127 / 202
第三章
第二十二話 前編
しおりを挟む
敵の軍勢は真っ直ぐジャサー城に向かっていた。
木に登ったまま望遠鏡で見てみると、敵の軍勢は前から順に、歩兵、弓兵、魔法使いの部隊で構成されていて、歩兵・弓兵部隊の横には騎兵部隊が、魔法使い部隊の横には数台のカタパルトがついている。それに、規模も大きい。
ジャサー城の方からも同じように軍勢が出てくる。
しかし、こちらに魔法使いとカタパルトはなく、人数も相手の四分の一にさえ届かないようだった。
普通に戦えば勝ち目はない。
両軍が足を止め、対面する。
明らかな戦力の差にも関わらず、相手方は律儀にも、代表者を出してきた。
さすがにここまで離れていると音は聞こえないし、読唇も出来ないが、この状況で相手方が大体何を言っているかは推察できる。
「戦いたくなければ、大人しく軍門に下り、城を明け渡せ」
ジャサー側の将軍は首を力強く横に振った。
代表者は引っ込んでいき、両軍は武器を構える。
その時だ。
何者かが森の方から馬に乗ってクリロン軍の後ろに走って来る。
その人物は下馬して剣を抜くと、その先端に魔力を溜める。
敵方の魔法使いが危険性にいち早く気付いて攻撃を仕掛けようとするが、もう遅い。
剣の先端から赤色の光線が飛び出し、敵軍兵士数千人を薙ぎ払い、一瞬で真っ二つにする。
私の新技、「光槍」を切っ先から放つ「紅い光刃」。
私が魔法を使った時、ジャサー軍最前列の兵士たちは、人の背丈ほどもある大盾を構えていた。
しかし、その素材は鉄ではない。
木で骨組みを作った後、その表面に鏡を貼り付けてあるだけの構造。
矢が飛んで来たら、身を守るのに役に立たないどころか、割れて危ない代物だ。
だが、私達はこれを数日間で大量生産した。
その理由は何か?
「障害物」を全て切断してしまった光線は真っ直ぐその向こうーーつまりジャサー軍兵士の方へ向かっていく。
そして鏡が光線を反射し、跳ね返った光線は、先程の攻撃を運よく生き残った敵兵たちに逆方向から追い打ちを掛ける。
地面は死体に覆われ、カタパルトは切断されて倒れ、生きている者を押しつぶす。
クリロン軍全体は大混乱となり、構成はぐちゃぐちゃ、人数は四分の一程にまで減った。
しかし、そんな中、私の光線が途絶える。
というより、魔法全体が使えなくなったような感覚。
先日の「銀級」パーティとの戦いでラーラが食らった、「魔法を禁止する魔法」。
城の図書館でその名前を初めて知った。「沈黙」だ。
その「沈黙」を私に掛けてきたのは、頭から血を流した一人の男性魔法使い。
「今だッ! やれぇ!!」
彼の声に応えるように、斧を持った歩兵が突っ込んでくる。
私は剣でその攻撃を受け止めた。
だが、予想外なその一撃の重さに体勢が崩れる。
その隙をついて他の魔法使いが「中火球」を飛ばしてくる。
私は自分から地面に倒れ込んでそれを回避し、歩兵の斧による追撃も地面を転がって何とか避ける。
素早く立ち上がり、「駿馬」で歩兵に近付くと、斧を振り下ろされる前に懐に入り込み、「隼斬り」で首を刎ねる。
追加の「中火球」を回避しつつ、それを放った魔法使いに「駿馬」で接近し、次の魔法を打たれる前に仕留める。
さらに「沈黙」を使ってきた魔法使いにも接近しようとした時、別の兵士が急接近し、私の「脛を狙って」斬りつけてきた。
私はそれを辛うじて防ぐと、地面を蹴って距離を取った。
その時、相手の顔を見て驚いた。
相手も私と目が合い、驚いたような表情を浮かべた。
「グレ…ア…さん?」
夜の湖のような深青色の、ところどころ跳ねた長い髪と水色の吊り目が特徴的な美少年。
かつて一緒にクリロン城下町を歩いたり、技術を交換し合った、「乾坤流」のクオーテだった。
