魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
106 / 202
第三章

第二話

しおりを挟む
 一日かけて、名も知らぬ大きな町に辿り着いた。

宿を取って荷物を置いてから、ぶらり散策に出掛けた。

薄橙色の屋根が特徴的な街並みは落ち着きがあり、そこら辺を歩いている人にも同様に気品があった。

「でも、ジャサー城に比べるとちょっと寂しいですね」

「じゃあ、もっと活気のある所を探してみましょうか」

私達は魔法使いと戦士の二人組を尾行した。

彼らは手慣れた様子で酒場に入っていった。

顔を見合わせて頷き、私達も突入した。

中は想像よりも広く、昼とは思えないほど多くの客が居て、小さな樽の椅子に乗って酒と会話を嗜んでいた。

客層は幅広かったが、彼らには共通点があった。

鎧や剣、或いはローブや杖で武装しているのだ。

そう、ここは「冒険者」や「賞金稼ぎ」、「傭兵」と呼ばれる者達の溜まり場であり、「冒険者協会」の管轄場所なのである。

「せっかくだし、ここで腹ごしらえでもしますか?」

ラーラは楽しげに言った。

私達は白パンと茹で野菜のサラダ、そして羊肉の串焼きを注文し、嬉々として料理の到着を待っていた。すると、顔の赤い男性戦士が話しかけてきた。

「嬢ちゃんたち、ここは子ども食堂じゃねえぞ?」

「いえ、私達はこう見えても貴男あなたと同業ですから」

ラーラが答えると、相手は目を丸くした。

「はーすげえな。こんなちっちぇのに、戦えるってのか」

私たちは彼としばらく雑談した。

そのうち料理も次々配膳され、串肉片手に盛り上がった。

宴もたけなわ。そんな最中のこと。

「手配書の追加でーす!」

店員は声を響かせ、店の奥にあり、全席誰からも見える巨大な掲示板の「賞金首」のコーナーに、二枚の手配書が新たに張り出された。

それを見た私達は、目を見開き、未だ肉が刺さった串を皿に食べ残したまま、お金を置いて一目散に逃げ出した。


「まさか、こんなに情報が出回るのが早いなんて」

宿屋のベッドに座りながら、私たちは頭を抱えていた。

張り出された手配書には、詳細情報や賞金の他に似顔絵が大きく載っていた。

それが誰なのか、遠くからでもはっきりと認識できた。

私達二人はこのジャサー地方の主を討った国賊として、早くも賞金を懸けられているのだ。

「さて、王都への旅路で私達は多くの村や町に寄ることになります。どうやって素性を隠すか、貴女ならお分かりですね?」

「はい」

絵の中の私達は、片方が素顔を晒し、もう片方は黒い布で隠していた。

「つまり、ラーラ様は黒ローブに角に背高ブーツの『秘密のラーラ』としての姿、私は姿を誤魔化していない『近衛兵グレア』としての姿で認知されている可能性が高いということです」

「そうです。ですから、今や角のない私が姿を晒してブーツとローブを脱ぎ、グレア様が顔や髪を隠してシルエットも変えれば、彼らにとって私たちの正体に気付くことは難しくなるでしょう」

私達は服屋、靴屋に出掛け、服装を改めた。

ラーラは灰色のドレスに着替えて皮のブーツを履き、私は自分の体格に合った丈の黒いローブに身を包んだ。

装いを変えると気分も変わる。

印象ががらりと変わったラーラを見ながら、新たな旅の開幕を実感した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...