ本が各々の枠に所狭しと配列されている。
私には、蔓籠に未知の風味を持つ多様な南国の果実が盛られた光景が連想された。
図書館は一般開放されているだけあって、椅子に座って読書している数人の多くは役人ではないようだった。
「何にしますか? 一緒に読みましょうよ」
「じゃあ…」
私は私達の「汎人語」に対する「異種言語」についての本を持ち出してきた。
椅子を近づけ、二人肩を寄せ合うような様子で読みだした。
本は「言語」という存在全般についての基本情報の説明から始まり、相異なる三つの言語の文法、語彙、発音について「汎人語」と比較する形で詳細に書かれていた。
基本的に、この世界のあらゆる種族に固有の言語がある。
殊に人間に関して言えば、「汎人語」の普及前まで「民族」ごとに異なる言語を話していた上、普及後の現在も場所によって固有の訛りが存在しているというややこしさだ。
ここで基準となった「汎人語」はその起源である大陸中央で話されているものらしい。
取り上げられた「異種言語」は、
・オーク、ゴブリン、トロールの共通語である「亜人語」
・人間の中の希少種であるエルフ族が自分たちの中で使う「森人語」
・人間の中の希少種であるドワーフ族が自分たちの中で使う「山人語」
私はトロールへの興味から、というよりも他の二択への不興味から「亜人語」を選んだ。
散見される解読不可能なレトリックについても、ラーラの助けで乗り越えることができ、読書開始から三時間後、私はごく簡単な「亜人語」を習得した。
その後も休憩を挟みながら魔導書やら何やらを読んでいると、一日が終わってしまった。
「すごい集中力でしたね。疲れていませんか?」
「案外楽しくて。でもちょっと疲れたかも」
そうだ、と私は思い立った。
私はラーラに言わなければならないことがあった。
「今日は、私を連れ出してくれてありがとうございました。ラーラ様のお陰で楽しみが出来ました。あと、私が読書に没頭できたのは、ラーラ様が隣で一緒に読んでくれていたからですよ」
「それはそれは」と彼女は照れた。
「どういたしまして。明日の戦いが終わったら、また一緒に読みましょうね」
「はい」
かくして、決戦前夜、私達は別れた。
朝食後、与えられた条件に身を委ね、自室でぐーたらしていると戸が叩かれた。
開かれた扉の向こうには黒布の使者。
「せっかくの休日なんです。ただ寝ているのも勿体ないですから、疲れない範囲で何かしましょうよ」
「例えば?」
「図書館とか」
元々学習に対する興味は強かったので、彼女の提案に乗ることにした。
背の高い木棚がずらりと並び、色とりどりの背表紙を持つ本が各々の枠に所狭しと配列されている。
私には、蔓籠に未知の風味を持つ多様な南国の果実が盛られた光景が連想された。
図書館は一般開放されているだけあって、椅子に座って読書している数人の多くは役人ではないようだった。
「何にしますか? 一緒に読みましょうよ」
「じゃあ…」
私は私達の「汎人語」に対する「異種言語」についての本を持ち出してきた。
椅子を近づけ、二人肩を寄せ合うような様子で読みだした。
本は「言語」という存在全般についての基本情報の説明から始まり、相異なる三つの言語の文法、語彙、発音について「汎人語」と比較する形で詳細に書かれていた。
基本的に、この世界のあらゆる種族に固有の言語がある。
殊に人間に関して言えば、「汎人語」の普及前まで「民族」ごとに異なる言語を話していた上、普及後の現在も場所によって固有の訛りが存在しているというややこしさだ。
ここで基準となった「汎人語」はその起源である大陸中央で話されているものらしい。
取り上げられた「異種言語」は、
・オーク、ゴブリン、トロールの共通語である「亜人語」
・人間の中の希少種であるエルフ族が自分たちの中で使う「森人語」
・人間の中の希少種であるドワーフ族が自分たちの中で使う「山人語」
私はトロールへの興味から、というよりも他の二択への不興味から「亜人語」を選んだ。
散見される解読不可能なレトリックについても、ラーラの助けで乗り越えることができ、読書開始から三時間後、私はごく簡単な「亜人語」を習得した。
その後も休憩を挟みながら魔導書やら何やらを読んでいると、一日が終わってしまった。
「すごい集中力でしたね。疲れていませんか?」
「案外楽しくて。でもちょっと疲れたかも」
そうだ、と私は思い立った。
私はラーラに言わなければならないことがあった。
「今日は、私を連れ出してくれてありがとうございました。ラーラ様のお陰で楽しみが出来ました。あと、私が読書に没頭できたのは、ラーラ様が隣で一緒に読んでくれていたからですよ」
「それはそれは」と彼女は照れた。
「どういたしまして。明日の戦いが終わったら、また一緒に読みましょうね」
「はい」
かくして、決戦前夜、私達は別れた。
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