木に登ったまま望遠鏡で見てみると、敵の軍勢は前から順に、歩兵、弓兵、魔法使いの部隊で構成されていて、歩兵・弓兵部隊の横には騎兵部隊が、魔法使い部隊の横には数台のカタパルトがついている。それに、規模も大きい。
ジャサー城の方からも同じように軍勢が出てくる。
しかし、こちらに魔法使いとカタパルトはなく、人数も相手の四分の一にさえ届かないようだった。
普通に戦えば勝ち目はない。
両軍が足を止め、対面する。
明らかな戦力の差にも関わらず、相手方は律儀にも、代表者を出してきた。
さすがにここまで離れていると音は聞こえないし、読唇も出来ないが、この状況で相手方が大体何を言っているかは推察できる。
「戦いたくなければ、大人しく軍門に下り、城を明け渡せ」
ジャサー側の将軍は首を力強く横に振った。
代表者は引っ込んでいき、両軍は武器を構える。
その時だ。
何者かが森の方から馬に乗ってクリロン軍の後ろに走って来る。
その人物は下馬して剣を抜くと、その先端に魔力を溜める。
敵方の魔法使いが危険性にいち早く気付いて攻撃を仕掛けようとするが、もう遅い。
剣の先端から赤色の光線が飛び出し、敵軍兵士数千人を薙ぎ払い、一瞬で真っ二つにする。
私の新技、「光槍」を切っ先から放つ「紅い光刃」。
私が魔法を使った時、ジャサー軍最前列の兵士たちは、人の背丈ほどもある大盾を構えていた。
しかし、その素材は鉄ではない。
木で骨組みを作った後、その表面に鏡を貼り付けてあるだけの構造。
矢が飛んで来たら、身を守るのに役に立たないどころか、割れて危ない代物だ。
だが、私達はこれを数日間で大量生産した。
その理由は何か?
「障害物」を全て切断してしまった光線は真っ直ぐその向こうーーつまりジャサー軍兵士の方へ向かっていく。
そして鏡が光線を反射し、跳ね返った光線は、先程の攻撃を運よく生き残った敵兵たちに逆方向から追い打ちを掛ける。
地面は死体に覆われ、カタパルトは切断されて倒れ、生きている者を押しつぶす。
クリロン軍全体は大混乱となり、構成はぐちゃぐちゃ、人数は四分の一程にまで減った。
しかし、そんな中、私の光線が途絶える。
というより、魔法全体が使えなくなったような感覚。
先日の「銀級」パーティとの戦いでラーラが食らった、「魔法を禁止する魔法」。
城の図書館でその名前を初めて知った。「沈黙」だ。
その「沈黙」を私に掛けてきたのは、頭から血を流した一人の男性魔法使い。
「今だッ! やれぇ!!」
彼の声に応えるように、斧を持った歩兵が突っ込んでくる。
私は剣でその攻撃を受け止めた。
だが、予想外なその一撃の重さに体勢が崩れる。
その隙をついて他の魔法使いが「中火球」を飛ばしてくる。
私は自分から地面に倒れ込んでそれを回避し、歩兵の斧による追撃も地面を転がって何とか避ける。
素早く立ち上がり、「駿馬」で歩兵に近付くと、斧を振り下ろされる前に懐に入り込み、「隼斬り」で首を刎ねる。
追加の「中火球」を回避しつつ、それを放った魔法使いに「駿馬」で接近し、次の魔法を打たれる前に仕留める。
さらに「沈黙」を使ってきた魔法使いにも接近しようとした時、別の兵士が急接近し、私の「脛を狙って」斬りつけてきた。
私はそれを辛うじて防ぐと、地面を蹴って距離を取った。
その時、相手の顔を見て驚いた。
相手も私と目が合い、驚いたような表情を浮かべた。
「グレ…ア…さん?」
夜の湖のような深青色の、ところどころ跳ねた長い髪と水色の吊り目が特徴的な美少年。
かつて一緒にクリロン城下町を歩いたり、技術を交換し合った、「乾坤流」のクオーテだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる