魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第十二話

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    一緒にお風呂に入る、というのはバセリアとの交流を通して得たコミュニケーション手段の一つだった。

心休まりながらの裸の付き合いは、人を真っ直ぐにさせる。私に気を遣ってくれているラーラから、彼女の悩みの種を聞き出すには持ってこいだと考えたのだ。

但し、理由はそれだけではない。

この1ヶ月以上の間、彼女とはほとんど話していない。

語りたい事、聞きたい事が山ほどあるのだ。

それに何より、誰よりも大切なラーラと一緒に、こういう風になってみたかったのだ。

     

     着替え一式を抱えて部屋に入ると、ラーラは既に邪魔なブーツとローブを脱いで、素の姿になっていた。

だが、緊張した様子のままベッドの上に鎮座していた。

「どうしたんですか?」

「い、いや…何でもありません…」

「じゃあ、着替えを用意しちゃいましょうよ」

「そうですね…」

彼女は箪笥チェストを開け、渋々といった感じで服を用意し始めた。

私はその間に魔法で湯船に水を張り、同じく魔法で薪に着火し、石鹸を入れ、風呂を沸かしておいた。

暫くしてやってきた彼女は、服を畳んで浴室の前に置いたが、またそこで動きを止めてしまった。

「もうお風呂は沸いてますから、入っちゃいましょうよ」

「…そうですね」

私が服を脱ぎ始めると、ラーラも少し遅れて続いた。

その為、浴槽にも私が一足先に入ることになった。

二人で入ると浴槽は小さかった。

「丁度いい湯加減ですね」

「はい…」

すぐ隣に座るラーラは、恥ずかしいのか、ずっと目を逸らしていた。

「折角一緒にお風呂に入ったんです。身体、洗ってあげますよ」

「いいんですよ。自分で洗えますから」

「こんなに狭い中、二人で入って、それで手を動かして各々洗うのも変じゃないですか?   それに、暫く会えなかった分、私だって貴方と触れ合いたいんです」

私がそう言うと、ラーラの目が僅かに大きく見開かれた。

「…そういうことなら、その…お願いします」

相変わらず目を逸らしたままではあったが、彼女はこちらに身を預けた。

    私は彼女の小さくて柔らかな身体を丁寧に洗いながら、バセリアとの訓練がどのようなものであったのか話した。

「なるほど。だいぶ上達したのですね。流石私の弟子です」

もう緊張は解けてきたようで、ラーラは楽しげだった。

話が一段落したので、彼女の身体の洗浄を終えようと、私が最後、彼女のお尻に手を伸ばした時、奇妙な感覚がした。

「あれ?」

フサフサとしたそれを掴んで持ち上げると、彼女は身体をびくんと跳ねさせた。

髪の毛と同じ紫色の短い尻尾だった。

「え?   尻尾!?」 

「…そうです。変…ですよね?」

「いや、変じゃないです。かわいいです」

「…そうですか?    …それなら嬉しいのですが」

今の彼女の反応を見るに、あんなに恥ずかしがっていたのはこの為でもあるのだろう。

だが、本当に可愛らしい尻尾だった。

彼女は尻尾を動かし、私の掌から抜け出すと、身体を回転して私と向き合った。

「ほら、今度は私が貴女を洗う番ですよ」

    今度は私がラーラに洗われ、同時に聞き手に回った。

彼女は習得した魔法、訓練中に見つけた珍しい生き物、図書館で調べた様々な物事など、宝石箱の中身をばら撒くように語ってくれ、それを楽しんでいるようだった。

だが最後に、

「貴女が居なくて、本当は寂しかったのですよ。少しくらい会いに来てくれれば良かったのに」

と悲しげに呟いた。

この瞬間、私は全てを直感的に理解出来た。

私は彼女の手を握り、ここまでとっておいた話題、彼女にとっての朗報をここぞとばかりに伝えた。

「明日からは、またラーラ様と一緒ですよ」

「え?」

「先程、剣術の訓練が一段落したと言いましたよね?   ですので、バセリアに頼んで、魔法の訓練に復帰することにしたんです」

「…そっか」

ラーラは安心したように笑った。

「そうなんですね」

私も釣られて笑顔になり、笑顔の二人はそのまま風呂から上がった。

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