魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
66 / 202
第二章 後編

第三話

しおりを挟む
「どうして…そう思ったのですか?」

私は彼女の顔を見ることができなかった。

魚の小骨を一本一本取り除くように、言葉を選びながら慎重に胸中に秘めた思いを陳述した。

「この一日、城下町を見て回って、すごく楽しかったです。美しい町並み、初めて感じる味、明るくて親切な人々…城下町には魅力が溢れています。ラーラ様は、その城下町を焼き払うと仰っていました。『魔王』としては妥当な判断だと思います。でも、私には耐えられません」この一日、町の至る所で、ラーラは幾度も笑顔を見せ、私の心を揺さぶった。

彼女にも理解出来るはずだ。

「この世界に対しても同じです。この世界にはまだ見ぬ美しい物や人が溢れているはずです。それに、考えてみれば、罪の無い人、私達と同じ『被害者』もこの世界には沢山居るはずです。その人達に対する攻撃は、世界の不条理に対する復讐ではなく、その不条理の側からの、一方的な虐待だと気付いたんです。私には彼らを傷付けることは出来ません。自分を傷付けるのと同義なのです。ですから、私としては、初代の『魔王』とは違う、新しいやり方でこの世界を変えたいのです」

私は一息置いてから、懇願した。

「ですから、どうかお願いします」

暫しの間、沈黙が流れた。

だが私には、その間は永遠にも錯覚された。

鼓動は高鳴り、緊張はピーク。

その内、ラーラがベッドから降り、こちらに歩いて来た。

私は思わず目を閉じた。

…だが次の瞬間、不吉な予想に反して、私は頭頂部に心地よい感触を覚えた。

「よしよし」

柔らかな手、穏健な声色。

私は恐る恐る目を開けた。

「よく、勇気を持って話してくれましたね」

「…え?」

彼女は私の前にしゃがみ、下から顔を覗き込んだ。

その表情はホッとするほど温和であった。

「もしかして私が怒っていると思っていたのですか?」

「はい。正直な所…」

「まあ、私には魔物の血が入っていますし、計画を考えたのは私ですし、協力を誓い合った関係ですし、そう思われても仕方がないですね。でも、私は全く怒っていませんよ。…魔物の血が入っていると言っても、同族に対する愛情はありますし、自分の作戦の過激さには気付いていました。あと、私は貴女を独立した精神をもつ一人の人間として尊重していますし、『魔王』になる為に必要な人ですから、喜んで要望に応じますよ」

何を勘違いしていたのだろうか。

私はやってはならないことをした。

ラーラは冷酷な「魔王」である以前に、一人の、瑞々しい心を秘めた「人間」だったのだ。

「ごめんなさい」

私は、私自身と彼女を襲ったのと同じ、分別のない不条理の立場から、心底より謝罪した。

彼女は再び私の頭を撫で、「気にしなくていいですよ」と言ってくれた。

     時間が経って落ち着いてから、彼女は話しかけてきた。

「何か、貴女に考えはありますか?」

「そうですね…」

私は己の理想を語った。

「弱者の国」を作りたいと。

運命の悪戯にその人生を狂わされつつも、懸命に生きようと傷だらけの肢体で藻掻く「強き弱者」、確固たる人生哲学を持ち、工夫の中で運命に抗する「賢き弱者」、彼らが報われる約束の国を、この地上に建造したいと。

「なるほど。本当に興味深いですね」

彼女は心底楽しげに笑った。

その目の中には、少しばかりの慈愛も含まれていたように思う。

「それで、今後の計画は?」

「基本的に以前の物と変わりませんが、城下町には手を出さず、彼らには伯爵の真実を暴露した上で、代表者の選出を行ってもらい、皆が納得のいくような自治をしてもらいたいと思います。それが終わったら、ケンダル王国を落としに行きます。『悪名』に関してはこれで十分でしょう。その後は『魔王』として各地を圧政者を排除しつつ支配下に置き、それらを集めて理想の国とします。いかがでしょう?」

「良いですね。その計画、乗りました」

計画には修正が加えられ、「魔王」はただ冷酷な王ではなくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...